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特集ソーシャルメディア時代のキャンペーン発想

(2012.3.5/2011年10・11月号 特集)

広告のコンテンツ力を生む アニメと新聞との“化学反応”
アニプレックス   第2企画制作グループ 宣伝部 チーフ   高橋 祐馬 氏

高橋 祐馬 氏

人気ゲーム「THE IDOL M@STER(アイドルマスター)」がテレビアニメ化され、その放送を告知する全面広告が7月7日の読売新聞朝刊に掲載された。六つの本支社版(東京、大阪、西部の各本社版、北海道、北陸、中部の各支社版)、それぞれに異なるキャラクターを登場させた広告展開は、ツイッターなどネット上のクチコミを通じて、新聞読者だけにとどまらない大きなムーブメントを起こした。アニプレックスの宣伝プロデューサー高橋祐馬氏に、その発想の過程と現在のメディア状況に対する考え方を聞いた。

──アニプレックスは、アニメの制作会社という理解でいいのでしょうか。

  アニメを中心とした映像作品の企画・製作および販売を主な事業の内容とするソニー・ミュージックエンタテインメント傘下の会社です。テレビアニメを製作し、その後のDVDやブルーレイディスクといったパッケージ商品の販売をしたり、海外にコンテンツを販売する際の著作権管理も行っています。
  自動車メーカーなどと同じく、いわゆる“メーカー”ですが、我々は、絵を描くわけではないし、声を吹き込むわけではありません。アニメのプロデュースをする会社だと言うとわかりやすいと思います。例えば、小説を題材にした作品の企画を立ち上げたとしたら、その小説の版元出版社や放送局と交渉し、制作スタジオや監督を決める。アニメの題材は小説、漫画、ゲームが元になることが多いのですが、今では、ネット上で見つけた一枚のイラストから始まる場合もあります。

──原作の有無により、宣伝の仕方は変わるのでしょうか。

  元の題材があるものは、まずその作品を支えているファンに向けてというのが大きな軸になります。例えば題材が同人誌で、最初に買ったのが数人の作品だったとしたら、その数人が悲しむようなことは絶対にしないというのが基本原則です。一方、オリジナルの場合は、当然その下支えが全くない状態なので、全方位でやるしかない。キャラクターは誰が描くのか、監督は誰がやるのか、声優さんは誰なのかなど、あらゆる構成要素をどう見せれば誰に届くのかということを手探りでやっていく形ですね。
  映画と同様かと思いますが、雑誌に記事を載せて、番組宣伝のポスターを作ってというような基本メニューはあるものの、あとはもう全作品、それぞれ方法論は違ってきますね。

──その中で宣伝プロデューサーの役割というのは?

  企画が立ち上がった段階で、宣伝プロデューサーが決まります。その実務は多岐にわたっていて、どのタイミングでどの情報を出すのかといった宣伝計画全体のプランニング、予算の管理、さらには実際のテレビアニメ番組以外でみなさんが目にするあらゆるもの、テレビCM、雑誌の紹介記事、DVD売り場に掲示されているポスター、すべてに関わっていると言っていいと思います。それから、今日の話のテーマである「アイドルマスター」の場合は新聞広告も活用しましたが、出稿のタイミング、コンセプトやデザインの方向性までほとんどすべてを考えます。

広告は縁遠いものとの化学反応

──「アイドルマスター」の宣伝展開に新聞を使った狙いは、どこにあったのでしょうか。

  「アイドルマスター」というのは、バンダイナムコゲームスが2005年7月に稼働を開始したアーケード(ゲームセンター用)ゲームです。プレーヤーがプロデューサーになって、13人のアイドル候補生の中から1〜3人を選び、トップアイドルに育てていくというシミュレーションゲームで、熱狂的なファンがいます。それを今年7月からアニメ化してテレビで放送しようということになりました。
  プロモーションビデオ作りや、雑誌・ネットでのパブリシティー、イベントの実施など基本的な宣伝展開は積み重ねてきたのですが、2005年のアーケードから6年たってのアニメ化ですから、やっぱり何か一発大きな花火を打ち上げる必要があると思ったんです。しかもアニメというのは、同じタイミングで20作品ぐらい、番組改編期の4月や10月ともなると、30〜40作品の新番組がスタートします。それはすごい競争で、1クール全13回見てもらうというのは年々ハードルが上がっている。その中でまず初回を見てもらわないと勝負にならず、盛り上がっている感じというか、「会社としてこんなに力を入れています!」という想いを伝える必要があります。その時、僕が常に意識しているのが、宣伝自体をコンテンツ、一つの楽しみにするためにはどうすれば良いのかです。今回の新聞広告の活用もそのような狙いから生まれたものです。

──しかし、ターゲットとして想定されるアニメやゲームファンと新聞読者は重なるようには思えないんですが。

  宣伝をコンテンツ化して、エンターテインメント性を持たせるには、「縁遠いもの」と「縁遠いもの」を重ねる、そこにギャップ、意外性があればあるほど、化学反応が起きるんですね。アニメの宣伝展開で新聞の全面広告を活用することは過去担当した作品でも経験していて、それ自体がファンに刺さることはわかっていました。新聞という日本の誰もが馴染み深い、超メジャーな舞台に、アニメというニッチなジャンルが乗れば、やっぱりファンは「おお、すごい!」と盛り上がってくれるんです。
  僕自身も「エンジェルビーツ」という作品で、関東だけの掲載でしたが新聞の全面広告を使ったことがあり、その時もかなりファンの間で盛り上がりました。それでハードルがあがっていたんで、今度は同じ新聞広告をやるにしても、もう一段、上に行かないといけない。それで今回は、読売新聞の本支社6地区に違うキャラクターの広告を載せようと考えました。

──その発想はどこから出てきたのですか。

  以前、漫画家の井上雄彦先生が、「スラムダンク」の広告を違う新聞ごとにそれぞれ別のキャラクターを掲載したことがありましたよね。イメージとしてはあれに近いのですが、アニメの宣伝では、まだそういう前例はありませんでした。
  それからこれは制作的な事情なのですが、「アイドルマスター」のキャラクターは13人もいるので、一つの広告紙面に詰め込むには窮屈ということもありました。それを6地区に分けて、2人ずつ登場させて、どこか1地区を3人にすれば、全員を全国に露出させることができる。しかも、新聞の1ページという大きな面積の中に2人であれば、表情やポーズとかキャッチコピーにしても、かなり良いクリエイティブができるなという感触がありました。この広告のイラストも全部、アニメ制作スタジオに描き下ろしてもらったものです。

──広告のためにイラストを描き下ろすのも珍しいのでは。

  そうですね。通常、広告を出す時は、あり物のイラストを使うことがほとんどなのですが、それだとコンテンツと言うか、エンターテインメント性が足りません。新聞広告を全国6地区に掲載して、しかも、それが全部描き下ろしの初出のイラストであるというのは、アニメの広告としては、今まで誰もやったことがない。そういう合わせ技ならば、日本全国にいるファンの皆様に届くかなと考えました。それが今回自分の中で、単なる“宣伝”で終わらせない方法論として考えてみた施策ですね。

7月7日 朝刊 (東京本社版)

7月7日 朝刊 (大阪本社版)

7月7日 朝刊 (西部本社版)

7月7日 朝刊 (北海道支社版)

7月7日 朝刊 (中部支社版)

7月7日 朝刊 (北陸支社版)

広告はエンターテインメント

──7月7日の朝刊掲載でしたが、朝4時にはネットに「まとめ」サイトが上がっていましたね。そのあたり、事前の仕込みはあったのでしょうか。

  全くありませんと言い切れます。その「まとめ」もファンの方が自発的に作ってくれたサイトですよね。その時間、僕らは完全に寝てましたから(笑)。事前にこの日に新聞広告が出るという告知は一切していません。
  経験上、大きな発表や宣伝の仕掛けみたいなものは事前に何にも言わない方が盛り上がります。いきなりのサプライズ感が重要なわけです。宣伝マンって広告に注目してほしいから、「あした、何かあるよ」みたいなことをついつい言ってしまいがちなんですが、そこをグッと我慢して、あとは広告がユーザーに届いて、広がることをとにかく信じる。逆に事前に知らせてしまうと、ユーザーは過度な期待を抱きますから、実際に出た広告がその期待を超えられないことの方が多いんです。なので、大きな仕掛けをするときは逆に言わないことが鉄則ですね。

──ツイッターでの反応もものすごいものがありましたが、この広告はツイッターを前提としたものだったのでしょうか?

  ツイッターがなければ、この展開は成り立ちませんでした。実際にツイッターを宣伝展開に取り入れ始めたのは、一般層への普及が始まりつつあった2009年末ぐらいからだと思いますが、一発でフォロワーに同時に伝わるという速報性や、リツイートでさらにそのフォロワーにも伝わるというシステムは、アニメの宣伝にとてもマッチしていて、今はそこは当然のこととして踏まえる必要がありますね。今回も、新聞を取っていない人にもツイッターを通じて、「読売にアイマスの広告が!」というように情報が伝播していきました。こう言ってはおこがましいかもしれませんが、ファンが自発的に創り出してくれるまとめブログとかつぶやきも一つのコンテンツだと思っています。

ツイッターには掲載当日朝からファンを中心とした書き込みが溢れた。

──そういうクチコミというのは、どこまでコントロールできるものなのですか。

  意識は大いにしていますが、コントロールしようとかは全く考えていませんね。ツイッターのようなツールが登場する前は、情報というのはコンテンツホルダー側から一方的に供給するものだったんですが、もう今はお客さんが見つけて、どんどん発信してくれる。そこはもうある種、「みんな、あとはよろしく!」みたいな状況です。
  特にアニメのファンの方たちって、みんな真面目な人が多くて、楽しむこと、盛り上げることに貪欲です。だから時に、こちらが思ってもみなかった化学反応が起きる。例えば今回も、どんな風にツイートされるかウオッチしていたんですが、掲載されている部数が少ない北陸支社版についてのツイートがなかなか出てこなかったんです。北陸支社版に掲載したキャラクターは、迷子になりやすいキャラクターとして、アニメの中でも描かれているんですが、そうしたらそのうち、「どこに行ったんだ、迷子になっているんじゃないか?」みたいに心配するツイートが出てきたんです。これは本当に偶然で、こちらが意図して北陸支社版に掲載を決めたわけではないんです。そこまで含めて、ある種、ユーザーに託しているところはありますね。
  こちらが一生懸命やったことに対して、ちゃんと応えてくれる。だから逆に、少しでも手を抜いたら、見透かされるという怖さも常に感じています。

広告はコンテンツ力

──広告の出し方にも毎回アイデアが必要なのですか。

  ツイッターは速報性がすごいと言いましたが、逆に言えば、クチコミが長続きしないということでもあるんです。今は、一つ一つの仕掛けの寿命みたいなものは短くなったとは思いますね。言ってみれば花火のようなものです。翌日にその花火のことを思い出すことって、あまりありませんよね。だからこそ、その爆発力が重要なんです。

──手数を増やさないといけない?

  やっぱり総合力が必要だと思います。ボクシングも、KOパンチだけ打っていても倒せないじゃないですか。でも逆に、ジャブだけでも倒せない(笑)。それと同じで、定期的に雑誌に情報を出していくとか、一見地味なジャブやフックをちゃんとコツコツ打って、どこかのタイミングで力を込めた派手なパンチを放つ。ユーザーの気持ちをつかむことをKOと例えるなら、それが近道だと思いますね。

──宣伝予算が潤沢にあれば、方法は違ってくる?

  絨毯(じゅうたん)爆撃のようにマス広告を投下しても、それだけではKOできるということではないと思います。そこには意外性がなければなりません。例えば、江頭2:50さんみたいなアニメとは縁遠そうなタレントさんを使った実写版のCMを作るとか、ある種の化学反応があれば初めて成り立つと思います。繰り返しになりますが、広告にもコンテンツ力というか、広告自体の面白さが必要なんですね。
  経験的に言うと、DVDなどのパッケージ商品をプロモートする時はその予算と効果は比例するものなんですが、テレビアニメの視聴が目的の場合、掛けた予算には比例しません。ここが「買う」のと「見る」の微妙な違いなんですね。番組を見てもらうためには、「なんか面白いことをやってるな」と思わせることが必要です。

──テレビアニメの番組宣伝をしても、それがDVDの売り上げに直結するわけではないですよね。

  不思議なことに、放送が盛り上がらないアニメはDVDも売れないんです。例えば映画だったら、映画館で見なかった人がDVDを買うことが多いと思うのですが、アニメは、テレビで見られていなかったものはまず売れない。だから、「アイドルマスター」の番組宣伝に力を入れるわけです。

広告は原点回帰の応用編へ

──ネットが普及して、アニメの宣伝の仕事も変わったと思うのですが。

  僕が宣伝の仕事をやり始めたのは2006年からですが、その頃は、アニメの情報を出す場所が限られていて、その番組内のCM、アニメ専門誌、あとはDVDを置いている書店や小売店での展開ぐらいでした。その中で、どれだけボリュームを出していけるかが勝負だったんですね。だから、雑誌のパブリシティーを毎月何ページ取れるかとかが、宣伝マンの評価基準だったわけです。
  激変したのは、ソーシャルメディアが普及し始めてきた5年前くらいからです。その頃からネットだけではなくて、ネットにラジオを絡めようとか、テレビにラジオを絡めようとか、メディアの掛け算の方法論がどんどん出てきた。しかも、アニメのユーザーは新しいものに興味を持つ人たちが多いですから、ツイッターだ、フェイスブックだと、どんどん新しいものが宣伝に取り入れられてきたんですね。メディアが多くなり過ぎて、複合的に絡めていかないと、情報が届かなくなってきたんです。
  その頃から、アニメの世界では広告にも応用力というか、それ自体が面白いコンテンツ力を持ったものが問われるようになったと思います。単に伝えるだけであれば方法論はいくらでもあります。けれど、例えば「アイドルマスター」の新聞広告もそうですが、「ちゃんと届く」まで計算に入れないと伝わらない。仕掛ける宣伝の手法自体がエンターテインメント性を持っていないと、ユーザーが気にも留めてくれなくなってきているんですね。

──今後、アニメの広告はどうなっていくと考えていますか。

  今はネット隆盛、ソーシャルメディアの時代と言われていますが、僕は実は、ちょっと違うなと思っています。ネットやソーシャルメディアは確かにそれ自体がメディアとして、ツールとして有効ではあるんですけど、逆に今は、ネット環境やソーシャルメディアによる情報拡散を当然の状況と踏まえた上で、4マスと言われるペイドメディアをうまく使える宣伝マンが、たぶん次の宣伝のスタンダードを作っていくと思っているんです。
  新聞には新聞の、テレビにはテレビのある種のオーラがある。そこに載っていることがある種の価値になるようなオーラがあるんですね。それは恐らく当分の間は変わらないと思うんです。でも、僕らは、まだ、新聞広告を出すとか、テレビCMを流すという以上の使い方ができていないんですね。それ単体で終わるのではなく、そこを起点に、私たちは“祭り”と言っているんですが、「何か面白いことが起こっている」ザワザワ感が起こせれば、今まで以上に大きく伝わる広告ができると思います。そういう、原点回帰の応用編みたいな時代に、アニメの広告は入っていくような気がしています。

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読売広告局NY駐在が現地リポート

キーパーソン

野添 剛士 氏
「SIX」 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

クリエイティブ

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佐々木 宏氏  シンガタ  クリエイティブディレクター