「多数=正義なのか」「市民は無力じゃない」。特定秘密保護法案が特別委員会での強行採決を経て、衆院を通過した26日、各地で抗議の声があがった。

 名古屋市の名古屋駅前では、市民団体「秘密保全法に反対する愛知の会」のメンバー約30人が、法案に反対するビラを配った。

 普段は政治活動に参加しないという同市緑区の自営業の男性(60)は「与党のごり押しだ。民主主義は数で突破するものではないはずだ」と批判。「断固反対」と書かれた紙を持った愛知県南知多町の内田保さん(60)は「審議が短すぎる。野党に危機感が足りない」と指摘した。

 レーダーなどに使われる技術を研究している40代の女性は「戦闘機の素材を使う研究もある。研究成果を学生に教えたら逮捕されるのか。研究者は今以上に国外に出て行くし、若者も育たない」と憤る。

 弁護士の浜島将周さん(42)は「与党は、多数だからといって正義だと勘違いしないでほしい。数で押し切るなら、国会は必要ない」と話した。

 岐阜市のJR岐阜駅前では、市民団体「平和・人権・環境を守る岐阜県市民の声」が抗議活動をした。団体の呼びかけ人、兼松秀代さん(65)は急きょ、チラシ200枚を印刷して配った。「廃案や慎重な審議を求めた福島の人たちの思いを踏みにじったばかりか、私たちの将来を不安でいっぱいにさせている」と批判。「市民は無力じゃありません」と声を上げた。

 愛知県弁護士会は政府に対し、法案を白紙に戻すことを求める声明を発表した。「国民の声を無視し、法案の慎重審議をせずに、短期間での法案成立を目的としている」と抗議した。(土舘聡一、辻岡大助)

●社会運動への熱、かつてほど感じず

 特定秘密保護法案の衆院通過を知った市民団体「秘密保全法に反対する愛知の会」の共同代表で弁護士の中谷(なかたに)雄二さん(58)は、28年前のことを思い出した。

 1985年の中曽根内閣時、自民党が国家秘密法(スパイ防止法)案を国会に提出したときのことだ。外国に機密を漏らせば死刑もあり得たが、世論の反対で廃案に追い込まれた。

 三重県四日市市にいた中谷さんは、2年目の若手弁護士。法案に反対する市民団体の事務局長だった。日弁連や各企業の労働組合などがこぞって「反対」と訴えていた。集会を開けば千人近い市民が集まり、ビラ配りをすれば、「がんばれよ」と多くの人に声をかけられたのを覚えている。

 ただ、今回は28年前とは少し様子が違ったという。

 安倍晋三内閣が提案した特定秘密保護法案に、国家秘密法案と同じ危険性を感じた中谷さんは、昨年4月から月1回程度、弁護士仲間や知り合いと勉強会を続けてきた。

 法案が10月に閣議決定されると、11月に名古屋市役所前や繁華街で反対集会への参加を呼びかけた。だが、中谷さんたちが「あなたが罰せられるかもしれない」と訴えても、多くの人たちが伏し目がちに通り過ぎていった。

 「自分の行動で社会が変わる可能性を、実感しにくい時代なのだろうか」。85年当時は、労働組合などを通じて国会にメッセージを伝えようという人が世論をつくったが、そうした社会運動への熱が、かつてほど感じられないという。

 中谷さんは「インターネットなど個人的なネットワークに満足している人が増えたと思う。社会との関わりが希薄な人が増えれば、さらに世論が軽視されることにつながる」と話した。(渋井玄人)