シネマアングル:強制連行の犠牲者、北海道の遺骨発掘を追う「笹の墓標」 国超え心合わせた15年
毎日新聞 2013年10月25日 大阪夕刊
戦時中の北海道での過酷な工事で命を落とし付近の野山に埋められた強制連行・強制労働の犠牲者。日本人、韓国人、在日コリアンの多数の若者が、遺骨発掘に1997年から取り組んできた。ドキュメンタリー映画「笹(ささ)の墓標」は、彼らが共同作業を通じ、ともに平和な未来を築こうと心を合わせていく様子を描く。5章構成で計9時間9分の大作だが、11月2〜22日、大阪市西区のシネ・ヌーヴォで連日、全章が上映される。【戸田栄】
北海道幌加内町朱鞠内(ほろかないちょうしゅまりない)で、地元の住職を中心に80年代に始まった強制連行・強制労働の犠牲者の遺骨発掘は、その後、野山を覆うクマザサに阻まれ中断していた。そこへ韓国人の若き文化人類学者、鄭炳浩(チョンビョンホ)さん(現漢陽大教授)が、日韓、在日の若者を集めての発掘を提案。その時から現在に続く「東アジア共同ワークショップ」の遺骨発掘計画が始まった。
朱鞠内、北海道猿払村浅茅野(さるふつむらあさちの)での遺骨発掘で、若者の前に日本と朝鮮半島の“過去”が現実のものとして出現する。さらに、犠牲者の遺族を捜し当て訪ねると、悲嘆にくれる姿があり、遺骨が人間としてよみがえる。
映画は、日本と朝鮮半島、在日の未来をどう描くかを遺骨発掘の参加者を超えて多くの人にインタビューし、見る者に問いかける。
最終盤では、当初の参加者も集まった昨年夏の芦別市での遺骨発掘を紹介。和気あいあいとした雰囲気の中、現在は大阪市のコリアNGOセンター事務局長を務める在日コリアンの金光敏(キムクァンミン)さん(41)は「現在の日中韓の関係が険悪な中、ワークショップだけがユートピアになっている。それでいいのか」と問題提起。長く遺骨発掘に携わってきた同年代の韓国人、金英丸(キムヨンファン)さん(41)=現在はソウル市の平和博物館事務局長=が応じる。「歴史や領土を巡って問題が起きる度に、私たちはまた会えるのかと危機感を覚えてきた。だが、そうであればこそ私たちはまた会う必要がある。個人的には、問題が起きる度に鼻で笑ってやります。けんかをする前に大切なことがある」。15年の共同作業から導かれた言葉だった。