発信箱:納得いかない=勝田知巳(学芸部)
毎日新聞 2013年11月28日 00時43分
今年は2度も、ホワイトハウスが占拠された。いや、ハリウッド映画の話。「ホワイトハウス・ダウン」では傭兵(ようへい)部隊、「エンド・オブ・ホワイトハウス」は北朝鮮のテロリスト。荒唐無稽(むけい)なこんな映画が次々と作られるのは、米国社会に常に戦争やテロへの緊張感があるからだろう。日本映画に少ないのは、幸いというべきか。
人ごとではない、と安倍晋三首相は特定秘密保護法制定を急ぐ。確かに、在外邦人がテロに遭遇したり、公安機関の内部情報が流出したり、ハリウッドなら映画になりそう。それでも、秘密の範囲がはっきりしない、第三者機関の検証が不十分と、法案には納得いかない部分が多い。
ハリウッドお得意のジャンルがもう一つ。ポリティカルサスペンス。例えば実話を基にした2010年公開の映画「フェア・ゲーム」。イラク戦争開戦時の情報操作を暴こうとした元外交官と、彼を抹殺しようとするブッシュ政権の闘いを描く。誇張を交えた娯楽作だが、この類いも繰り返し作られる。ここには、権力はえてして行き過ぎ、民主主義や知る権利はたやすく危機にさらされるという教訓がある。自戒を忘れないのだ。
こちらも日本では振るわない。危機感が薄いだけでなく、批判や圧力を心配して作り手側が二の足を踏むせいもある。空気を読みすぎる国民性。十分な議論が尽くされないまま法律が施行され、秘密に過敏に気を使うようになって社会が萎縮したら……。不安は募るばかり。「おかしいと思ったら声を上げろ。民主主義はタダ乗りするもんじゃない」。「フェア・ゲーム」の一節。このまま法案を通してはいけない。