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18



 尋ねられ、アマーリエは唇を震わせた。
「言ったでしょう。いつか、大人になったら、僕に教えてくださいと」

 王子の優しい、掠れた囁き。
 彼は、大人になった。
 いずれ、彼に相応しい運命の女性と出会い、恋に落ち、結ばれるだろう。そして、新しい家族をつくるだろう。
 きっとその家族の光景は、幸福に満ちて、まぶしいほど美しいはずだ。
 その日が待ち遠しいはずなのに、胸が締めつけられるようだ。

「殿下……」
 アマーリエは子どものまま、恋を知らぬまま。
 自分の左手の指輪を見つめる。指に合わず、くるくる回ってしまう。
 王がくれた結婚指輪だ。女官長が大きさを直そうと言ってくれたこともあったが、断ち切るのが怖くてどうしても頼めないでいる。

 アマーリエには、王の愛情も、本物の王妃の指輪も与えられなかった。
 王子の継母としての役割も十分だったとは言えない。
 けれど、女官長をはじめとした身近な人々から信頼を寄せてもらい、頼られ、助け合って、やっとできることが見つかった。
 それでいいと、アマーリエは思っていた。

「もうわたしが子どもを産むことはないでしょう。でも、その代わり、親のない子どもや、病の人、貧しい人のために力を尽くしたいと思っています」
「私の母の遺志を継ぐために?」
 王子は、そんな話を誰から聞いたのだろう。

 アマーリエは首を振った。
「今思えば、そんな崇高な気持ちからではありませんでした。わたしは宮廷に居場所がありませんでしたし、もともと家族との縁が薄かったから、境遇の似た子どものそばに行けたら何かできると思っていたのかもしれません」
 もう六年も昔のことだ。時は流れのはやい川のようにゆき過ぎてしまった。

「うまくいったのは、みんな殿下のおかげです。いつも助けていただいたのに、わたしはお礼もできないままでしたわ」
 身を捻り、王子を見上げる。

「殿下のお誕生日のお祝いに、贈り物をさせてください。何か、欲しいものはありますか? わたしが差し上げられるものなら、何でも」
 アマーリエが尋ねる。

 王子は微かに目を見開いたが、その唇は引き結ばれたままだった。
「ここに」
 いったん言葉を切り、王子は再び唇を開く。
「ここに一緒に来てくださっただけで、十分です」
 硬い声で王子は言った。
 アマーリエは唇を尖らせる。
「それでは、贈り物になりませんわ」

「いいえ。よいのです」
 王子はさびしげに唇を歪めた。
「僕の欲しいものを知ったら、アマーリエさまは困ってしまわれるでしょうから」
 アマーリエはそれ以上を尋ねることはしなかった。
 ふたりの視線の先で、冬の夕日がゆっくりと沈んでいた。



 都に帰った後、王子がお茶の時間にアマーリエの部屋を訪れることはなかった。
 青年になった王子と、八つしか違わない継母の自分は、もっと早く距離を置いておくべきだったので、ちょうど良い機会だと思ったアマーリエはそれを黙って受け入れた。女官長も何も言わなかった。
 その頃、ちょうど、王が王子の結婚について彼に何か話したらしかった。




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