企画特集3【司法Voice】
弁護士 島崎 哲朗さん
ネット時代、個人の名誉に配慮を
「執行猶予判決だったのに、まるで終身刑です」――。これが、依頼者の男性の第一声でした。インターネットで自分の名前を検索すると、逮捕された当時の新聞記事を転載したサイトが、無数に表示されるというのです。
男性は逮捕後に懲戒免職になりました。再就職先のあてはありません。履歴書を送っても、ネット検索で逮捕の事実がわかれば不採用だからです。病院に行くにも「実名でネット検索されたら」と考え、ためらいます。「本名を告げるのが、これほど辛いとは思いませんでした」
十数年前は違いました。実名報道されても、見ず知らずの第三者の名前など覚えている人はいません。しかし、現在は誰もが手軽に情報を入手できるインターネット時代です。スマートフォンなどで名前を入力すれば、ネット上に散在する個人情報を、即座に入手できます。
ただし、最高裁も認めているように、犯罪者であっても、前科などをみだりに公表されない権利があります。報道機関の多くは、一定期間が経つと自社のウェブサイトから記事を削除するなどの措置をとっています。
検索サービスを提供する会社も、情報アクセスの利便性のみを追求するのではなく、個人の名誉に配慮すべきです。無名の一私人の軽微な犯罪について、判決後まで逮捕の事実を検索結果として表示するのは、名誉毀損(き・そん)ではないでしょうか。
情報があふれるネット時代。個人の尊厳を確保するため、私たち法律家が真剣に考え、行動すべきときが来ています。
ここから広告です
京都の『今』をリアルタイムでお伝えします。身のまわりで起きたニュースや、記事へのご意見、ご感想もお寄せ下さい。
メールはこちらから
朝日新聞京都総局
別ウインドウで開きます