「よく来て下さいました」

 にっこりと微笑んだ笑顔に、月の青い光と、部屋のランプの明かりが微妙な陰影を照らしていた。

 今夜は満月だ。夜道にも青い光りが降り注がれ、夜目が利かない者にもその顔はハッキリと映る。

 彼女は満面の笑みで家を訊ねた男を迎えると、彼を部屋の中に迎え入れて木の扉を閉めた。

「おいおい・・・・・・・・・・しゃれになんねえぞ」

 酒場からの帰り道に、その光景に出くわしてしまったカイルは、信じられないと言った面もちで、ポカンと口を半開きに唖然としている。

 気分良くほろ酔い気分で酒場から出てきた筈なのに、たったいま、すっかり酔いも醒め、彼はこれからの事や、これまでの事などをいろいろと頭に巡らせる。

 

(それにしても・・・・・・何で?)

 

 そう思わずにはいられない。

 つい先ほどまで目の前にあった光景は、それほど、彼にとって衝撃的なものだったのだ。

 考えたこともなかった彼の友人の行動に、カイルはいつの間にか、たらりと冷や汗流していた。

 

(なんで、フィリオが?)

 

 

 

 

 『仮面の導師』が宮廷魔術師とゆう事で、近年急激に有名になったモルト王国は、戦乱の時代と呼ばれるこの時代の中で、唯一平和な国であった。

 その理由は、自然を味方に付けているからである。

 東にはスタイビール山脈。南には名も無き広大なジャングル。西には国土より広い砂漠に、北は凍土により埋め尽くされているのだ。

 それらに囲まれたモルトを攻略するには、最低でもそれらの内のどれか一つを突破しなければならない。

 そのどれもが秘境と呼ぶにふさわしい場所であり、踏破するだけでも多大な犠牲を払う事は火を見るより明らかだった。

 もし、そこへ侵攻軍が進入したとすれば、戦う前から壊滅的な打撃を受ける事は間違いない。

 これといった特産物も無し。希少金属が出る訳でもないこの国を、膨大な損害と、莫大な費用を使って侵略しようと言う国は無かった。

 

 ───モルト王国は平和である。

 

 しかし、宮廷魔術師の導師オリフは、まるで死刑でも宣告された死刑囚のように、青ざめていた。

「その話は、本当ですか?」

 言いながら彼は、自分の首をさする。まるでそこにある自分の首を確認するかのように。

「どうしたのですか導師様? ものすごい汗ですが」

 ソフィアは、総務課の雑務で導師の部屋に訪れていた。

 彼女は、この国にとどまる事を決心して魔導師協会総務課に配属されたが、諸々の事情により、オリフの手伝いをしたり、協会本部の受付を手伝ったりしている。

 彼女自身、この男を導師と呼ぶのにはいささか躊躇するものがあるが、この秘密を喋る訳にもいかず仕方無しに導師と呼ぶ事にしていた。

 もちろん、だからと言って、彼女が仮面の導師に仕える事を諦めた訳ではない。

 この男がニセモノとして立っている事を知りつつ、あえてホンモノの仮面の導師が黙認しているのは、なにかしらの理由があるに違いないのだ。

 その理由が分かれば、もしかしたら、ホンモノの導師に仕える事が出来るかもしれない。

 ・・・と、「いつか本物の導師様にお仕えする」と心に秘めて、彼女はこの国に止まる事を決めたのだった。

 そんな彼女が努める魔導師協会総務課に関する噂が、最近まことしやかに流れていた。

「いいのです。

 それより、フィリオ君が浮気をしているとは?!」

 驚愕を隠そうともしない口調で訊ねる導師オリフからは、いつものようなゆったり余裕は感じられなかった。

 代わりに、その時の彼からは、追いつめられた様な悲壮感が漂っている。

「まあ、あくまで噂ですが。

 ですが・・・・・・・もしそれが本当だとしても、判るような気がします。

 ああまで、エリカ殿にべったりされては、男性としては嫌気がさしましょう。

 それに、彼はそのことでずいぶんと迫害されているようですし、その辺りが彼の重荷になったのかもしれません」

「そんな事はありません!」

 と、オリフは大声で否定する。しかし、すぐに声の大きさに気づき、気まずそうに顔を背けた。

「大きな声を出してすみません。

 しかし、そんな事はありません。そんな事はあってはならないのです」

 まるで自問自答するかのように呟くオリフに、ソフィアは不信感を抱きつつも、そっと立ち上がった。

 そして、考え事を始めたオリフの邪魔にならぬよう、そっと部屋を出ていった。

 導師の塔を後に、石が敷き詰められた通路を歩いていると、ふと彼女の目に人だかりが目に入ってくる。

 その人だかりの中に、偶然にも先ほどの噂の関係者がいたのをソフィアは見逃さなかった。

 白銀の儀礼用の鎧を身に着け、左手で兜を持ちながら凛々しく歩くエリカの姿を。

 真紅のマントをなびかせ、肩で風を切る姿はとても、総務課で見せる同一人物とは思えない。

 こうして見ていると、聖騎士と呼ばれるにふさわしい風格と気品に満ちあふれているように思えてくる。

 総務課では絶対に、見られない彼女のもう一つの顔だ

 

(どうなるのかしらね?)

 

 彼女が城に入るのを見届けると、ソフィアはちょっと立ち止まって、右手をアゴに当て考える仕草をする。

 だが、それもほんのしばらくの間だけで、すぐに足は動き始めた。そして、真っ直ぐ魔導師協会本部へと向かう。

 この噂を聞いた本人と、もう一度話す為に。

 

「あら、いらっしゃい」

 本部の扉を開けると、そこにはに営業スマイルで女性が迎えてくれた。

 彼女こそ、この噂をソフィアに聞かせた当人だ。

「エリー。今日は何時に終わる?

 少し、聞きたい事があるのだが」

「あら、デートのお誘い?

 女と女なんて・・・・・・ふふっ。

 なんて、甘美なひ・び・き」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 エリーは、甘ったるく言うが、それにソフィアはうんざりした様な視線で返していた。

 すると、ちょうどその場にいた者達から、吹き出るような笑いが聞こえてくる。

 廻りにいる者達は彼女の悪癖を知っているから、誰も今の言葉を本気にしていない。

 本気にするのは、年を取ったお偉いさんと呼ばれる老人達か、それとも──────

「そうやって、うろたえるのはフィリオぐらいだ。

 気持ち悪いから止めろ」

「あら、残念。

 でも、あなたのその男言葉とその姿に、熱を上げている少女達もいるのよ」

「私の知ったことか!

 それより、何時に終わる?」

 淡泊なソフィアに、エリーはつまらなそうな表情で、つっけんどんに答えた。

「いつも通り5時よ」

「それなら、いつもの場所で6時だ」

「いいわ。じゃ、6時に」

 

 

 モルト王国、首都ウライユールには様々な酒場がある。

 貴族達が使う無駄に高い場所から、安さだけを売りにしているガラの悪い所まで様々な店が軒を連ねているのだ。

 その中でも、ひときわ異彩を放つ酒場があった。

 『ハーブの森』と名付けられた、女性専用の酒場である。

 先代の店主が、「女性以外は客じゃない」と言って店を開いたが、スケベ男の所に女性客が来るはずも無く開店休業。

 しかし、その娘が店を継いだとたん、女性客がドッと訪れる様になった。

 女性専用の店として店員も女性だけにし、男性を一切排除したので、酔った男に絡まれずにお酒を飲める店として、評判の店に早変わりしている。

 そのハーブの森で、ソフィアとエリーはグラスを手にしていた。

「じゃ、とりあえずお疲れ」

 そう言って、ワイングラスを傾ける二人のテーブルの周りは、すでにがやがやと騒がしい。

 若い女性から、行商のおばちゃんまで、およそ女性であると言う事以外の統一性はない店内の風景は活気に満ちていた。

 だが、女性しか集まらないからといって、この店が他の店より優雅で気品ある店だとは決して言えない。

 男の目をまったく気にしなくて良いので、女性客達は普段着込んでいるネコの毛皮を何枚も脱ぎ去り本性を表している。

 おおっぴらにきつい酒をあおり、たばこを吸い、下世話な話や猥談でげらげらと大声で笑っている。

 そこには、男共が想像するような世界は一片もなく、女性の本性と言う現実がどっかっと鎮座していた。

 

「いらっしゃい」

 笑い声と歌声をバックに、エリーに声を掛けてきたのは、この店の女主人ミレアだ。

 三十そこそこの筈のミレアだが、まだまだ二十代で通る肌の張りを見せている。

 しかし、彼女の年下の友人が本当の年を吹聴するものだから、年齢を誤魔化す事など出来なかった。

 そんな、ミレアが小さい頃から可愛がっていた年下の友人は、座ったままで声を返す。

「ミレア。なんか、軽いものちょうだい。

 それから、この前来た時あんたいなかったから紹介出来なかったんだけど、彼女がソフィア」

「よろしく」

 ソフィアは、エリーに紹介されて軽く会釈した。

「私の方こそ今後ともよろしく。ごひいきにね」

 ミレアは、しっかりと商売の事を考えた挨拶を返すと、唐突に話題を変えて、話をエリーに振った。

「あ、そうそう、新しいメニューが出来たのよ。試してみない?」

「あなたのオリジナルじゃなければいいわ。」

 迷いなど微塵も感じさせずキッパリと言う。

「気をつけて、この店の・・・と言うより、ミレアオリジナルの料理だけは注文しちゃダメよ。

 何も好きこのんで人体実験に突き合う事はないわ」

「何よその言い方。

 1度や2度、材料の分量間違えたからってそこまで言う事ないじゃないの」

「1度や2度なら、私だってここまで言わないわよ」

「はっ・・・はは」

 かなり怖い想像が、ソフィアの脳裏をよぎる。

 

(昔、甘ったるいマーボウ豆腐を出された事があったけど、あれ以上かしら?)

 

「ほら、呆られちゃったじゃない。

 新顔さんに、あまりよけいな事吹き込まないでちょうだい。

 それに、今度の料理は残念だけどオリジナルじゃなくて、人に教えて貰ったのなのよ」

「それなら安心。それを二つね」

「はいはい」

 掛け合い漫才風の会話が終わると、ミレアは厨房に帰っていく。

 それを見送って、エリーはソフィアに向き直った。

「で、話って何なの?」

 エリーは、早速ここに呼び出した目的をソフィアに問いただすと、彼女は少し廻りを気にしながら、声のトーンを小さくしてこう言った。

「この前聞いたフィリオの浮気の事だ」

「浮気?

 ・・・・・・・ああ、夜中に女性の家に入っていったってあれね。

 ウラ、とれたわよ」

 真剣な雰囲気のソフィアとは対照的に、気軽に言う彼女。

 それをソフィアはけげんな面もちで問い返す 

「ウラ?」

「確認って事」

 言いながら、エリーは右手でワイングラスをもて遊び始めた。

「調べてみたらね、その噂を流していたのは、さる貴族の坊ちゃんだったのよ。

 だから、最初はガセネタかと思ったんだけど、つい最近それを見たって人がいてね」

「だ、誰だ、それは?」

「言えないわよ。

 そんな事言ったら、誰も私の事を信用してくれなくなっちゃうもの。

 誰が言ったかは絶対に喋らないから、こう言う話しが私の所に流れて来るんだもん」

 断るエリーに、ソフィアは少し困った様に考え込む。

 

(話の真偽を確かめる事は無理か。

 しかし、一体どうしてこんな事で、導師様は動揺なされたんだろう?)

 

 そんな様子の彼女をまじまじと見ている内に、エリーはふとある事を思いつくと、にやりと口元をゆがめる。

「ねえ、今度は私が聞いていい?」

「なんだ?」

 考え事に夢中で素っ気なく答えるソフィアに、口の中で密かに笑いを転がすエリー。

 こんな時の彼女は、非常に厄介である。

 なぜなら───────

「ソフィアは、フィリオ君の事を口説こうとか思ってるの?」

「な・・・何でいきなりそうなる!」

 意外すぎる台詞に、ソフィアは思わず顔を真っ赤にさせた。

 それを見て、なおも笑みを深めるエリー。

「だって・・・・ねぇ」

 意味ありげな口元がその意味を物語り、くすくすと笑みを漏らしていた。

 唐突に言われた言葉は、もちろんソフィアを激しく動揺させ、その効果はまだ続いている。

 エリーはおもしろおかしくする為に、それを『照れ』と受け取り、更に眉を垂れ下げた。

「へーー、そうなんだ。ソフィアがね。

 ふんふん、こういう展開になるか」

「まて、勘違いするな」

「いいって、そんなに照れなくても。

 誰にも言わないし、これ以上何も言わなくていいから」

「違うと言っているだろう!」

 とうとう、怒鳴る声になるソフィアに、エリーはぷぷぷっと堪えきれずにとうとう机にうずくまってしまう。

 そして、上目遣いに更に一言。

「ムキになるところが、あっやしいなぁーーーー」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ここまで来ると、さすがにソフィアも冷静になってきた。

 

(・・・・・・・ちっ、はめられたわ)

 

 呆れ顔で見つめるソフィアに、エリーはとうとう大声で笑い出し、机をばんばん叩いて笑い転げてしまう。

「昼間素っ気なく返されちゃったからその代わりに。・・・ね」

 涙混じりにお腹を押さえて笑う間にエリーは言う。

 もちろん、ソフィアがフィリオをくどくなどと、彼女自身、たちの悪い冗談としか思っていなかった。

 要はソフィアをからかえれば、話の中身は何だって良かったのである。

 それを見て憮然とし、次いでソフィアは小さくため息を吐いて頭を抱えていた。

「たのしそうね」

 その間から、ミレアは笑い転げるエリーを見つつ、手にした料理をテーブルに置いていく。

 白い陶器の皿の上に鶏肉を焼いた物が、2つコトリと並べられた。

「かもの香草焼きですね」

 ソフィアがその料理を見て言った言葉に、ミレアは、へぇと言う顔になる。

「さすが、東から来た人は分かっちゃうのね。こう言う料理はこの辺りじゃ珍しいのよ。

 じゃ、ゆっくりしていって」

 そう言うと、ミレアは忙しそうに厨房に引っ込んでいった。

 正面で、まだお腹を押さえて笑うエリーを無視して、彼女は料理を口に運んでいった。

 憮然とした表情のまま、しかし、料理はなかなか美味しく苛立ちも次第に薄れていく。

「からかったバツとして、この料理はお前持ちな」

「え?」

 

 

 周りは、さらに騒がしさを増して、この店の繁盛ぶりを物語っている。

 しかし、しばらくして、その喧噪の中から、聞こえてはならない筈のだみ声が混ざって聞こえてきた。

「おい! 酒だ。酒を出せ!」

 と、同時にキャーと言う悲鳴に近い声も上がる。

 その声に、ソフィアとエリーがほぼ同時に振り向くと、そこには鎧姿に帯剣した太めの騎士が、酔っているのか赤い顔でテーブルに座っていた。

「お客様。当店は、女性専用になっておりますので────」

「やかましい。生意気いってんじゃねえ!」

 酒の勢いからか、かなり強気で言い返し、その女性店員はまるで殴られたように縮み上がってしまう。

 その怖がる店員に成り代わり、今度はミレアがその男の前に立った。

「お客様、他のみなさまのご迷惑になります。

 今日の所はお引き取り下さい」

 キッパリとした口調で毅然とした態度を取るミレアに、男はなめるような視線を下から上へと動かした。

 尊大な態度に、周りにいた他の客の視線が非難めいた物へとなっている。

 それをギロリとにらみ返して静まらせると、男はいきなり声を荒げた。

「ふん。ヴァン・エリカのお気に入りだと思って、なめた事言ってくれるじゃねえか。

 お高くとまりやがってよお!」

 男は、そのよどんだ声を店内に木霊さると、いきなりミレアの髪の毛を鷲掴みにした。

「いいか。俺は、客なんだぞ!

 その客に向かって、帰れとはどう言う事だ?!」

「────こういう事だ」

 静かに聞こえたその声に、その男の腰が浮く。

 男の腕はいつの間にか後ろ手にねじ上げられていた。その痛みから、男はイスから立ち上がってしまっている。

 腕をねじ上げて、ソフィアは侮蔑の色を込めた瞳を細めた。

 すでに男の手の中には、ミレアの髪の毛は無かった。いきなり起きた激痛に、思わずその手を離してしまっている。

「き、貴様!」

 ギラリとにらみ付ける酔っぱらいに、しかし、ソフィアは脅える筈もなく、見下すような視線を与えて、ねじ上げている腕の向きを変えて背中を蹴り飛ばし、男を店外に叩き出した。

「貴様!」

 叩き出されて男は、その後をゆっくりと出てきたソフィアに再び罵声を浴びせた。

 が、ソフィアは見下した様な態度を変えずに沈黙を続けていた。

「この野郎!」

 男はその視線から侮蔑の意味を見て取ると、醜く顔を怒りにゆがめてソフィアに襲い掛かって行く。

 だが、ソフィアは軽やかなステップで、その男の直線的な攻撃を避けると、軽くさわるように男の頭を小突いて離れる。

 そして、次の攻撃も軽やかにかわして、今度は背中を平手打ちをした。

「この野郎、なめやがって!」

 怒り心頭とゆった感じで、男は怒鳴る。が、やはりソフィアの顔に変化は無い。

 その表情に酔っぱらいの顔は、赤黒く変化していった。

「女のクセに!」

 男はそう叫ぶと、酒の勢いに背中を押されてか、いきなりスチャと腰の剣を引き抜いた。

 キャァと見物人の中から小さな悲鳴が聞こえてくる。

「ほら掛かって来いよ」

 右手で大きく剣を前に突きだした男は、満足げに言ってのける。

 ・・・が、それも一瞬だけの出来事だった。

 ソフィアは剣を抜くのを待っていましたとばかりに、そのまま男に向かって走り出したのだ。

「ば、ばか!」

 酔っぱらいは、予想もしなかったその動きに、一瞬とまどいを見せた。

 抜き身の剣を相手に、素手の女が向かってくるはずがない。

 そう思っていた男は、相手が逃げ回る事しか、自分が追い回す事しか考えていなかったのだ。

 確かに、この町の住人なら、男でもそうするであろう。

 しかし、ソフィアはレイテ森の戦士として、小さな頃より教育を受けているのだ。

 当然、抜き身の剣を向けられたぐらいでは、動じもしない。

 ソフィアは、切っ先の寸前で横にステップすると、いきなり身をかがめて男の懐に飛び込んだ。そして鎧のない脇腹を、思いっきり蹴り上げる。

「がはっ」

 その痛みに一瞬遅れて、男は激痛を吐き出すと、持っていた剣も手放し蹴られた脇腹を押さえてうずくまってしまう。

 勝負は、その一撃でついてしまった。

 その鮮やかな光景に、周りの人間から賞賛の拍手や声がわき上がっていく。

「お疲れさま」

 近づいてきたエリーが、ねぎらいの言葉を掛け、ソフィアはその頃になってようやくふぅと緊張感を吐き出すように大きく息を吐いた。

 そんなソフィアに、ミレアは何度も頭を下げてお礼を言う。

「ありがとうございました。

 今日は、お代はかまいません。好きなだけ食べていって下さい」

「あら、それじゃ、とりあえずは────」

「誰も、あんたの分までただにするなんて言ってないでしょ」

 調子のいいエリーに、ミレアはピシャリと釘を刺す。

 ほのぼのと、その場の雰囲気が平和的な解決を迎えようとしていた────その時。

 

 

「こいつ? 酒場で暴れていたとゆうのは?」

 不意に人混みの中から、女性の声が聞こえて来た。

 声の主が、その中から姿を表すと誰かが彼女の名前を呼んだ。

「ヴァン・エリカよ!」

 彼女は、細い棒を担いでたたずんでいる。店の誰かが彼女を呼んできたようだ。

「せっかく来たのに・・・・・・ちぇ」

 暴れたかったと物語るその残念そうな表情に、ソフィアやエリーなどは苦笑いするしかない。

「でも、さすが。

 エルフ戦士の肩書きは伊達じゃないわね。

 今度、手合わせをお願い出来るかしら?」

「私でいいならいつでも」

「そう? じゃ、今からはどう?」

 社交辞令的な返事を返したつもりのソフィアは、いきなりのその言葉にいささか閉口してしまう。

 そんなソフィアを見かねたのか、エリーが代わりに答えた。

「ソフィアは、これから食事なのよ。

 今夜は私が先約なんだから。エリカはまた今度」

 エリカは、また残念そうに口を尖らせる。

「そうなの・・・・・・・・仕方ないわね。

 ・・・・・・・ああ」

 一瞬、あきらめ掛けた風に見えたエリカだったが、何かを思いついたようにポンと手を打つと、ゆっくりと地面でもがいている男に視線を合わせた。

 

 ────にやり────

 

 フィリオの前では決して見せない、意味ありげな笑みを浮かべる。

「ちょうどいいのがいるわ。今夜はこいつで我慢しましょ。

 あんたも、女っ気がなくてこんな事したんでしょうから、今夜は眠るまで私がつきあって上げるわ」

 えっ、とばかりに、エリカのその言葉の意味を計りかねた周りの人達も、そして言われた本人も意外な表情になる。

「ちょうどね。手合いの相手がいなくて困っていた所なのよ」

 その一言で───

 周りの人間は彼の不幸を哀れみ、言われた男は声もなく、ただ目を大きく見開いて首を振った。

 『手合い』とは騎士同士の訓練の一つで、実践形式で行われるのだ。

 訓練と言っても、刃のない武器や棍棒で、実際の戦闘を行うだけの、荒々しいものである。

「大丈夫。殺しゃしないから」

 にこやかな笑顔でそう言われる男。

 しかし、彼は・・・・・いや、彼女の事を少しでも知る者なら誰もが知っていた。

 彼女がそう言う時は、大抵、気に入らない事があり、むしゃくしゃしている時なのである。

 言われた相手は、確かに殺されはしないものの、全員一月以上はベットの上から起きあがれない生活が明日から待っているのだ。

「い・・・いやだ・・」

 やっと絞り出したその声も、おびえからか震えてしまっている。

「やかましい! この店で酔っぱらって乱暴を働いたんでしょう。

 本来なら役人に突き出されるところを、私が訓練だったとかばって上げるのよ。

 少しは感謝なさい。

 ・・・・・・・・・・・だいたい、私の機嫌が悪い時にこんな事するからよ」

 言葉の最後をこそごそと小声で濁し、エリカは男の襟首を掴むと、立たない男をそのまま引きずっていく。

「それではみなさん。お騒がせしました。

 ほほほほほほ──────」

 最後だけは、上品に笑って立ち去るエリカだったが、その横で、役人を呼んでくれと泣き叫ぶ男を、片手で引きずっていてはまったく意味がない。

 ちなみに、役人に捕まれば彼は悪くて1週間の投獄とゆった所であろう。

 間違っても、痛みにうなされ、首を動かすだけで全身に激痛が走る様な生活が1ヶ月も続きはしない。

 その壮絶な後ろ姿を見つつ、ソフィアははっと真剣な表情になりミレアに言う。

「すみません。用事が出来たようです。

 食事は次の機会に・・・・・・・・」

「どうしてよ?」

 その言葉にエリーが反論するが、その言葉を無視したソフィアに人気のないところに引っ張って行かれてしまう。そして、辺りに人がいない事を確認してから、ソフィアは小さな声を出した。

「いいか。エリカは、機嫌が悪いと言ったのだぞ!」

 責める口調で言うソフィアに、それがどうかしたと言わんばかりに反論する。

「そうみたいね。

 何があったのか知らないけど、それがどうしたの?」

「分からないか? その機嫌の悪い理由が!」

「理由って言わ・・・・・・・・・あ゛っ!!」

 しばらく・・も考えずにエリーは声を漏らしていた。

 その考えに行き着いた時、彼女は瞳を大きく見開いて、表情を強ばらせてしまう。

「まさか、フィリオの浮気がばれてるんじゃ・・・・・・・・・・・・・・・」

「他に考えられるか?

 今はまだ証拠がないのか、彼の所に踏み込んでいないようだが、もしエリカが踏み込むまで事態が進展すれば─────────」

「フィリオ君は・・・・・・・」

 そう言って、エリーは人差し指で、その細い首を横になぞった。

「やっと分かったぞ。

 あそこまでうろたえていたそのワケが。

 導師様は、仮にも国を代表する様な騎士であるエリカが、私情のもつれから人殺しになるのを恐れていたんだ。

 もしそんな事になれば、他国のいい笑い者。国の面子など丸つぶれだ」

「どうすればいいのよ」

「とりあえず・・・・・・・別れさせよう」

 ソフィアの言葉に、エリーはそれは無理と首を振る。

「あのエリカの日頃の行動を見て、エリカがフィリオと別れると思う?」

「だから、その浮気相手とフィリオを別れさせよう。

 それしかない」

「そうね・・・・・・それしか無いわね」

 

 

 女性二人が、そう決意していた頃。

 城にある導師の塔の地下室では、別な二人の会話が成されていた。

「そんなくだらない事のために、ここに呼んだのか?」

 いささか、むっとした口調で言う若い男の声に、導師オリフは恐縮しきった様子で、弁明する。

「しかし、もしこの噂が本当だったとしたら・・・・・・

 今頃、私はあなたに殺されていることでしょう。私にとっては、重要な事です」

「ふっ、確かに。

 お前は脅迫しているのだからな」

「今思うと、馬鹿な事をしたものだと、後悔していますよ。

 こんな、とんでもない計画に荷担させられているんですから」

「・・・・後悔先に立たず・・・か?」

 そう言われて、導師オリフは深いため息をもらす。

「私も、のちの人達に、悪魔と罵られる事でしょうね」

「さあ。その時まで生きられたら聞いてみる事だ」

 

 

「あ、おは・・・・・・・・・・おはよう・・・・ござい・・・ます」

 こんな、変な調子で挨拶をしたのは、別に彼に原因があるわけではない。

 フィリオは、明るく朝の挨拶をしようとしたのだ。

 しかし、ソフィアから出ている殺気にも似た迫力に気圧されて、朝の挨拶は引きつったものとなってしまった。

 ギロリと、長い瞳がさらに細まって、強烈な視線でフィリオを睨む。

(くぅーーーーー。この場でひっぱたいてやりたい)

 ソフィアは、昨日話し合った事をもう一度心の中で確認した。

 

「いい、あくまでも現場を押さえないとダメよ。

 男なんて、のらりくらりと弁解するのだけは旨いんだから!

 明日の夜。その女の家に行ってガツーーンと・・・・」

 

 エリーとはそうゆう約束になっている。

(見てなさい!

 今夜は、そのふやけた笑顔を思いっきり変えてやるんだから)

 そのソフィアの一種異様な空気に、フィリオはその日一日を、妙な悪寒と共にびくびく過ごさなければならなかった。

 

──────そして、その夜───────

 

「あそこよ、女の家は」

 エリーはそう言って、路地裏から通りを見ていた。

「話では、そろそろ来てもおかしくないのではないか?」

 後ろにいたソフィアが、月の位置からそう補足する。

 辺りは、すでに明かりの消えた家も何軒かあった。そろそろ町も眠りにつこうかという時間だが、月明かりのおかげで路地にはまだ薄い光りが漂っている。

 そんな薄暗い夜更けの道に、三人の女の視線が注がれていた。

「誰が?」

「誰がって、フィリオに決まってるでしょう!」

 いらだつ風に言うエリーだったが、その声の主がソフィアでない事に気づいた時には遅かった。

「え、フィリオが来るの!

 どこに行ったのか探していたのよね」

 その声に、エリーもソフィアも、バッとものすごい勢いで振り向いた。

「・・・・な、何よ怖い顔しちゃって。

 はろー・・・・なんちゃって」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 一瞬、言葉もなく彼女に視線を突きつける二人。その瞳には、形容しがたい何かがのりうってている。

 しかし、次の瞬間、その沈黙を取り戻すかのように怒鳴った。

「何であんたがここにいるのよ!」

「なんで、お前がここにいるんだ!」

 同時に大声を上げてエリカに詰め寄るが、エリカはなぜ怒鳴られているのか分からないとゆった風に驚いて、目をパチクリと瞬かせた。

「そ、そんなに怒る事ないじゃない。

 二人とも何かコソコソしていたから、おもしろい事でもあるのかなっ、と思って後をついてきただけよ」

(おもしろい事なんかあるもんか!)

 言われた二人は、再び同時に、今度は心の中で叫ぶ。

「と、とにかくあんたは・・・・・・・・」

 どうにか、エリカをここから遠ざけねばと思ったエリーに・・・・だが天は意地悪をした。

「あ、フィリオだ」

 これがまたエリカは嬉しそうに言う。

 彼女がそのまま駆け出そうとするのを、ソフィアとエリーがものすごい勢いで押さえつけた。

「な、何するのよ」

「いいから、お前は静かにしていろ」

「エリカ、お願いだから、今は私の言うとおりにして」

 言いつつ、もつれ合う三人。

 その場に、誰か他の人間がいたら、誤解される事間違いなしである。

 しばらく、じたばたと彼女達を振り切ろうとしていたエリカだったが──────

 

 ──────ふいに暴れていたエリカの動きが止まった──────

 

 それに気づいたソフィアとエリーの視線が、エリカの顔に注がれる。

 彼女の瞳は大きく見開かれ、通りの方に固定されていた。

 次いで、恐る恐ると言った感じで、二人の視線もそれに続く。

 そこには・・・・・・・・・・・・・・・・・・若い女性がフィリオの腕を取り、家に入れている姿があった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ぱたん、と聞こえる筈のない扉を閉める音が、聞こえたような気がして、その扉は閉められ、重い空気がその場を支配した。

 もつれ合う三人の一番下で、エリカはうつろな目で全てを見てしまった。

「あ、あの・・・・エリカ」

 どう言っていいのか分からないまま、エリーが小さく声を掛ける。

 彼女の声に、エリカはポンポンと彼女の背中を叩いた。

 それを合図に、覆い被さっていたソフィアとエリーが立ち上がり、その後にエリカはゆらりと音も立てずに立ち上がる。

「・・・・・・なるほど・・・・・こう言う事だったのね」

 静かに言う声に、ソフィアもエリーも何も言えない。

 うつろな瞳のまま、エリカはゆらりと動き出す。

「どうしたの?

 二人とも、あの家に行くつもりだったんでしょう。

 ・・・一緒に行きましょうよ」

 

 行きたくない!!

 

 とは、魂の叫びでも、まさか口に出しては言えない台詞だった。

 静かにゆっくりと歩くエリカ。その後を追って二人は、再び小声で話し合う。

「とにかく、殴る蹴るぐらいなら、見て見ぬ振りも出来るが、もし彼女がフィリオを殺る雰囲気を見せたら、すぐにフィリオと女を連れて逃げろ。

 エリカは、私が何とか抑える。

 そして、どうにかして、導師様にでも取りなしてもらおう」

「抑えられるの?」

「私も、レイテエルフの戦士だ。

 何とか、お前達が逃げ出せるくらいの時間は稼ぐ」

 しかし──────────

 

 バン!

 

 ふたりの会話が終わりを告げようとしたその頃、突如、彼女らの耳に大きな破壊音が聞こえてきた。

 その破砕音は、木製の扉がエリカの蹴りの一撃に耐えきれず、断末魔の声を高らかに上げて崩れ去る音であった。

「フィリオォォォォ!!!」

 扉を壊すなり、エリカはいきなり吠えた。もはや、穏便な話し合いなど、この世には存在しない。

(そりゃ、話し合いなんかにならないとは思っていたけど・・・・・・・)

 エリーの心の声もかき消される程、エリカの声は大きく、行動はさらに輪を掛けて過激だった。

「何処よ!!」

 

 ドカッ!!

 

 また豪快な音を立て、ドアを蹴り破るエリカ。

 もはや、誰にも手がつけられない状態である。だがしかし、扉が壊れたのはコレで最後だった。

 その扉の向こうに、フィリオの姿を見つけたからだ。

「な、なんだぁ?」

 いきなりの事に、フィリオは驚きうろたえる。

 かぁぁぁぁぁっとエリカの頭に血が上り、そしてそれはすぐさま荒々しい言葉となって現れた。

「フィリオ!

 このうらぎり・・・・・も・・の?」

 フィリオを見つけたエリカの荒々しい声が──────しかし、だんだんと呟くように小さく消えていく。

「何じゃ、一体?!」

 そんな彼女に、フィリオの前に座る女性から罵声が飛んできた。

 ただし・・・・・・相当しわがれた老婆の声である。

「へ・・・・・・・・女の・・・・・・・」

 パニックに陥ったエリカ達に、別の扉から現れた女性が悲鳴に近い声と共に現れた。

「おばあちゃん。今の大きな音は何!?」

 慌てた様子で部屋に飛び込んできたその女性こそ、エリカ達が外から見た女性だ。

「・・・・・・・あ、あれ?」

 エリカ、ソフィア、エリーの三人が、顔をはてなマークで埋め尽くしている。

「説明・・・・・・・・・してくれるよね」

 フィリオが、かなり深いため息をついて、そんな三人を見つめていた。

 

 

 

 

「ほっほっほ────

 わしももう20若ければ、こんないい男の愛人が務まったのにのう。

 どうじゃ、今からでもわしに乗り換えんか?」

「おばあちゃんが、20才若くてもまだ50すぎよ」

 かなり呆れた声が、若い女性から出されて、その老婆は面白そうに笑う。。

 その会話を、フィリオの後ろで、かなり縮こまって聞くエリカにソフィアにエリー。

「・・・・・・・・・・やれやれ」

 困った様子で、それを見つめていたフィリオは、最後に、深い、ふかぁぁぁぁいため息をつかずにはいられなかった。

「おお、そうじゃフィリオ。

 これに懲りずにまた来ておくれよ。なにせ、あんたの薬は良く利くからのお。

 それから、前から頼まれておった地下室の書庫は、いつ見に来てくれてもかまわんぞ。

 今日、ようやく鍵を見つけたからの」

 玄関まで送りに来てくれたシルフィーナ婆さんに、フィリオは何度も頭を下げて、扉を立て掛ける様に閉める。

 扉は、フィリオの手で応急処置をされて、さらに明日一番で直す約束になっていた。

「はぁ・・・・・・・・また出費が」

 ため息と共にこぼれたその言葉に、女性陣三人の顔は暗くなる。

「それにしても、昨日、導師様には言っておいたのになぁ。僕がバイトしている事。

 魔導師協会にも届け出を出してバイトしていたのに」

「いや、まさか、こんな遅くにバイトとは・・・・・・」

 言い訳じみたソフィアの声には、かなり後ろめたさが感じられた。

 何せ、フィリオがこんな行動を取らねばならなかった理由が、彼女にあったからだ。

 ソフィアは、この国に止まる事を決めて、魔導師協会の総務課に配属された。

 配属されたからには、給料を支払わなければならない。

 しかし、この国の魔導師協会は独立採算性だ。各部署で営業活動をして、資金繰りをしなければお金はない。

 今までは、フィリオ一人だったので、『お金』ではなく、『食料』があればそれで済んでいたのだが、しかし、ソフィアには、『お金』を支払わなければならなかった。でも、そんなお金は何処にもない。

 かくして、フィリオは、バイトをしなければならなくなったのである。

「ちゃんと言ってくれれば良かったのに」

「そんな!

 だって・・・・・・そんな事・・・・・・・・」

 理由を言いよどむフィリオに、エリーは小さくため息をついて彼の心情を説明する。

「つまり、ソフィアがその事で、自分が総務課にいるのが邪魔だと思わないように、気を使っていたわけね」

「・・・・な。そんな事を気にしていたのか?」

 呆れた声を出すソフィア。

「だ、だって、こんな異境の地に住むのに・・・・ましてや、この国の法律で、無理矢理魔導師協会に属しているのに、収入も無いなんて。

 だから・・・・・・・」

 次第に声を小さくしていくフィリオに、やれやれと言った感じでエリーが言う。

「はいはい。もういいわ。

 で、まだ他にバイトしてるの?」

「ええ、っと。

 後は、『ハーブの森』で料理を教えているぐらいかな。

 あそこも店が終わってからだから、どうしても夜になっちゃうんですよ。

 昼は総務課にいなければいけませんし」

「じゃあ、あのかもの香草焼きは・・・・・・・・・」

「ああ、それは、先週やった料理ですね」

「なによぉ。

 それじゃ、ちょっと、誰かに聞けば、こんな恥ずかしい思いをしなくて済んだんじゃない!」

 ソフィアは、あまりにも馬鹿馬鹿し過ぎる結末に、つい口調も女性らしい物になって悔しがったが、後悔先に立たず、である。

「じゃあ、もう一つの疑問。

 エリカ、あんた一体何でイライラしていたワケ?」

 クルリと体ごと振り向いてそう訪ねるエリーだったが、心の中では・・・・・・

(そういえば、フィリオ君があの家に入った時に、いきなり呆然としたんだから、その前から知っている筈なかったのよね。

 恥ずーーーーーー)

「聞いてよ。

 騎士団長ったらね、今度の休みは取り消す、って言うのよ。信じられる?。

 今度の休みは、フィリオと二人っきりでミスル湖に行ってデートするはずだったのに!」

 そのエリカの言葉に、ソフィアは一瞬呆然としてしまう。

 

 はぁ・・・・・・・・・・やれやれ。

 大山鳴動してネズミ一匹とはこのことだ。

 

 


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