国の公害健康被害補償不服審査会の裁決を受けて熊本県に水俣病患者と認定された水俣市の下田良雄さん(65)に対し、原因企業チッソは26日、患者認定後初めて謝罪した。認定患者への補償内容を定めた「補償協定」を下田さんに適用するための文書も取り交わし、チッソは改めて補償を約束した。

 下田さんら8人が、チッソ水俣本部の対応窓口「患者センター」を訪れた。網中貫一良(かんいちりょう)室長は「長い間、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。おわび申し上げます」と頭を下げ、その場で、1973年に水俣病第1次訴訟での患者勝訴と直接交渉を経て初めて結ばれた補償協定を下田さんに適用するための文書も作成。下田さんは同日付で、第1次訴訟原告家族でつくる「水俣病互助会」に入会した。下田さんは、チッソなどに損害賠償を求めている訴訟を取り下げる手続きを進めており、協定は、取り下げの成立と同時に適用される。

 下田さんが、今月1日の患者認定の後もチッソがいったん協定締結を拒否した理由をただしたのに対し、網中室長は「協定は和解契約なので、訴訟が続いている状態でこちらから(適用を)お願いすることはできなかった」などと説明。今後新たに認定された患者に対しては「チッソとしてお断りする理由はない。今回はたまたま法的な縛りがあった」と答え、協定の締結を約束した。

 下田さんは、手足の先に行くほど感覚が鈍る水俣病の典型症状がある。10月末、国の不服審査会の裁決を受け、最初の認定申請から14年ぶりに認定された。