フィリピン:「津波」なら逃げた 言葉の壁、被害を拡大

毎日新聞 2013年11月25日 11時36分(最終更新 11月25日 13時08分)

集合所前に長い行列を作り、食料の配給を待つ被災者たち=レイテ島東部パロ市バラスで2013年11月23日午後、佐藤賢二郎撮影
集合所前に長い行列を作り、食料の配給を待つ被災者たち=レイテ島東部パロ市バラスで2013年11月23日午後、佐藤賢二郎撮影

 【パロ(フィリピン中部)で佐藤賢二郎】台風30号の直撃を受けたフィリピン中部レイテ島では、現地語や公用語のタガログ語に「高潮」を明確に意味する単語はなく、メディアや防災関係者は英語の「ストーム・サージ」をそのまま使って警告した。テレビで流れた高潮を意味する英語「ストーム・サージ」を理解する人も少なかった。地元防災担当者は「大きな波が来る」と警告したが、住民の反応は鈍かった。沿岸集落の責任者は「日本の『津波のような波が来る』と言ってくれていたら」と悔やむ。不十分な避難情報と言葉の壁が、被害を拡大させた。

 「市から『巨大台風が来るから』と避難指示を受けたが、波の指摘は一度もなかった」。レイテ島東部パロ市バラスの集落長、フランシスコ・ガナンシャルさん(56)が言う。

 上陸前日の7日夜、テレビで「ストーム・サージ」という言葉を聞いたが意味は分からず、深刻には考えなかった。「津波は日本の映像ですべての住民が知っている。津波のような大きな波が来ると警告すれば全員が避難した」と振り返った。人口約3500人のバラスでは自宅に残った住民101人が犠牲になった。

 フィリピンでは高潮が頻発する一部地域で「大きな波」を意味する古語が使われているが、レイテ島のワライワライ語やタガログ語に「高潮」を的確に示す単語は無く、メディアや防災関係者は英語の「ストーム・サージ」をそのまま使った。

 バラスのマルセリーノ・カンティーナさん(52)は単なる「大きな台風」と解釈。自宅にとどまり波にのまれたが、九死に一生を得た。一方、近所の軍人、ロノルフォ・コルドバさん(50)は、パロ市の軍司令部でこの言葉が「大きな波」を意味すると聞き、家族と避難し、難を逃れた。単語の理解が生死を分けたケースもあったとみられる。

 パロ市南部コゴンでは、沿岸部を中心に138人が死亡した。

 市の防災担当者は、高潮に当たる適当な言葉が見つからず、「ストーム・サージ」という英語は住民が理解できないと考え、また「津波」は地震後に発生するため高潮とは違うと判断、それぞれ使わなかったと説明した。「台風によって大きな波が来る可能性もある」と沿岸部の全集落に避難勧告したが、晴天が続いていたこともあり、住民は無関心だった。

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