「ふう」

 まだ薄暗い朝靄の中で、フィリオ・マクスウェルは、一人小さくため息をついていた。

 砂漠での夜から、早3日。

 あの時フィリオは、自らの足で立ち上がる事すら出来ぬ程の深いダメージを負ってしまった。

 真の『仮面の導師』こと、オリフ・マクスウェルとの魂と魂の戦いは、かろうじてフィリオが勝利を納めたものの、その戦いで彼の身体はズタズタに引き裂かれてしまっていたのだ。

 戦場で軍馬の蹄が土をえぐるがごとく、その戦いの戦場となった彼の身体は、彼をしてもすぐに回復ができぬほど、深く傷ついていしまっている。

 がしかし、彼は朝日が登りきらぬ早朝に、一人歩いていた。

 まだ、歩くたびにかなりの激痛が走るその身体で、彼は朝の散歩をしていた。

 一歩足を前に出すたびに、ぎしり、と身体がきしむ。

 そんな身体を無視するように、フィリオは歩いていた。

 怪我などしていない風に。

 そう─────田舎の、のんきな魔法使いは武神祭の後、風邪を引いて寝込んでいたが、怪我などしていないのだから。

 フィリオ・マクスウェルと言う、どこにでもいるような若い魔法使いは、怪我をしてはいないのだから、いつもと変わらぬ様に振る舞わなければならないのだ。

 いきなり昼間から歩き出してもいいが、それでは予想外の身体の動きに、小さな悲鳴や嗚咽を上げてしまうかもしれないので、彼は人目を避け、早朝に普通に歩く練習をしていた。

 そして、身体の痛みに耐えながらも、彼はそれ以上の頭の痛みにも苦慮していた。

 影武者としていた男が、あれから姿を消している。

 対処を誤れば、どのような事態に転ぶか・・・・・・・・。

 

 

 

 

「手荒な事はしたくありませんのでな。

 言う事を聞いて頂きますぞ」

 しわがれた声が、朝靄の向こう。茂みの奥から聞こえてくる。

「無礼ですよ」

 それに、ハスキーな声が毅然と返事をした。見れば、数人の男達が、一人の人間を囲んでいる。

「我が主が、どうしてもあなた様をお呼びせよと申しますもので。

 無礼は承知でございます」

 しわがれた声は、丁寧な口調ながらも、その中に下卑た笑みを含み、次いで眠りの呪文を紡ぎ出した。

「・・・・・・はぁ。

 リハビリとでも思っとくかな」

 と、やる気のなさそうなため息に続いて、それらのやりとりを、木の陰から見ていたフィリオが飛び出した。

 が、そのやる気のない声とは裏腹に、彼の身体は、まるで黒い風の様に吹き荒れた。

 やられた相手の方は、たぶん何が起こったか分からなかったに違いない。

 すっ、と何かが横切ったその瞬間に吹き飛ばされ、木の幹に打ち付けられて、そのまま気絶していく男達。

 不意をつき、さらには常人には理解しがたいスピードで動くフィリオを、彼らはまともに見ることすらかなわないまま気絶していった。

 全員を気絶させた後で、フィリオは襲われていた人物をゆっくりと抱え上げた。

 その人物は、眠りの呪文に半ば掛かりながらも、虚ろな瞳に彼の顔を見つめる。

 ぼやけて輪郭すら分からないその顔。

 その顔には、どのような表情が浮かんでいたのだろう?。

 疑問と共に、その人物は、抱え上げられた感触すら薄れる眠りの世界へと移っていく。

 そして彼女が再び目を覚ました時──────

 エメラルドグリーンの瞳には、見慣れた自分の部屋の光景と、慣れ親しんだベッドの感触に包まれていた。

 

 

 

 

「ねえ、大丈夫?

 ホントに大丈夫?

 どこか痛いところとかない?」

 せわしげに喋りまくるエリカの口に、フィリオは困ったような笑みを浮かべていた。

(まさか、締め上げている腕が一番いたい・・・・・・なんていえないよな)

「ごめんね。

 まさか、優勝記念のパーティーが続いている間にフィリオが風邪をひいていたなんて。

 これからしっかりと看病して上げるからね」

 のぞき込むようにして、フィリオの顔を見上げているエリカは、どことなく嬉しそうに微笑んでいる。

 その笑みに、なにやら意味を見いだしたフィリオは、おそるおそる訪ねてみた。

「・・・ねえ。

 もしかして、そのパーティー、今日もやっているんじゃ?」

「うん」

 元気いっぱいの笑顔で、大きく首を縦に振るエリカに、フィリオは人知れず心の奥で泣いていた。

 彼女が、口実を見つけて、パーティを抜け出したのは明白だ。

 フィリオが心配だから、と言うのが理由だろうが、退屈なパーティを抜け出したかったのも本心だろう。

(ああぁ────またあの親父さん、烈火のごとく怒っているんだろうな)

 フィリオは、顔を真っ赤にしたシャフール伯爵の顔を一瞬思い浮かべ、その浮かんだ顔をかき消すようにして現実逃避を計った。

 エリカの父、クロード・シャフィール伯爵は2人の仲を反対している。

 いや、フィリオに言わせるなら、反対などという生やさしい言葉では表現できない程であるのだ。

 理知的で寛容な心の持ち主と言われ、人望も厚いクロード・シャフィール伯爵であるが、事、娘の事となると、理不尽で過激なオヤジに変身するのだ。

 月の無い夜に、若い貴族をけしかける事など当たり前。

 裏から手を回して、フィリオに他の女をあてがったり、無理難題をふっかけて恥をかくようにしむけたりと、およそ考え得るありとあらゆる方法で二人の仲を邪魔している。

 が、それでもエリカの破天荒な行動で、彼の計略はもろくも崩れ去っていた。

 だが、数々の失敗にもめげず、すでに次の手も準備している事だろう。

 フィリオが、近い未来に起こるであろう事を考え、少し憂鬱になっていた時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「はい」

 と、とっさに答えたフィリオ。

 その横で、エリカは不満げな表情をあらわにしていた。

 久しぶりの2人きりの時間を邪魔した扉の向こうの来客に、睨むような目つきをし、そして、その扉が開かれる前に、その視線をプイっと横へとそらす。

 キィっと小さな音をたてて、扉を開けたのはヴィルド・セレスだった。

 そして、その後に、リフィニアとマチルダも続いて部屋に入ってくる。

「おはよう」

 ほがらかに笑うリフィニアは、さも当然のごとくエリカの反対側の腕を取り、横に座る。

 それに、ギンと目つきを鋭くするエリカだが、リフィニアはそんな事など無視するようにフィリオだけを見つめていた。

 それに腹を立てたエリカは、ぐいっとフィリオを自分に寄せて、リフィニアからフィリオを僅かに離させる。

 ギロリと、今度はリフィニアが睨むような目つきをすると、エリカは勝ち誇った様に微笑する。

 

 ぐいっ!

 

 と、今度はリフィニアが、フィリオの腕を引っ張り自分に引き寄せた。

 互いににらみ合い、無言でフィリオを引っ張り合う2人。

(あの・・・・・ものすごく痛いんですけど)

 と、まさか声に出して言うわけにもいかず、心の底でつぶやいて、体中に走る激痛に耐えるフィリオ。

 その険悪なムードの中、コンコンと、再度扉を控えめにノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

 と、フィリオが激痛に耐えながら返事をすると、今度はエリーとソフィアが入ってきた。

 二人とも、やや暗い表情で入って来たが、入ってすぐ中の光景を見て唖然とし、次いでエリーが呆れた様にこう言った。

「何やってんのいったい?」

 その声に、呆れと、怒りがやや見え隠れする。

「危篤だと聞いたんだが・・・・・・・・・・・」

 続くソフィアの唖然とした台詞に、フィリオの頬が引きつった。

「え、フィリオそんなに悪いの?

 イヤよ。フィリオ死んじゃやだよ!!」

 と、エリカは力一杯フィリオに抱きついた。

 それこそ手加減無しに! 力一杯!!

(あ゛・・・・・・・・)

 じとりとした虚ろな瞳で身体の痛みに耐えながら、ホッホホと、ある女性の上品な笑い声がフィリオには聞こえてくるようだった。

「だ、大丈夫だって。ほら、別に何ともないから」

 とりあえず、しがみついてくるエリカを何とか離そうと、フィリオが冷静さを装ってそう言うと、エリカは上目遣いにフィリオの顔を見て、安心したように微笑んだ。

 そして、さらにフィリオがそこにいるのを確かめるように、力強く抱きしめる。

 もはや逃げ道など無いことを、フィリオはこの時思い知ったのであった。

 

「───じゃあ、そろそろ帰ろうか」

 来てしばらく雑談した後、ヴィルドは、妻マチルダに合図するように言う。

「えーーーーーー」

 その台詞に、もっといたいとゆう意志表示が、リフィニアと────そして、マチルダからも声となって出てくる。

「まだ、良いじゃない。

 もうちょっとフィリオと一緒にいたいよ」

「まだ、フィリオ君の手料理も食べてないのよ。それに、ショッピングもしたいし」

 二人は懇願する様に詰め寄られて、発言権の弱い父親は一瞬たじろいだが、一応もう一押ししてみる。

「だ、だけどな。

 いつまでもここにいる訳にはいかないし・・・・・・・・・・」

「じゃ、明日にしましょ、明日。

 一日くらいいいじゃない。まだ、お土産とか買ってないんだし」

 ────行動の主導権を握る2人に反対されて、なおも強気に出られるはずもなく。

 

「───じゃあ、まずはショッピングよね」

 完全勝利に、うきうきとマチルダは言うが、以外にも、リフィニアは、あまりうれしそうにはしていない。

 逆に、エリカが少しうれしそうだ。

 その様子を見たマチルダは、不思議そうに訊ねる。

「行かないの?」

「うっ・・・・・・」

 言葉に詰まり、リフィニアは複雑な表情をした。

 ───ショッピングには行きたい。

 異国の珍しい物を見て回り、欲しい物を『お土産』と言えば、いつもより簡単に手に入る。

 その絶好の機会なのではあるのだが・・・・・・・・・。

 

(私がいなくなったら、フィリオとこのお姉ちゃんがふたりっきり)

 

 そう考えると、ここから離れたくはなかった。

 しばらく考え込んでいたリフィニアだったが、にやにやと笑うエリカを見て、悔しい思いをする内に、ピンっと名案を思いついた。

「──ねえ、ママ。

 ショッピングって言っても、ママも私も、ここの町のお店の事とか判らないでしょう?」

「・・・まあね」

「そこで! よ。

 やっぱり案内する人がいると、私達の最後の日もよりよく過ごせるんじゃ無いかな」

「そうねぇ」

 ここら辺で、マチルダは自分の娘が何を考えているか判ってきた。

 そして、わざとらしく言う。

「じゃ、フィリオ君にお願いしようかしら」

「だぁーめぇー!!!」

 力一杯拒否するエリカ。

「フィリオは病人なのよ。

 少しはいたわらなきゃダメじゃない」

 もちろんエリカの心の中は、違う言葉が埋め尽くされている。

 

(私達のふたりっきりの時間を奪われてなるものか)

 

 しかし、この母娘は、エリカがこう答える事をある程度承知していた。

 承知している上でこう続ける。

「そうよね、困ったわ」

 そう言って、マチルダはリフィニアにバトンタッチした。

「じゃあさ、お姉ちゃん教えてよ。

 やっぱり、女の子の買い物だもん。男のフィリオよりお姉ちゃんの方がいいよね」

「え?・・・・・・」

 言われて、エリカはちょっとたじろいでしまう。

 そうして、彼女はリフィニアが誰を連れ出したがっていたかを、この時、悟ったのだった。

 リフィニアは、『フィリオ』ではなく、『エリカ』を連れだそうとしていたのだ。

 もし、フィリオを連れ出せば、間違いなくエリカも付いてくる。

 そうなると、背丈の問題から、エリカはフィリオの腕を、そしてリフィニアはフィリオの手を取って歩くことになるだろう。

 そうなると、どちらがより恋人に見えるかと言う点において、リフィニアは負けてしまうのだ。

 しかし、エリカだけを連れ出せば、エリカとフィリオをふたりっきりにさせない上に、自分と同じ位置まで足を引っ張る事が出きる。

 そう、たとえフィリオと一緒にいられなくとも──────────

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不毛な戦いである。

 

 エリカの方もその事を判ってはいたのだが、この『お願い』を断るわけにはいかないのだ。

 もし、この『お願い』を断れば、フィリオが案内するのは分りきっている。

 しかし、その時エリカは、小さな子供の『お願い』を聞かなかった『冷たいお姉ちゃん』となっている筈であった。

 決して、フィリオもいい顔をしてはくれないだろう。

 最悪、『冷たいお姉ちゃん』は、一緒に付いていく事すら、出来なくなるかもしれないのだ。

「うっ・・・・・ぐぐっ──────

 わ、わかったわ」

 言いたい事は山ほどあるが、それを口に出せずに、エリカは不本意ながらも案内することを承諾した。

 そのやりとりの一部始終を見ていたエリーとソフィアは、心の中は別として、表情を変えずにエリカと言う名の嵐をやり過ごそうとしたが、彼女の八つ当たりに満ちた瞳はこの2人を離して逃がす筈もなく・・・・・・・・・・。

 結局、それにマチルダも加わった女性5人は、残りの男共を残して町へとショッピングへ繰り出した。

 

「やれやれ。

 これで少しは静かになるな」

 女性陣を目で送って、ヴィルドは苦笑するように笑った。

「それにしてもマチルダさん。

 相変わらず抜け目が無いな・・・・・・・・」

「・・・いやーーーー。証拠はないぞ」

 そう言った時点で、白状している様なものだが、ヴィルドは白々しい口調で言う。

「僕が危篤だなんて・・・・・」

 返って来た言葉は、諦める口調だ。

「どうせ、まだ根も葉もないウワサを言いふらしているんだろうな。

 その上、証拠を残すような人じゃないし・・・・・・・・・はぁ」

 小さくため息を漏らすフィリオに、ヴィルドは誤魔化すように笑うだけだ。

 その笑い声が─────────

 一瞬、止まる。

「死ね!!」

 スルリと滑る影のようなそれが、一瞬でフィリオの首を掴み、そこから呪文の光弾が生まれ彼の喉元にたたき込まれた。

 

 

 

 

「ねえ、あれなんて言うの?」

 リフィニアは、目をキラキラさせながら、露店や店屋に並ぶ品々を見て廻っている。

 その後を追う形で、4人の女性達がゆっくりと歩いていた。

 武神祭も終わって、軒に並ぶ品物もやや数を減らしていたが、最後の一儲けと、商人達は格安セールを行っている。

「ねえねえ。これって───────────」

 しばらく商品に目を奪われ、後に続く保護者達の事を忘れていたリフィニアが、思い出したように振り返りながら言いかけて────しばし絶句した。

 

 ・・・・・・・・・・・・見渡す限りの人だかり。

 

「武神祭で優勝したシャフィール嬢がいるんだってよ」

「──────あのサインを」

「握手して下さい!!」

「この間来たって言うエルフも、一緒だ」

「へぇーーーやっぱり耳は長いんだな」

「おなごなのに背が高いのう」

「あの横にいるものすごい美人は・・・・・」

「・・・あのお名前は?」

「一緒にお茶でも」

 

 ミーハー軍団と、野次馬根性丸出し連中と、スケベ心丸出しの男共がエリカとソフィアとマチルダに群がっている。

 エリカは引きつった笑顔を浮かべながら。

 ソフィアは、好奇心丸出しの、見せ物を見に来た視線に憮然としながら。

 そして、マチルダはどこか人を食ったような魔性の微笑みを浮かべつつ、軽く受け流して廻りの人だかりに対処していた。

「・・・はは。

 凄いわねこりゃ」

 いつの間にかリフィニアの横にいたエリーは、まるでその人だかりを他人事のように眺めながら、しばらく収まりそうのない様子に、小さく肩をすくませて、近くのカフェに入っていった。

 そして、軽い飲み物を頼むと、まるで人だかりを見物するようにしていた。

 人混みがなくなるまで、2人はのほほーーーーーーん、としたティータイムをゆっくり楽しんで、疲労の見える3人の前に姿を見せると、じとりとした視線がからみつく。

「人が大変な時に、まるっきり他人事みたいに眺めて・・・・・・」

「まあまあ、いいじゃないの。

 どうせ私がここにいたって、どうする事も出来なかったんだから」

「それは・・・・そうだけどな」

 言って、ソフィアは、まだ何かいいたそうな顔をしながらも、それ以上は言わなかった。

 エリーが悪いわけではなく、ただ、ムカツクから、誰かに文句を言ってやりたいだけとゆうのを、彼女自身が自覚していたからである。

 ・・・・だが、エリカがそれで納得する筈もなく。

「まったく!

 こんな事なら、フィリオと一緒にいればよかった」

 誰に言うでもなく、つい本音を言ってしまったエリカに、リフィニアは憮然とし、ギロリと目つきを鋭くさせた。そして怒った様子でエリカに怒鳴る。

「お姉ちゃん!

 あんまりフィリオにベタベタしないでくれる?!

 フィリオは、将来私と結婚するんだから。

 悪い虫につかれると困るの!」

「なぁんですって!!」

 悪い虫呼ばわりされて・・・いや、フィリオと結婚すると言われて、エリカは弾けるように反応しにらみ返した。

「フィリオは、私のフィリオなの!

 私がフィリオと結婚するのよ!」

「フィリオが優しいからって、つけあがんないでよね。

 お姉ちゃんとは、オ・ア・ソ・ビ、に決まってんじゃない」

「何ですって!?」

 怒りをあらわにするエリカに、リフィニアは一歩も引かずその理由を付け加えた。

「だいたい、そんな太い足で・・・・・・・」

 グサ!っと、エリカを突き刺す言葉の剣。

「それに、ペッタンコの胸!!」

 ザクゥ!!っと、胸をえぐる深い槍。

「────な・・・なによ。

 色気の無いのはそっちだって同じじゃない」

 かなり気にしている事をズバリと突かれて動揺しながらも、エリカはどうにか反論する。

 が、リフィニアは鼻で笑うような仕草をし、即座に言い放った。

「いい!!

 アレ! アレ見なさい」

 そう言い、リフィニアはビシッと指さす。自分の母親である、マチルダを。

「アレが私の将来のプロポーションよ」

 

 ──────ゴォーーーーーーーン

 

 聞こえる筈のない鐘の音が頭の中で延々と鳴り響き、トドメとばかりに頭上に隕石が落ちてきたような衝撃を受け、エリカの中に深い闇が差し込んでいった。

「もはや先の見えた、お先真っ暗のお姉ちゃんが、将来のある私にかなう訳ないじゃない」

「うっ・・・・・ぐぅ・・・・・」

 歯ぎしりしながら悔しがる姿を見て、エリーもソフィアも肩をすくめて見つめ合っている。

(子供に色気の話しで負けてどーする)

 そんな歯ぎしりして悔しがるエリカに、リフィニアは勝ち誇った様子で微笑んでいた。

 ・・・・・・そう、この時までは。

「あら、フィリオ君って私みたいなプロポーションの女が好みなの?

 なら、誘惑しちゃおうかしら?」

 

 ───────ゴォーーーーーーーーン

 

 今度は、リフィニア頭上に隕石が落ち、心に深い暗黒の闇が差し込んでいった。

 もちろん、リフィニアは知っている。自分の母親の性格を─────

 事、フィリオが相手なら、おふざけや、お遊びに一番力を入れる困った母親の性格を。

 ここで、もし反論して、『年増はフィリオの好みじゃない』などと言った日には、すぐにフィリオの元に駆けつけて、彼を無理矢理誘惑するだろう。

 ──それこそ、手段を選ばず手加減せずに。

 プロポーションは抜群なれど、その性格ゆえ、フィリオも裸足で逃げ出すだろうが、蜘蛛の巣にかかった獲物のごとく、逃げおおせる筈がない。

 暗い顔のエリカとリフィニアに、ほほほほっと、上品な勝者の笑みが降り掛かっていた。

 

「ほう────確かにいい女だ」

 

 

 

 

 爆裂と閃光に包まれて、黒い影───

 オリフは、フィリオの喉元にさらに呪文をたたき込む。

「破壊の王子よ!

 我が道に煌めきの刃をもたらせ!」

 

 ズッム!

 

 彼の腕が一瞬光り、その波動がフィリオの喉元に続いていった。

 その瞬間、バシュっとオリフの腕に鮮血がほとばしり、その血が彼の顔を汚す。

「ぐっ」

 小さな嗚咽の後、オリフはさらに追撃の呪文を紡いだ。

「浄化の炎、黒炎の狼よ。

 その牙で全てを食らいつくせ!」

 この呪文もさらにフィリオを襲い、確実に彼を炎の中へと導いた。

 ぶすぶすと、肉の焦げる臭いと血が焼き付く音が重なり合い、焼け付く空気と焦げた血と肉の臭いが鼻を突く。

 オリフは、そこでようやく呪文を止めた。見開き、殺気だった瞳が、緩やかに元に戻っていく。

 直接フィリオに触れたまま、極大呪文を連発したオリフは、その極度の疲労感に包まれて一歩後ずさると、小さくこうつぶやいた。

「・・・ば、化け物め」

 その言葉の先に、フィリオがいた。傷ひとつなく、平然としている彼の姿が───────

 彼の代わりに、オリフの腕が、砕け、黒く焼けこげている。

「あんな無茶な使い方するから、呪文の効果に身体がついてこれなかったんだ」

 ヴィルドがそう言うと、オリフはさらに一歩後ずさった。

 彼の言うとおり、オリフの腕は、呪文の効果に耐えきれず、砕け、焼け焦げてしまっていた。

 だらりと力無くたれている腕は、もはやかつて腕だった物でしかない。だが、それは覚悟の上だった。それで、この男が殺せるなら、と。

 しかし──────殺せなかった。

 予想以上に強いフィリオの力に、絶望感に包まれるオリフだったが、すぐにそれを上回る戦慄をオリフは感じた。

「なっ・・・・・何ともなっていない」

 そう驚愕するオリフの瞳に、部屋の光景が映っていた。彼が呪文を唱える前の部屋の光景が。

 城壁すら砕き、町一つくらいなら焼き尽くせる呪文である筈の、あの呪文の至近距離に置いてあった本にすら傷ひとつついていない。

 オリフが、片腕を犠牲にしてまで行った呪文の余波が、ぺらぺらの紙切れに焦げ後さえ残せていなかったのだ。

「は・・・ははっ」

 力無く笑い、かたりと床にへたりこむ。

「騒ぎを大きくする訳にはいかないものな」

 ヴィルドが腕組みしたまま言う。よく見ると彼も傷一つない。

「とっさに、この部屋全体に結界を張ったんですか」

「ああ」

 フィリオは短く答えると、立ち上がりオリフへと近づいていく。

「『オリフ』ではなく、『フィリオ』の時の僕なら殺せると─────

 そんな所かな?」

 抑揚の無い声でそう言うと、フィリオは、彼の焼けこげた腕に指先で軽く触れた。

 そして、小さくつぶやきながら、つつっと滑らすようにして腕を振るうと、彼の腕は元通り傷一つない姿で治癒された。

 それを、黙って見ているオリフ。

 もはや、力の差は歴然としている。抵抗したところで、どうなるものでもない。

 

 ───────死ぬな。

 

 そう思うと、死を今まで恐れおののいてきたのが、突然バカらしくなってきていた。

 『殺されるかも知れない』と思うと、恐怖が次から次へと彼の心を襲っていたが、それが、『殺される』に変わった時、彼の心にはなぜか平静さが訪れていた。

「不思議に思わないのか?

 自分が殺そうと思っていた相手に治療される事が」

 ヴィルドは、そのあまりの冷静さゆえに、少々いぶかしみ、まだ彼が何かをするのではないかと怪しんだ。

 それがオリフにも感じ取れたので、彼の顔に笑みがこぼれた。

「天下に聞こえた竜騎士が、この私ごときの行動を警戒するとは・・・ね」

 ヴィルドを嘲り、笑うつもりなどはなかったが、自分が、英雄と呼ばれる人間に警戒されていると思うと、妙にうれしい気分になった。

 自分が、この英雄に警戒される程の価値があると思うと、まるで彼と肩を並べている様な気さえしてくる。

 そんなオリフを、ヴィルドは憮然として睨み付けていたが、フィリオがまだ腕の治療に掛かっていたので、それ以上の事は出来なかった。

「ちっ」

 ヴィルドは小さく舌打ちし、不機嫌そうにしていると、腕の治療を終えたフィリオがすっと立ち上がった。

 そして、静かにオリフの目の前に手をかざすと、少し大きめの光球を作り出す。

 魔力の輝き見て、オリフはコクリと喉をならしてから、覚悟を決めて目をつぶった。

「おい、フィリオ!」

 しかし、ただ一人、ヴィルドが驚愕したように彼の名を呼んだ。

「あなたには死と・・・・そして──────────」

 

 

 

 

「ほう。確かにいい女だ」

 恰幅の言い・・・と言えば聞こえはいいが、明らかに脂肪が付きすぎた感じの男が、若い男を数人お供に連れて、そう感心したようにつぶやいた。

 嫌らしい目つきで彼女を舐めるように見ると、うんうんと数回頷き、時折ニヤリと頬を歪めた。

 それが、ちょうど光りと建物の影の境目にその男の顔があったので、異様な不気味さを醸し出している。

 彼は無造作にポケットに手を突っ込むと、銀貨を一枚取り出し、近くの男に投げてよこした。

「さて、それでは今夜を楽しみにしているぞ。

 首尾よくゆけば、金貨10枚だ」

 男はそう宣言する様に言うと、命じた男の顔も見ないで歩き去っていった。

 軽く頭を下げて見送る者と、その男に着いていく者とに別れるお供の男達。そして残った彼らは、軽く頷きあうと、お気楽な観光気分丸出しの女性達に近づいてこう言った。

「よう姉ちゃん。

 俺らとつきあわねえかい?」

 下品さを、まるで誇示するようなその言葉に、彼女は少し脅えた様子で、口に手をあてて1歩後ずさる。

 それは、気の弱い女性がよく見せる仕草だったので、男達は気をよくしてさらに脅しを続けた。

「お高くとまってんじゃねえぞ!!」

「よう。1杯つきあえや」

 彼女は瞳をにじませながら、1歩また1歩と後ずさり・・・・・・。

「いい加減にしてね、ママ」

 

 ───────娘にそうたしなめられた。

 

 リフィニアは、心底うんざりしたような顔つきでマチルダを見つめると、呆れた様に肩をすくめてから、じとりとした目つきで言う。

「き・ょ・う・は、ここでの最後の日なんだからね!。

 厄介ごとはごめんよ」

 ブスリと釘を刺されて、マチルダは少しバツの悪そうな顔を、やや斜め上の青空に向けた。

「あら、お空が綺麗────」

 誰に言うともなく、とぼけた様子で一言ゆうと、声を掛けてきたごろつき達に、にっこりと微笑んで。

「それじゃ、そう言う事で」

 と、その横を過ぎ去ろうとする。

「ま、まて!

 なにがそう言う事でだ。いいから付いてくればいいんだよ」

 呆気に取られた男の一人が我に返り、そう言って、乱暴に彼女の腕を掴んだ。

 

 にやり

 

「ダメ!!」

 ビシッ!

 リフィニアが、悲鳴に近い声を上げると同時に、手刀が、マチルダの腕を掴む男の腕をたたき落とした。

「くっ、この野郎!」

 叩かれた腕をさすりながら睨み付ける男に、切れ長の瞳を侮蔑の色に染めてにらみ返すソフィア。

「痛い目にあわないとわからねえ様だな」

 ソフィアは、脅し文句になんら反応を示さない。それに怒りをさらに強めるチンピラ達。

「かまわねえ。

 あの女以外に用はねえんだ、やっちまえ!!」

 

 ───バキッッッッッ!!

 ────どかっっっっっ

 ・・・・・・・・・・ぐきぃ

 

「ストレス発散にもならないわね」

 エリカは、ごろつき達を一方的に殴り倒し、つまらなそうにそう言うと、ショッピングへと戻っていった。

「あ・・・・私の出番は────」

 横からいきなり現れて、ごろつき達を一蹴するエリカに、見せ場を完全に横取りされたソフィアは所在なげにたたずんでいた。

 

 

 

 

「あなたは、死と・・・・。そして、生が選べます」

 フィリオのその言葉に、閉じていた瞳を大きく開けるオリフ。

「おい、待てって!」

 フィリオの肩を掴んで止めようとするヴィルドは、真剣な面もちで彼を見つめていた。

「こいつには無理だ。

 せめて苦しまないように殺してやれ」

「やってみなければ分からないよ」

 その2人の会話に、オリフはコクリと喉をならし、見つめていた。

(・・・・せめて、苦しまないように殺してやれって)

 生きる望みが出たとたん、いきなりその恐怖に取り付かれたオリフは、小さく瞳を動かし2人を交互に見ていた。

 緊張の為か、それとも恐怖からか、口が渇き始め小刻みに手が震える。

「この光球は『知識の欠片』と呼ばれる物です。

 これには、僕の知識と記憶の一部が込められている。

 生を望むなら、これを差し上げます。

 そして、今まで通り『仮面の導師』を演じ続けて貰いましょう。

 もちろん、その名誉も富みも名声もあなたの物だ。

 ──────ただし、これを受け取ったが最後、後には引けないと思って下さい」

 いつになく、真剣な眼差しで言うフィリオ。

 それに、付け足す様にヴィルドが後を続ける。

「だが、これを受け取ったからと言って、必ずしも生き残れる訳じゃない。

 この記憶に負ければ、発狂し、よくて廃人。

 最悪、狂人となって死ぬ事になる。

 それに、もし生き残れたとしても、俺のようにこれから起きる戦いに身を投じる事になるんだ」

 そのヴィルドの台詞に、オリフはピクリと反応した。

「──俺の様に?」

 そのオリフの問いに、ヴィルドは少し虚を突かれ、口をつぐんだが、しばらくして、言いにくそうに話し始めた。

「・・・そうだ。

 俺も昔その光球を受け取っている。

 だから止めろと言っているんだ。

 俺はフィリオを親友と思っているから、あの記憶を受けなくても出しゃばるつもりでいたがお前は違う!

 これが、普通に死ねる最後のチャンスだ」

「普通に死ねる・・・・・・・・・」

 限りなく不安そうな表情で聞き返すオリフ。その不安を無視する様にフィリオが続ける。

「その理由は、この光球が応えてくれるでしょう。

 ──────────どうする?」

 そう選択を迫られ、オリフは、しばらくうつむいたまま黙っていた。

 しかし、その沈黙は長くはならず、オリフは覚悟を決めたような表情でこう言った。

「その光球を受ければ、記憶と・・・そして『知識』が得られるのですね?

 伝説と呼ばれた人間の持つ『知識』が」

 

 

 

 

「おじさん。ちょっとこれ高くない?

 ここに傷もあるし、もうちょっとまけてよ」

 エリーの言葉に、露店の店主は困り顔で頭をかいている。

 その交渉の横で、手に持てないくらいの品物を抱えているマチルダ。

「ママ、もうちょっと考えて買ってよね。

 これなんか、家にもあるでしょう。ほら、これも同じ物買ってるよ。

 もうちょっと品物をよく見て──────」

 リフィニアのたしなめる声の中、その店の隣並びの店では、エリカが、安物買いに明け暮れていた。

「あーー これ安い!

 このブローチも、こんなに安くなっている」

 どう見ても粗悪品としか見えないそれを、値段だけで判断して買おうとしているエリカのその横では、何とかこの事態を収拾しようとソフィアが頭を抱えていた。

「はぁ〜〜」

 値切るエリーに、衝動買いのマチルダ。それをたしなめるリフィニアに、安物買いで小銭を使っているエリカ。さらに、苦労性のソフィア。

 その一団が、あっちの店に行っては物色し、こっちの店に行っては荷物を増やし、花畑を転々としていくミツバチの一群のように、ショッピングを繰り広げていた。

「あら、アレは」

 その一団を馬車の奥から見つめる1人の女性。

「ちょっと、止めなさい」

 御者に向かってそう言うと、彼女は向かいに座るもう1人の女性に小さく微笑んだ。

「少し待って下さいましね。

 あの方達なら、何か知ってらっしゃるかも」

 上品な声でそう言うと、彼女は胸で眠っていたアルフォンスをゆっくりとクッションへと降ろし、スカートのスソをちょっと摘んで腰を浮かせ、馬車から降り立つと、その一行に近づいていく。

「あら、レオナ」

 片手に荷物を抱え、口には1口サイズのパンをくわえながら、そう言ったエリカに、レオナは思わず突っ伏してしまいそうになった。

「・・・あ、あなた!

 少しはレディとして品よく出来ませんの!!!」

 いきなりヒステリックな声で怒鳴られ、思わず口にしていたパンを飲み込んでしまい、むせるエリカ。

「な、いきなり怒鳴らないでよ」

 パンを無理矢理飲み込んで、恨めしそうに言うエリカに、レオナは目をむいて怒っていた。

「あなたは、いやしくも伯爵家令嬢なのですよ。

 もう少し品格と言う物をですね─────」

「ま、まあまあ────」

 すんでの所で、ソフィアがなだめに入り、レオナの怒りの矛先はソフィアへと、今度は愚痴とゆう形で向けられると、今度はリフィニアが大きく声を出した。

「あ! あの時の人だ」

 レオナの出てきた馬車から、同じように出てきた女性に向かってとことこと歩いていく。

 その女性とは、頭には何かかごの様な物をかぶった上に黒い布を巻き付け、その僅かな隙間からエメラルドの輝きを思わせる瞳を覗かせている、候騎士ブラックフレイムの娘ミレニアム・ファーレンである。

 彼女が出てきたとたん。廻りにいた人達から、遠巻きに畏怖と好奇の視線が注がれる。

 全身を黒い布で覆い、そして見えるところは僅かに瞳のみ。それも、無表情にピクリとも動かない。

 が、その瞳が、不意に見開かれた。

「こんにちは!」

 リフィニアが近づいてきて、ぺこりとお辞儀をすると、ミレニアムの瞳を見てにっこりと微笑んだ。

 その行動に、驚愕の色を見せたミレニアムは、一瞬たじろいだが、しばらくしてからハスキーな声で小さく返事を返す。

「・・・こ、こんにちは」

 その光景を眺め見て、レオナはちょっと口に手を当てる様にして、嫌みを言う。

「・・・あら。

 どこかの誰かさんより、あのお子さまの方が礼儀正しいですわね。

 あのお子さまに、弟子入りでもしてくれませんかしら。

 ほっほほほほほほほ──────────────────」

 嫌みったらしい笑いに続いて、リフィニアが返ってくると、にこやかに笑った少女の聞き逃せない一言。

「へへ・・・・後でフィリオに褒めてもらおっと」

(それが目的か、このがきゃ)

 怒りの瞳をリフィニアにたたき込むが、少女は涼しい顔で平然としている。そして、時折嬉しそうにして笑っていた。

 おそらく、褒めて貰った時の事でも考えているのだろう。

 当然、その度にエリカの視線がきつくなり、それを見てるレオナは、さらに声を大きくして高笑う。

「あ、あの・・・・・」

 控えめな声で言うミレニアムは、そんな彼女達から完全に取り残されていた。

 そして、いつもと違う反応に半ば動揺している。

 

 視線が合わないようにして無視する人もいた。

 ことさら、好奇の視線を向けてジロジロ見つめる人もいた。

 中には、屈辱的な言葉で罵る人も。

 

 しかし、完全に無視され、普通の人のように扱われたのは初めてだった。

「あ、あの・・・レオナ様・・・・」

 ただ1人の友人である筈のレオナも、なにやらうれしそうに高笑いを続けているし、この状況から助けてくれそうにない。

 そしてきょとん、と道にたたずむミレニアムが、ようやく注目されるようになったのは、刃物を持った男達が、彼女のすぐ後ろにまで近づいた時だった。

 

 

 

 

「ぐっぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー」

 喉の奥からの絶叫を上げ、胸をかきむしりながらのたうち回るオリフは、その瞳から涙を流し、口からはわずかながらも泡を吹いていた。

「がはっ・・げぇ・・あ゛ぅ・・・・」

 顔を赤黒い色に変え、さらに黒ずんだ血管を浮かび上がらせたオリフは、息をすることすら苦しく生きている事すら苦痛に感じられた。

 まるで、空気そのものが彼を浸食していく感じがする。死神に襟首を捕まれているようだ。

「だから───言ったんだ」

 ヴィルドのそんなつぶやきも、悲鳴にかき消えて誰にも聞こえない。

 オリフの姿を、気持ち悪そうに見つめる彼は、しばらく考える様子でそれを見つめていたが、一度目を閉じ、持っていたペンダントを取り出した。

「剣よ」

 彼が小さくそう言うと、ペンダントから剣の柄が伸びてくる。

 そして、ヴィルドはそれを掴むと引き抜くようにして、大降りの剣を取り出した。

「苦しまないようにしてやる」

 そう言うと、剣を大きく振りかぶろうとする。

 が、フィリオが左腕を上げてそれを止める。

「フィリオ?」

 意外そうな口調でヴィルドは言った。

 ここまで苦しんでいては、とても知識と、そして苦しみの元である記憶を、オリフが受け入れられるとは思えないからだ。

 ヴィルドが、フィリオの記憶を曲がりなりにも受け入れることが出来たのは、予備知識としてフィリオから聞かされていたからだ。

 それに、マチルダの存在も、大きく彼を支えてくれた。

 だが、それでもなお、半年ほど悪夢にうなされ、今でも思い出しただけで吐き気を催す程だ。

 彼なりに、凄惨な場面を幾つか見知っていたが、この記憶はさらにそれを上回っている。

 その記憶を知り・・・・いや、感じて、苦しみのたうちまわるオリフには、とてもこの記憶を受け入れる事は出来ないだろう。

 だが、彼の苦しむ姿を、フィリオは一瞬も見逃さぬように凝視している。

 そして、当のオリフと言えば、ヴィルドが言った事を身にしみて感じていた。

 

 今、彼にとって、死は救いだ。

 

 この苦しみから逃れられるのなら、彼は間違いなく死を選ぶだろう。

 『仮面の導師』の残忍性は、彼の予想を遙かに上回り続けている。

 その知識から出てくる訓練と賞する拷問は、とても人が行えるモノではなかった。

 硫酸の壺に投げ込まれ、その酸の浸食より早く自らの身体を治療する。

 地下の、身体すら満足にのばすことが出来ない程の小さな空間の暗闇の中で、半年近く生きて、精神を安定させ続ける。

 生体強化を施す外科手術を行い、その拒絶反応に苦しむ日々。

 それら全て、彼の身体を作る作業だったのだ。

 できあがった身体を、老いた自分の身体の代わりとするために。

 そして、今は満足に眠ることすら出来ない。

 眠れば、『仮面の導師』の精神が、覆い尽くすかも知れないから。

 

 ・・・気が狂いそうだ。

 いっそ、気が狂った方が何も感じないだけ幸せだろう────────────

 

「もう・・・楽にしてやれ」

 ヴィルドが哀れみを込めて言う。

 オリフは、両目をあらん限りに見開き、ピクリともしなくなっていた。

 口はだらしなく開き、よだれとも泡とも言えない物が唇に付いている。

 その廻りには、胃液が異臭を放って床を汚していた。

 それでも──────フィリオは、彼を見つめていた。

 まるで何かを待っている様に。

 

 最後の希望。

 

 自分が狂わなかった、蜘蛛の糸より細い希望。

 それにオリフが気づいてくれる事を───────────

 

 

 

 

「なに?

 またあんたらなの」

 殺意ギラつく瞳と、先ほどより多くなった人数に向けて、エリカは無造作に言い放つ。

「痛い目にあわせてやる!」

「さっきもそんな事を言っていたな」

 相手を挑発するようにソフィアも言う。

「コレ。

 エリカさんのお知り合いですの?」

 チンピラ達を蔑むように見下し、エリカをからかうように言うレオナ。

「殺すぞ、貴様ら」

 おでこを真っ赤にして、血管を浮かび上がらせたチンピラ達は、その声を合図に襲いかかった。

 皆、手に手に武器を持ち、殺意をみなぎらせている。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぼぐぅ

 

「で?

 レオナは何でこんな所にいるの?」

 ミもフタもなく、チンピラ達をあっさり倒したエリカは、息さえ乱さず、彼らを片足で踏みつけたまま、傍らで同じようにして高笑うレオナに話しかける。

「ほっほほほほ────

 え? ・・・・ああ、そうでしたわ」

 自分が馬車から降りた理由を本気で忘れていたレオナは、コホンと誤魔化すように咳払いを1つしてからこう言った。

「人を捜しているんですの。

 今朝、ミレニアム様が無頼の輩にさらわれそうになった時、颯爽と現れてお救いして、何も言わずに去っていってしまったお方を。

 どうやら男性の方らしいのですが・・・ミレニアム様」

 説明を促すようにレオナが視線を向けると、ミレニアムは小さく頷き説明しだした。

「はい。わたくしが襲われ、悪漢の魔法で気を失う寸前でした。

 風の様に現れ、あのお方は一瞬で悪漢達を倒されたのです。

 魔法で、気を失い掛けていたので、ハッキリとあのお方のお顔を拝見できなかったのですがただひとつ。髪の毛が黒かったと記憶しています」

 女性にしてはハスキーな声でそう言うと、ミレニアムは瞳を伏し目がちにして黙ってしまう。

「黒い髪の男ねぇ」

 エリーは、淡々とそう言って辺りを見回した。

 野次馬の10人に1人は黒髪だ。

 それはミレニアムにも判っている様子で、やや諦めたように目を伏せている。彼女の様子を見て、エリカが一言。

「どうせ、レオナがたきつけたんじゃない?

 諦めるのは探してからでも遅くありませんわ、とか言って」

「うっ。

 な、なにを根拠にそのような事を──────」

(・・・・・・・・・・図星か)

 結構ミーハーなレオナの性格を知っているエリカは、彼女の言い訳を軽く聞き流す。

(名のらず去っていった、とか言う辺りが、ミーハー心をくすぐったのね)

 小さく、ふっと笑みを浮かべるエリカに、レオナは口調も強く言い訳を並べていた。

「とにかく!

 もし、黒髪のそれらしい方がいらしたら教えてくださいましね」

「はいはい。わかったら、ね」

 エリカが、そんなの無理だと言わんばかりに答え、レオナは憮然とする。

「本当にお願いしますわよ!!」

「レオナ様、わたくしはもう本当に・・・・・・」

 一触即発の雰囲気が漂い始め、衝突は免れないと思われていたが、それを見ていたミレニアムが、彼女をなだめに入った。

「───まあ、ミレニアム様がそうおっしゃるのなら」

 レオナはそう言って、少し残念そうな表情を見せる。

 が、それまで、そのやりとりを見ていたソフィアが、ちょっと不思議そうな顔をしながら訊ねる風にしてこうつぶやいた。

「だが、黒髪はともかくとして、悪漢達を倒せるほどの力量を持つ者を探せば、特定は可能なのではないか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・しばし、冷たい空気が流れた後。

「そう! そうですわ!」

(・・・・・やっぱり気づいていなかったんだな)

 心の中でため息をつくソフィアを、まったく意に介さず話をすすめるレオナ。

「ミレニアム様。

 数人の悪漢を、一瞬の内に倒せる者などそう多くはありません。

 すぐに騎士団の中・・・・いえ、武神祭の上位者をすぐにあたりましょう」

 レオナは、まるで自分が閃いたかのようにそう言うと、希望の光を見いだしたミレニアムを連れて、別れの挨拶もそこそこに馬車へと戻っていった。

 だが、まだエリカが余計な一言を。

 その途中。レオナが馬車へと乗り込もうとしていたその瞬間。

「ねえ! それって・・・・・・・フィリオじゃないの?」

 そのエリカの一言で───────

 レオナは馬車の扉に思いっきり頭をぶつけて、さんざんエリカに怒鳴り散らした。

 

「フィリオ、たっだいま!」

 元気いっぱいの声で、エリカは、リフィニアよりも先に部屋に飛び込んで帰ってきた。

「お姉ちゃんズルイ!」

 そう言って次に入ってきたのはリフィニアだ。続いて、にこにこしながらマチルダが続く。

 ソフィアとエリーは、町で別れてきた。

 だが、リフィニアが誘い、ディナーをフィリオの手料理を一緒に食べることになっている。

 もうすでに寝間着から、普段着に着替えていたフィリオは、その3人を迎えると、何の料理がいい?と聞いてきた。

 リフィニアもマチルダもそしてエリカも、自分の好みを口々に言い、その全てを聞いていたら、ものすごい組み合わせになりそうだったので、その中から1品2品をチョイスしてフィリオは献立を考える。

 ───────その場所にオリフはいなかった。

 あの後、オリフは、フィリオの出した記憶を、何とか受け入れる事が出来た。

 人相が変わるほど衝撃を受けた彼が、頼もしい味方になるか・・・・・・・それとも、手強い敵になるかは、これからオリフが考えて決めるだろう。

 それでも、今夜の夕食ぐらいは平和に楽しく過ごせる。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・この大切な一時を。

 

 

 

 

「フィリオ君、絶対コックになった方が良いわよ」

 ディナーの皿が全て空になった後で、ナプキンを手に、エリーは強くそう言っていた。

「一応、魔法使いなんですけど」

 控えめに反論するも、エリーもそしてソフィアも、視線でコックの方が良いと告げている。

 机や食器などが足りない理由から、ハーブの森の2階を借りて行われたディナーで、フィリオはその腕を遺憾なく発揮した。

 それこそ、この店の女主人であるミレアが、その料理のレシピを要求するほどに。

 フィリオは、かちゃかちゃと食器を下げながら、食後の紅茶と、そしてリフィニアにオレンジジュースをすすめて、適当に片づけが終わってからゆっくりとテーブルに着く。

「ごちそうさま。

 相変わらずいい腕ね」

 マチルダがそう言い、それに関してだれからも異論は出ず、エリーとソフィアなどは、大きく頷いていている。

 そしてしばらく雑談を交わした後、夜もふけてたからと、まずエリーとソフィアが席を立った。

「それじゃぁね」

 リフィニアは、帰るソフィアとエリーに、にこやかな笑顔を向け大きく手を振るが、さも送って行くのが当然と言わんばかりに、フィリオの腕を持つエリカには、じとりっとした視線をひとしきり突き刺した後、一言。

「暗がりに紛れてフィリオを襲ったりしたらダメだからね」

 と釘を刺す。

 フィリオは、後かたづけが残っていたので、エリカと共に残り、セレス一家は先に店を出た。

 月と星空の下を、親子水入らずで歩いている。

 が、久しぶりの親子水入らずだというのに、あまり嬉しそうな顔をしていなかった。

「待てよ」

 と、人気のない所で声を掛けられた。

 闇の中から聞こえる男の声が、一行を止めると、その声に続いて、わらわらと昼間のチンピラ達が顔を出して来る。

「なんだこいつら?」

 ヴィルドは、彼らの姿を見て思わずそう言い、マチルダに目を向けた。

「・・・さあ?」

 昼間のチンピラ達と重々承知の上で、マチルダはにこやかに微笑んで言葉を返す。

「てめえ!」

 青筋浮かべるチンピラ達から怒号が聞こえるが、にこやかな表情は崩さないままで微笑んでいるマチルダ。その様子に、ヴィルドは恐る恐る語りかける。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 あ、あのマチルダさん」

「はい、何ですか?

 あ・な・た」

 やけにきびきびと、はっきり返事をする妻に、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、何でもありません」

 なぜか、丁寧語で、諦めたような表情を浮かべるヴィルド。

「おいおい、そっちで勝手に何くっちゃべってやがんだ」

 男達の1人が無視されているのに腹を立てて、近づいてくる。

「止めよ」

 が、さらに後ろの闇の中から、それを制する声が聞こえると、恐縮した様子で男は立ち止まった。

「女性に乱暴な発言は許さぬぞ」

 そう言い現れたのは、顔を布で隠した太りすぎの貴族だった。

「・・・は、はい」

 男はしぶしぶながらもその貴族の言葉に従い、後ろへ下がる。

 そして、その貴族は、好色そうな視線をマチルダに絡ませ、満足したように言う。

「いやいや、夜見るとさらにその美しさがさえるではないか。のう?」

 近従の者にそう言うと、追従の声が返って来ていた。

 その言い方はまるで、物でも品評する様な言い方だ。

「手強いと聞いて来てみたが・・・どうやら来るまでもなかったな。

 男とガキには用はない。始末するように」

 品物を扱う様な口調で、あっさりと貴族の男は言う。

 その貴族の男には、平民など物やゴミと同じなのであろう。それが、ありありと取れる言葉だった。

 そして、それを聞き、ヴィルドは覚悟を決めた様子で一言つぶやく。

「・・・どうぞ」

 その言葉を、男達はあきらめの言葉と受け止めたのであろう。

 彼らは、にやにやと笑みを浮かべ、夫のふがいなさをあざ笑う。

 妻を取られる事を悟った夫が、命乞いの為に妻を差し出していると思えたのだ。

 だが、その言葉に嬉々として答えたのは、何と差し出された筈の妻の方だった。

「あら、悪いわね。

 あっ、大丈夫よ。一応手加減はするから」

 と、マチルダが一言いったとたん、彼女の姿がかき消えるようにして闇に紛れた。

 そして────打撲音が次々と聞こえてくる。

 一音一音ごとに、チンピラ達が大地に崩れて行った。

「変な気配がしたから、てっきり刺客か何かだと思っていたのに、こんな奴らが相手なんて・・・・・・・。

 わざわざ遠回りして、人気のない所にくるんじゃなかった」

 反省するように言ったヴィルドの瞳には、マチルダが楽しそうに男達を殴り倒していく姿が映っていた。

 ヴィルドは、この物好きな性格を半ば諦めるようにして、見つめている。

 マチルダは好きなのだ。圧倒的に優位な立場にいると思っている人間の足下を崩すのが。

 特に、強盗や暴漢達が数を頼んで女性や弱者を襲ってくるのを、ミもフタもなくブチ倒すのが。

「力で人を思い通りにしようとしているんだから、こちらがそうしたところで相手が文句を言える訳がないわ」

 マチルダは、しれっとそう言うが、自分がか弱い女性を演じて、そう言う人間達に襲われ易いようにしているのは、笑って誤魔化している。

 手を出されるまでは上品な貴婦人なのだが、手を出されたあとのマチルダは歩く恐怖と化す。

 だからこそ、昼間、チンピラの一人がマチルダの腕を取った時、彼女は満面の笑みを浮かべ、リフィニアは悲痛な叫びを上げたのだった。

 

 

「な、な───────────」

 脂肪の肥大した貴族は、何事が起きているのか訳が分からず、ただ呆然と立ちつくしていた。

 主人を見限って、自己保身の為に逃げ出す輩もいるにはいたが、彼らも数歩逃げた時点で打撲音と共に大地に崩れている。

「・・・・・・・来る必要無かったね、やっぱり」

 そう声が聞こえたかと思うと、いつの間にか、ヴィルドとリフィニアの後ろにフィリオが来ていた。

 彼も、気配を感じ一応見に来たのだが、まるっきり出番はなさそうだった。

 フィリオが、苦笑を浮かべてその光景を眺めていると、

「・・・あ!」

 と、マチルダがとっさに声を出した。

 相手の後頭部に、見事な回し蹴りを加えていたマチルダは、さっとその足を下げ、両手でスカートを押さえつける。

 そして、フィリオを睨むようにして言う。

「もう!

 来ているなら来てるって言ってよね」

 すねるように言ったマチルダは、続けて。

「・・・・スカートの中見たでしょ」

 

 ・・・・・・・・・ぴしっ!

 

 顔を少し赤らめてそう言うマチルダに、フィリオは形容しがたい表情を作り、顔を引きつらせたまま硬直した。

「・・・エリカが気づく前に帰るわ」

 その表情のまま、フィリオはすぐさま回れ右をすると、逃げるように帰っていく。

「もう!」

 彼の後ろ姿に、軽く怒って見せるマチルダ。そして、彼女は再びチンピラ達を大地に崩していった。

 マチルダは、先ほどから常人には、見る事すらかなわないスピードで動いていたのだ。

 それを捉えるには、『仮面の導師』や『竜騎士』でも至難の技なのである。

 普通のチンピラや田舎貴族には、相手をする事すら初めから無理な事だった。

 廻りの共の者を全て倒され、太った貴族は指一本すら動かせないまま、しとやかに歩いてくるマチルダを、脂汗を流しながら見つめ恐怖をあらわにする。

「あなたが、昼間の件の黒幕ね」

 優しげな声が、今は魔女のささやきの様に聞こえる。

「・・・・ぶ、無礼な。

 私は子爵家の───────」

 その言葉を遮るように、マチルダは言う。

「──────あら、ごめんなさい。

 名乗りが遅れちゃって。

 わたくしは、カルマン王国。セレスティ公爵家当主、王国総軍団長ヴィルド・セレスティの妻。マチルダ・セレスティです。

 よろしく」

「・・・え゛?」

 太った田舎貴族は、さらに頭が混乱して、半分だけ口開け、そのまま石化したように硬直してしまう。

 その果てた貴族を見て、ヴィルドはやれやれとゆった表情になり、終わりを告げる声を掛けた。

「もうそろそろ気が済んだかい?」

 柔らかく、マチルダに言うヴィルドであったが、マチルダの嬉しそうな顔を見るなり、一瞬で顔を青くし身を仰け反らせるようにして、後ずさってしまった。

「あら、大丈夫よ。言ったでしょ手加減するって。

 まだ、だれも死んでないし、殺すつもりもないんだから。

 ただ────────」

「・・・ただ?」

 恐る恐る聞き返すヴィルドに、マチルダはにこやかにこう答える。

「ただ、昼間の時に全部横取りされちゃったから、ちょっと機嫌悪いのよね。

 だ・か・ら────死んだ方がマシ!

 ぐらいの事はするけど」

 

 ・・・翌朝、髪の毛が一本残らず白髪に変わり、それすら所々抜け落ちていた彼らは、町で一番高い時計塔から片足にロープをくくりつけられ、裸で逆さに吊された格好で発見された。

 以後、彼らはこの夜の事に口をつぐみ、一人残らず女性恐怖症になったという。

 さらに、首謀者である貴族の男は、その顔と胸と背中にでかでかと『生ごみ』の文字を一生消えない様に魔法で彫り込まれ、さらには去勢されていたそうである。

 

 

 

 

「今度はコッチに遊びに来てね」

 そう言って、リフィニアが手を振っている。

 今日は何事もなく過ぎていき、町のはずれまで見送りに来た面々は、見えなくなるまで手を振るリフィニアに、同じように手を振っていた。

 彼らを見送りつつ、エリカは人知れず胸をなで下ろしている。

(これで、やっと二人っきりの楽しい時間が────────)

「フィリオ君」

 そんな事を考えていると、いきなり後ろから声を掛けられた。

 慌てて見ると、そこには、仮面の導師オリフの姿が。

「相変わらず仲がよろしいですね」

 オリフは、そう一言だけ言うと、振り返り去って行く。

「・・・?

 何しに来たんだろう?。ね、フィリオ」

「・・・ん?

 さあ・・ね」

 


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