共に生きる・トブロサルダ:大阪コリアンの目/127 /大阪

毎日新聞 2013年11月22日 地方版

 ◆国会審議でも迷走「特定秘密」

 ◇情報は公開が基本 秘密幅を広げる法避けよ

 私は18歳から23歳までを韓国で過ごした。高校を卒業してすぐの好奇心のまっさかり。アイデンティティーの根っこを探しに、祖父母が生まれ育った韓国に渡り、勉学に、もちろん遊びに走り回った。時は1990年4月から95年3月まで。当初は盧泰愚(ノテウ)政権の時代だった。前の全斗煥(チョンドゥファン)政権と比べれば民主化は大きく進展し、発展する経済とともに政治も安定へと向かおうとしていた。

 ただ、権力の横暴はそう簡単には修正されなかった。韓国の歴代政権が手段としてきた「強権」は民主化宣言以降の盧政権にも引き継がれ、公安捜査当局はまだ絶大に強かった。当時は国家安全企画部(現国家情報院)という情報機関が厳しく国内外動向を監視していた。韓国では過去、「北」と関連するスパイ事件などが頻繁に摘発されてきたが、それが大型選挙に近いと、有権者の安保意識は高まり、保守政権を有利に導いた。私と同時期に韓国にいた在日の先輩が情報機関に連行されたことがあった。その際私のことも質問されたという。万が一を考え大型選挙まで大阪に戻ってきたこともあったが、在日が公安当局から監視されていたこともあった。

 私が韓国にいた頃の印象深い出来事に「朴(パク)ノヘ事件」がある。朴ノヘとは労働詩を代表する人物で、「労働の夜明け」という彼の詩集は大学街で読まれていた。労働階級を搾取しながら富を集中させる資本家に憤り、独占資本と癒着する政治家、そして民主化を求める民衆の闘いを処断する国家への対抗に社会主義への憧れを詩で表し、そして革命をめざす組織を実際に作った。

 反共法である国家保安法により朴ノヘは逮捕された。検察は資本主義秩序を乱したとして「死刑」を求刑し、裁判所は「無期懲役」を宣告した。経済が著しく発展を遂げ、国民1人当たりのGDPも拡大を始めた韓国社会において、朴ノヘの社会主義革命への羨望は、もはや文学においても一部でしか受けいれられない現実離れの物語であった。ただ、逆にそうであればあるほどに、私は衝撃を受けた。非現実のファンタジーであっても、国家にとって都合の悪いことは地上から消し去ることも厭(いと)わないという強い意思に対してであった。国家の鋭利な刃の部分を垣間見て、私は驚きと恐怖を感じた。

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