秘密保護法案:沖縄返還で佐藤首相の密使 覚悟の密約公開
毎日新聞 2013年11月27日 13時49分(最終更新 11月27日 16時43分)
◇故若泉敬・元教授 極秘事項を自著で詳述
外交や防衛などの情報を長期間非公開にできる特定秘密保護法案が27日午前、参院本会議で審議入りし、与党は今国会で成立させる構えを崩さない。だが、知る権利や報道の自由が脅かされるとの批判は根強く、参院での慎重審議を求める声が上がる。かつて外交機密を公にする著作に関わった元編集者は「30年や60年後の公開では遅すぎる。公開しないのと同じだ」と法案を批判する。
1969年の沖縄返還交渉で佐藤栄作首相の密使として、核兵器持ち込みに関する密約を起草した故若泉敬・元京都産業大教授は94年、密約の存在など極秘事項を自著で詳述した。「自分はこれしかないと思ってやったが、判断は人がするものだ」。国会の証人喚問にも応じるつもりだったという。元密使の苦悩と覚悟を知る著書の編集者や知人は、法案との落差を憂う。
◇元編集者「公開されない外交文書は国民の教訓にならない」
「公開されない外交文書は、外務省の経験にはなるが、国民の教訓にならない」。若泉氏の著書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」(文芸春秋)の編集を担当した元文芸春秋編集者の東真史(あずままふみ)さん(71)=東京都目黒区=は、法案に手厳しい。
若泉氏と会ったのは92年8月のことだ。若泉氏の自宅のある福井県鯖江市のホテルで、厚さ40〜50センチの原稿用紙の束を手渡され、「出版できるかどうか、この場で決めてくれ」と迫られた。
徹夜して読んだ。原稿は迫真性に富んでいる。キッシンジャー米大統領補佐官(当時)ら、交渉相手とのやり取りを詳細に記したメモや手紙も添えられていた。翌日、出版する意思を伝えた。
若泉氏からは「一字一句たりとも誤植があってはならない」とくぎを刺され、照合のために政府の極秘文書を後に託された。首脳会談を控えた69年8〜10月に作成され、「極秘 無期限」と印判された日米共同声明案の複写や、当時の駐米大使の公電とみられる文書も含まれる。
「この本にどういう意義があるのか。自分がやったことは一体何だったのか。歴史家の目で批評してほしい」。作業のため自宅に通う東さんは、そう求められた。「日米関係の再構築と沖縄の負担について考えるきっかけにしてほしいと、先生は願っていた」と振り返る。