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第3話
ギルドからの帰り道、大通りの方に人垣ができていた。

「さぁ、本日最後の商品は虎獣人の娘だ。
 こいつは少々訳ありでね、金貨2枚でどうでしょう!」
どうやら奴隷商のようだ。
この世界での奴隷は純粋に労働力や戦闘力としてではなく、一種のステータスをあらわすアクセサリーのような扱いもされる。
良い奴隷を持つものは周りからも尊敬されるのだ。
その為、貴族でなくてもある程度の金持ちならば奴隷を購入する。
この大通りは、貴族たちは住んでいないがそれなりの大きさの商店が並ぶ場所にあるし、冒険者ギルドも近い。
おそらくそういった奴らをターゲットにして商売をしているんだろう。

周りがざわめく、金貨2枚は約200万円ほどだ。
ただ生活する上でなら大金だが奴隷の値段としては破格に安い。下手をすれば相場の1/10以下だ。
周りの者たちもそう思ったのだろう

「訳ありってどういうことだよ?」

「こいつは、『呪い』持ちなんですよ。」

それを聞いた周りのやつらは興味を失ったのか一人、また一人と去っていく。
中には露骨に嫌な顔をして走り去っていくものもいる。

「あぁ、大丈夫です! 近くにいるだけではなんともありませんから!」

「冗談じゃないよ! 誰が『呪い』持ちの奴隷なんか買うんだよ!」


『呪い』

『加護』が神様の贈り物であるように、『呪い』は、魔神の贈り物だといわれている。
その効果は、『加護』と同じように多岐にわたる。
たとえば、俺の『加護』のように周囲の人たちのステータスに対して補正をかけたり、
状態異常を引き起こしたりする。
しかし『加護』とは違い、本人にさえ『呪い』の内容は正確にはわからないのだ。

そして『加護』との最大の違いは、『呪い』は他人に移ることがある。
その為、『呪い』持ちは嫌われる。
この世界で『呪い』をかけられる事はそれなりに多い。
たとえば、ダンジョンの宝箱やモンスターのドロップアイテムが呪われていた場合や、
上位の魔導士モンスターの中には、呪いをかけてくる者もいるそうだ。

しかしずっと『呪い』持ちであるものは少ないのだ。
そういった場合、教会で『解呪』を行える。
『解呪』は教会の最大の収入源なのだ。
その為、『冒険者』の中には、神官や巫女といった神聖職者がいる場合がある。
教会が、優秀な冒険者を支援する。モンスターやダンジョンの存在は教会の教義に反しているのだ。

そんな建前の元で各冒険者ギルドに神官達の派遣が行われているが、
本当の目的は冒険者という不定期的な顧客から定期的に収入を得るためだった。
神聖職者は『呪い』の『解呪』のほかに、回復魔法や状態異常回復といった魔法を使える。
そのため、冒険者のパーティに一人神官がいるだけでパーティの生存率が格段にあがる。
冒険者にとって、『神官』はのどから手が出るほど欲しい『職種』なのだ。
そして、いつ『呪い』にかかるか分からない冒険者たちから定期的な収入を得るため、
教会は『神官』たちを冒険者に雇用させる。
給料を定期的に払っているわけではなく、『神官』がパーティメンバーに入る際に教会に赴き
その旨を伝える。そして、その時に教会に『お布施』を支払うのだ。
そのため、ダンジョンやモンスターから『呪い』を受けた者は速やかに『解呪』される。
最低でも、街まで戻れば教会で『解呪』が行えるのだ。

しかし、すべての『呪い』を解けるわけではない。
たとえば、先天的に『呪い』を持って生まれた場合などは、
『呪い』の効果も強く教会の神官にも『解呪』ができないらしい。

つまり、目の前の虎獣人の娘は生まれたときから『呪い』を持っている可能性が高く、
それは、この娘にはそれだけ強い『呪い』がかけられているということだ。

ふと、虎獣人の娘を凝視してみると『鑑定神の加護』が働いたようだ。
彼女のステータスが表示される。

******************************************
アイラ Lv.4 戦士 15歳

体力    250(-250)
筋力 80(-80)
すばやさ 155(-155)
知能 40(-40)
運 0(-80)

『束縛の呪い』   効果 対象のステータスを1/2にする 運のステータスをゼロにする  対象 本人

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うわ、すごい呪いだな。 ステータス1/2ってめちゃくちゃだ。
アイラは、じっと見つめていた自分に気づいたのだろう、少しぼんやりとした顔でこちらを見つめていた。
うん、可愛い娘だ。
明るい髪の色をショートカットにし、やや薄汚れた感じではあるが間違いなく可愛い部類。
スタイルもいい。引きしまった体にでるところはしっかりでているメリハリボディだ。

奴隷商の男が少し大きな声でアイラに怒鳴った。

「畜生、やっぱりだめか!! こうなったら、ダンジョンにも放り込んで使い潰すしか・・・」

なかなか物騒なことを言っている。
おそらく、単身でダンジョンに放り込もうとか考えているんだろう。
しかし、なぜこんな『呪い』持ちを奴隷商は身請けしたのだろう。
こうなることは半ば予想していたみたいだし。

「ちょっといいか?」

「なんだい、あんた? この娘を買ってくれるのかい?」

すこし投げやりに答える奴隷商。すでに売ることをあきらめているのだろうか。

「条件によっては考えるよ。」

「本当か!? で、なんだい 聞きたいことって?」

目を輝かせる奴隷商の男。

「どうして、売れそうもない『呪い』持ちの娘を仕入れたんだ?」

「そりゃ、奴隷商はどんな奴でも買取しなきゃいけない決まりがあるからな。」

「そんな決まりがあるのか?」

「ああ、この国で奴隷商をやるための決まりごとだよ。『呪い』持ちをできる限り把握しておきたいからとかそんな理由だったかな」

なるほど、この国にはまだ戸籍の管理なんかないからこうやって『呪い』持ちを管理してるんだな。
となると、案外『冒険者ギルド』も同じように『加護』持ちを管理してるのかもな。

「この娘は村でも役立たず扱いされていたんだ。虎獣人にしては力も弱いしな。」

アイラはうつむいてしまっていた。
虎獣人にとって弱いというのは致命的らしい。
アイラの両親が亡くなってから村で誰も彼女の面倒を見たがらなかったそうだ。
そのため、奴隷に落とされ売られてきたということらしい。
しかし、どうなんだろう。
Lv.4にしてこのステータス、呪いで弱体化してなお俺より高いすばやさとかすごいと思う。

「一応、料理や家の事はできるんだ。戦闘も虎獣人の割りには弱いがまあ何とかなるくらいだ。
 あんた、冒険者だろ? 探索のお供には十分だと思うぜ」

「そうか、しかし値段がなぁ」

俺はすでにアイラを買う気満々なのだがそんなことはおくびにもださない。
金額的に手持ちぎりぎりなのも本当だし、少しでも値切っておきたい。
奴隷商の態度を見れば、さっさと売ってしまいたいだろうし、値引きに応じるのでは無いだろうか。

そもそもこちらの世界に来てずっと一人だった。すこし、精神的にナーバスになっていたのだろう。
頼る相手がほしかったのだ。
それに、試してみたいこともある。
残念そうにアイラを見つめていると奴隷商が大きくうなづいた。

「しょうがない、今を逃したらこいつは売れんだろうし、15,000ガルでどうだ」

おお、安くなった。『商神の加護』が効いたのだろうか?

「わかった。それでいい。」

皮袋から金貨2枚をとりだした。

「おお、そうか!」

奴隷商が急いで金貨を受け取り大銀貨と銀貨でおつりを返してきた。

「ほら、あの方がお前のご主人様だ。」

そう言いながら、アイラを立たせて俺の方に背中を押した。

「あっ、ありがとうございます。」

アイラは俺の数歩手前で止まり、こちらに礼を言ってきた。
二人で見つめあうような形でしばらく固まっていると奴隷商が話しかけてきた。

「また、奴隷が入り用ならうちをよろしく。 いつもこの辺で露天を開いている。 
 もっとも、上等な奴は商館のほうにおいてるんで、なんならそっちを訪ねてくれてもいい
 この街の東門の近くにあるキャルト商会ってのが俺の店だ」

「そうか、わかった。」

アイラが売れたことによって、完売になったようで奴隷商の男はいそいそと露天を片付けはじめた。

「じゃあ、いこうか」

俺は、アイラの手を引いていつもの宿に向かうことにした。

「は、はい」

アイラは緊張しているようだが、俺も別に女慣れしている訳ではない。
しかし、ご主人様として少しは立派に振舞わなければとぐっと背筋を伸ばして歩いた。



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