社説
教科書検定 「国定」復活を危惧する(11月25日)
これでは戦前の国定教科書の復活になりかねない。
文部科学省は、小中高校向け教科書検定に介入を強める方針を打ち出した。
愛国心を養うことを盛り込んだ2006年改定の教育基本法の理念を厳格に反映させるよう、出版社に求めるという。政府見解も確実に記載させる。
国が出版社や書き手に教科書執筆の基本姿勢まで方向づけることにつながる。改変に疑問を抱かざるを得ない。文科省に再考を求めたい。
戦後教育は政治から一線を保ち、中立維持を心がけてきた。国定教科書を使った戦前の国家主義的教育が若者を軍国主義に駆り立てていった反省に基づくのは言うまでもない。
検定の是非を問う故家永三郎氏の教科書訴訟で、最高裁が国の裁量権乱用に歯止めをかけたことを思い起こしたい。こうした流れに矛盾するのは明らかだ。
なぜいま、改変措置が必要なのか。安倍政権の意向が反映されているのは否定のしようがない。
安倍晋三首相は検定基準に教育基本法の精神が生かされていないと、かねて見直しの考えを示していた。
加えて自民党教育再生実行本部が今夏、「多くの教科書が(自国の歴史の負の部分を取り上げる)自虐史観に立つ」と批判を強めた。
文科省の方針は、こんな教科書批判や教育観をくんだものだ。
見逃せない問題は、新方針が「改正教育基本法の教育目標などに照らし、重大な欠陥がある場合は不合格にできる」とした点である。
抽象的な尺度では「自虐史観の傾向がうかがえる」などと門前払いすることも可能になるだろう。大半の出版社が萎縮し、表現の自主規制を迫られるのは間違いない。
検定はこれまでも政権の政治姿勢や歴史観などを反映してきた。
第1次安倍政権では高校日本史で、沖縄戦での住民集団自決の記述から「軍の強制」が削除された。その後は「軍の関与」や「日本兵による命令」の記述が認められてきた。
国が今後、より強い態度で臨めば、さらに極端なぶれが生じよう。
文科省は諸説ある場合はバランスの取れた執筆を求めるとしている。
旧日本軍による南京虐殺の犠牲者数には諸説あり、従軍慰安婦の強制性をめぐっても見解が分かれている。こうした史実を念頭に置いているとすれば、歴史観の押しつけにつながりかねない。
検定制度の趣旨には、民間の創意工夫に対する期待もあった。今回の措置は教科書の特色を弱め、画一化を加速させる懸念を拭えない。
何よりも教育現場や子どもたちへの影響が心配だ。
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