東日本大震災の巨大地震の後、漁船を沖合に避難させる「沖出し」で、津波にのまれるなどした犠牲者が岩手、宮城、福島3県で少なくとも26人に上ることが、各漁協への取材で分かった。犠牲者の多くは、出港が遅れ、津波に遭遇したとみられる。国の「災害に強い漁業地域づくりガイドライン」は、港内に係留中の船の沖出しを禁じており、原則と実態には大きな隔たりがあった。沖出しの是非を含め、地域で安全性の確認が求められている。
各漁協が把握している事例を聞き取ったところ、沖出しした総隻数は3県で約1100隻に上った。県別の沖出し隻数と犠牲者数は表(上)、原因別の犠牲者数は表(下)の通り。犠牲者が最も多い宮城県の事例を調べると、船の大きさは0.5トンから16トンまでと幅広く、規模にかかわらず犠牲者が出ていた。
原因別では、漁船を沖に出すタイミングが遅かった「出港遅れ」が20人と全体の77%を占めた。潮位変化によって養殖施設に絡まったり、連絡体制の不備で大津波警報解除前に帰港したりする事例もあった。
出港遅れは、地震後に陸上から船に乗り込んだケースが多い。漁協の関係者は「車で漁港に戻って船に乗ったが、間に合わなかった」「道路が陥没し、車から自転車に乗り換えて漁港に向かって、出港が遅れた」などと証言する。
沖出しがうまくいった場合でも「コウナゴ漁の設備を船に付けていた最中で、すぐ出港できた」(宮城県漁協志津川支所)ように、港内に係留していたケースが多かった。
漁師が船を沖に出す背景には、(1)5トン船でも4000万〜5000万円と高額(2)現行の漁業保険制度は、漁船の損害を100%補填(ほてん)できない(3)休業期間中の収入補償がない−など、損失の影響が大きいという事情がある。
水産庁は2006年3月に策定したガイドラインで、港に係留中の漁船を沖に出すことを原則禁止。12年3月の見直しでも、係留中の場合、船員は船から降りて高台に避難するという原則を変えなかった。一方で、湾の形や水深、想定される津波の高さは、地域ごとで異なるため、「各地で避難のルール化を図ってほしい」(防災漁村課)と呼び掛けている。
[災害に強い漁業地域づくりガイドライン]水産庁が2004年のスマトラ沖地震を受け06年3月に策定した(12年3月改定)。津波の襲来が予想される場合、陸上にいる人や湾内で船を係留中の人は「陸上の避難場所へ避難する」と明記。沖合にいる船は水深が50メートルより深い海域に避難するとした。行政や漁協などが漁業地域防災協議会を作り、避難行動のルールを作ることも求めている。