中国が尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定したことは、不測の事態を招きかねない危険な行為だ。緊張をこれ以上高めないよう、中国には自制を、日本政府には冷静さを求めたい。
防空識別圏は、不審機の領空侵犯を防ぐ目的で領空の外側に設定されるものだ。戦闘機による緊急発進、スクランブルに踏み切るかどうかの基準となる。
尖閣諸島は「固有の領土」とする日本が有効に支配している。日本がすでに設定した防空識別圏と重なるように、中国側が新たに設定すれば、軍事的緊張がさらに高まるのは必然だ。
中国共産党の習近平総書記は中長期的な今後の方針を示した「三中全会」の前、党幹部を集めた座談会で「わが国の発展のためには周辺国との良い環境が必要だ」と強調した。防空識別圏の設定強行は「周辺国との良い環境」を目指す考えと矛盾しはしまいか。
習氏がもし人民解放軍内の強硬派に配慮するような形で防空識別圏の設定に踏み出したのなら、危険な判断と言わざるを得ない。
中国の英字紙と日本のNPOが今年夏に公表した世論調査結果は衝撃的だった。日中間で「軍事衝突が起きると思うか」との質問に、「起きる」と回答した日本人は23・7%だったのに対し、中国人は52・7%に達した。
中国の対外強硬姿勢が、自国民の間に「戦争も辞さず」との意識を高めたのなら、大きな不安を感じざるを得ない。
安倍晋三首相はきのうの国会で「わが国の領土、領海、領空は断固として守り抜くとの確固たる決意のうえ、毅然(きぜん)として、そして冷静に対応していく」と答弁した。
首相が冷静な対応に努める限り支持したい。米国をはじめとする国際社会と連携し、外交的手段を通じて中国に自制を促し、この問題の解決に努めてほしい。
防空識別圏の設定が尖閣の領有権を主張する中国による現状変更の試みだとしても、日本側が冷静さを失って強硬姿勢で応じれば、軍事的な緊張を高める「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。そのような愚は、日中双方が犯すべきではない。
今求められているのは、尖閣問題を、日本の領有を前提に外交上の「係争地」とするなど、対話のテーブルに着く知恵だ。
日中とも東アジアの経済大国であり、この地域の平和と安定に等しく責任を負っていることを、忘れてはならない。
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