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ローズマリーの恋
作者:オリオン
思いつきです。いろいろつっこみどころありますが。
 ローズマリーはいつだって最初、望まれない存在だった。
 けれども彼女はにっこりと笑うだけ。

 ローズマリーを生んだあとすぐに死んでしまった母。
 母とは政略結婚だった父はさっさと愛する(ひと)と再婚して、男の子が生まれた。次いで妹が生まれると、ローズマリーの居場所はなくなった。いびつなまま家族であろうと無理をする父と義母に、彼女は「離れで暮らしたい」と申し出た。わがままな娘だといいながらも、彼等はほっとしたような顔をする。
 ローズマリーは笑って御礼を言った。

 父と新しい母、そして弟と妹たちは家族そろって、幸せそうに暮らしていた。ローズマリーの気も知らないで。まるで見せつけるようにじゃれあう。使用人たちは困った顔をしながらも、何も言うことをしない。
 輪の外側からそれをながめて、ローズマリーはただ微笑む。

 十七歳になるとローズマリーはお城の後宮に、王妃として入れられることになった。
 ここまでお前のわがままを聞いてやったのだから、大人になりなさい。
 久しぶりに父が顔をみせ、娘にソレを告げるとローズマリーは微笑んで従った。

 ローズマリーは王宮にあがった。
 王は前妻との間に子供を一人もうけていた。父から何も聞かされていなかったローズマリーは、けれど微笑みながらそれを受け入れた。そして、しゃがんで小さな王子に挨拶をした。
 優しそうな義母に、小さな王子ははにかみながら挨拶を返した。
 その様子をみて、王は顔をしかめたが何も言わなかった。
 王はローズマリーを愛さなかった。
 ローズマリーは微笑んでいた。

 王子はローズマリーによくなついた。だからか、あまり立場のない思いもしなかった。相変わらず、前妻を想う王やその側近にいい顔はされなかったけれど。

 王の幼馴染である側近たちに小さな失敗をあげつらわれ苦い顔をされたときも、逆に心ある側近にがんばりを褒められたときも、ローズマリーに媚を売ってくる貴族にも、毛嫌いしてくる貴族にも、陥落しようとしてくる輩にも、蹴落とそうとする令嬢たちにも。いつもとかわらぬ笑みをうかべてやわらかに対応した。
 ローズマリーは下々の声もよく聞いた。
 孤児院では転んで泣いた子供がいれば抱き上げてあやしてやった。ひとつだけしか知らないけれど、本当の母がよく歌ってくれた子守唄も歌ってやった。子供たちは皆かわいく、小さかったころの弟を思い出した。

 ローズマリーはいつも微笑んでいる。
 微笑んで、つらいこともやさしいことも受け入れる。

 ローズマリーのもとには時々弟がやってきて、色々としゃべって帰っていく。妹もやってきて、色々と嫌味のようなことを言って帰っていく。王子もやってくる。そしてつらいことうれしいことを報告して、そうして彼女の用意した甘いお茶とお菓子を食して帰っていく。
 ローズマリーのもとには民もくる。日常の不便、困ったことを相談して帰っていく。貴族の娘もやってくる。そして恋の話、両親のことを話してお茶をのんで帰っていく。城の人間もやってくる。王子が駄々をこねて困っている、と言われ王子と話をしてみれば、王子は困った顔をしてきちんと周りの言うことを聞いた。もともと聡明な子なのだ。ローズマリーがあれこれ言う必要はないように思えた。
 王の側近もやってきた。王が癇癪を起こす、などとよくわからない理由で呼び出される。そういう時は王と一緒にお茶を飲んで休憩の時間をつくった。ローズマリーは休憩の口実だ。

 ローズマリーはいつも微笑んで、不満ももらさずそこにいる。そして、ひとの話を聞くだけだ。

 あるとき、式典で王に矢が射られるということがあった。
 矢にいち早く気がついたローズマリーはすばやく王の前に出てその身に矢を受けた。小柄な身体は衝撃に(かし)ぎ、肩口に刺さった矢による激痛で汗が滲んだ。しかし、青ざめ立ち尽くす王と騒がしくなる周囲や悲鳴を尻目に、ローズマリーは汗の滲んだ顔で微笑んで、大事無いこと、王の身に怪我はないこと、兵が民たちを護ることをつげ、皆が見つめる中、静かに自分の足で城に戻っていった。
 だれも何も言えなかった。

 城の中に入り、とたんに意識が混濁し、倒れる。
 薄れていく意識の中で、ローズマリーは泣いてすがりついてくる王子に微笑んで、自分は大丈夫だから、王子がそんなに泣いてはいけないと言った。王には怪我はないかということや側近には警備の見直しを、そして自分は大丈夫なので式に戻っていいということを言って、意識を手放した。

 ローズマリーは知っていた。
 ここが自分の死に場所ではないことを。

 ギルデン王国の王妃であるローズマリーはいつもにこやかに微笑んでいる美しい女だった。
 そして、ローズマリーは誰の前でも、何を言われてもその微笑みを崩さなかった。
 微笑みの王妃ローズマリーはもうすぐ三十歳を迎える――。


 ちょうど、ローズマリー王妃が三十歳を迎えた日、それはやってきた。
 狂ったドラゴンが王都に迷いこんできたのだ。
 ドラゴンは恐ろしい咆哮をあげて、何かを探していた。まるで、とられた宝を狂い求めるように。

 よりにもよって、なぜ王妃の生誕祭の日に。皆が思った。
 式典が終わったら彼女にサプライズがあったのだ。
 素直ではない王はきっと頬をそめながらぶっきらぼうにソレを告げて、そして、城中の皆が祝福する幸せな日になるはずだったのに。新しいスタートの日になるはずだったのに。

 王や兵士は厳しい顔をして、ドラゴンに対峙していた。この国でドラゴンは聖獣である。人の世界に姿をあらわすことはめったにない。そのドラゴンが狂ったように咆哮をあげて、今にも国をめちゃくちゃにしようとしていた。一体、どうしたらいいのだと途方にくれる。

 そのとき、純白のドレスに身をつつんだ王妃がドラゴンのところにかけよった。

 「―――。」

 なにかを叫びながら。

 そうして、みんなが見守る中、ドラゴンは王妃をつれて、大きく優雅な翼を動かし、遠くへ去っていった。

 城のものたちは聞いていた。王妃がいった言葉を。王妃の、ドラゴンをみたときの表情を。

 ―――やっと、きてくれたのね。

 すこし濡れて、切なげな瞳。胸を押さえて、甘く、苦しく、歓喜に満ちたその顔を。
 いつも微笑んでいた、それ以外の表情をみせなかった王妃の、恋するような瞳と声で。

 ―――あいしてるわ。

 そうして、ギルデンは救われた。
 けれど、王も、王子も、王妃の弟も妹も、ひそかに彼女に思いをよせていた王の騎士も、皆苦しく、春の陽だまりのような王妃を失ったことに呆然としていた。
 
自分の勝手な感情で、嫌って、好いて。
王様と側近たちざまあ、な話が書きたかったのです。
ローズマリーがいつもわらっているのはどうでもいいから。好かれても嫌われてもどうでもいい。ローズマリーの恋の相手はドラゴンだけ。ドラゴンにだけ好かれていればいい。
勝手な感情とエゴで、ローズマリーとやりなおそうとした王様ざまあってしたかった。ローズマリーが許しているからこの関係が続いているってことにすら気がついていない。で、見捨てられてざまあ。

ローズマリーはこのあとドラゴンと一緒に幸せにくらします。
戻ってきてくれと懇願されますが、にっこり笑って拒否です。
王子と弟妹にだけは時々あいにきます。
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