前回の話を、軽く編集しました!
クレアのせいでバレるのはどうかと思ったのでw
自由のために
俺の所属するギルド、『大空の翼』では、ギルドメンバー限定で、食事を頼めるというシステムがある。
それは、ここでクエストを受けてから食事し、万全の状態で挑めるようにという、ギルドの配慮である。
そしてここの飯は、うまい。まあ、ここで働いている女性たちが作るのだが、やたらうまい。
なので俺も、外で狩りをするとき以外は、ここで食事をとる。
そしてホント希に、極々稀に、あの女神。カーラさんが作ることもある。
当然。カーラさんが作る飯は美味い。まあ、あの人が作る飯が不味いわけがない。だから嫁にしたいという男が多いわけだしな。
そして、まあ、彼女は受付で忙しいから本当に希なわけで、それが誰かに当たると、一階でオークションが行われたりする程のレアリティを持ち、見分けるための特徴としては……。
『今日も一日、頑張りましょー!カーラ♪』
なんてメモが添えてあり、男たちのやる気を上げてくれるのだ。
そしてその食事が今……
――俺の目の前にある。
「うまい!うまいよおお!」
俺は涙を流しながら、カーラさんお手製の食事を貪っていた。
まあ、朝なので、ベーコンや、卵。パンとスープという簡単なものを頼んだわけだが、それでも彼女が作ってくれたものとなれば、嬉しくないわけがない。
いや、こんな事ならちょっと手の込んだ奴にすれば良かったという後悔もあるのだが、今更遅いだろう。
そしてそんな俺の様子を、
「ねえ、シン。何でそんなに嬉しそうなの?」
と、パンを両手で持ったティアが、不思議そうに聞いてくる。
そうか。彼女はこの意味がわかってないのだから、しょうがないか。ふふふ。知ったら多分。ビックリするぜ?
そう思いながらも旨すぎる飯を食べていると、ティアが「ねえ、シン!」とどこか嬉しそうな声で呼んできたので、スプーンを持ったまま顔を上げると、
「はい。あーん」
ティアがニコニコとしながら、ベーコンの刺さったフォークを俺の方に寄せていた。
瞬間。俺は顔をバッ!と背けた。
やばい……この子、男心を一々刺激してきやがる……!
ちょっと理性が吹き飛びそうになったが、何とか堪える。そんな俺の様子を見たティアは、
「い、いやだった?」
シュンと肩を落とし、不安そうに言う。こ、こいつ……!ちょっと前まで「どうしたの?」で首をこてんだったのに、配慮まで覚え始めただと……!
まあ、首をこてんでも可愛かったが、この配慮されてるというのは、男としては……!特に俺みたいなさっさと死ね的なことしか言われない人生送ってきた人間には、刺激が強すぎる!
ク、クソッ!いつまで萌えてるんだ俺!見ろ!ティ……ティアが不安そうじゃないか!ちょっと涙浮かべてるじゃないか!か、可愛いなチクショウ!
そんなことを思いながら、何も持ってない左手で顔を抑え、一時悶える。そしてティアが遂に「ごめんね……」とフォークをおろした瞬間。
「い、いや。嫌じゃないよ。寧ろ、嬉しかったんだ。じゃあ、頼むよ」
俺は勇気を振り絞って顔を戻し、ティアにぎこちない笑みを向けた。するとティアは顔を輝かせて
「ほ、本当!?じゃ、じゃあ……あーん♪」
すっごい笑顔で俺の方にフォークを向けてきた。
それに俺は……俺は――!
「あ~ん」
口を開けて、幸せをとともに、カーラさんお手製のベーコンを噛み締めることにしました。
フォークを受け入れ口を閉じると、中にベーコンの香ばしい香りと味が広がる。
それを楽しんでいると、ティアが笑顔で
「美味しい?」
と聞いてくるので、俺もベーコンを飲み込み、笑顔で答えることにした。
「もちろん!ティアが食べさせてくれたから、余計にうまいぞ?」
「えへへ♪そう?そうかなあ?」
言いながら手を伸ばし、頭を撫でてやると、ティアは幸せそうに目を細める。それを見ながら俺もほんわかとしていると、
「あの?もういいですか?」
急に隣から殺気と、冷めたような女神の声が聞こえてきた。
それに俺は冷や汗を掻きながら、ギギギと顔をそちらに向けると、そこにはニコニコ笑顔のカーラさんが居た。
正直、
――怖い!!すっごい怖い!怖い!
なぜだろうか?美人の笑顔というのは、なぜこうも怖いのだろうか?
ていうか、なんで!?なんで昔のカーラさんの笑顔には和んでたのに、ここ数日こうも怖いの!?
カタカタと体を震わせながらカーラさんを見ていると、彼女は「はあ」とため息をついて、
「私が作ったのを別の女の子にあーんさせるなんて……」
どこか拗ねた様な表情で、小さくボソボソと呟いた。
よく聞こえなかったが、俺がなんかしたんだろうか?あ、そうか。わかったぞ。
「カーラさん。朝ごはんありがとうな!スゲエうまいよ!」
これだ!これを最初に言わなかったから怒ってるんだ!いやあ。ぎりぎり気づいてよかったぜ。危ない危ない。
「あ……ほ、本当ですか?よ、良かったです……」
笑顔を向けると、カーラさんは顔を赤くして、俯いた。そしてボソボソと何かを言っている。
まあ、ちょっとそれを疑問に思ったが、なんか可愛いし、眼福だ。それに、カーラさんの機嫌も直ったようだし、間違いないな。この一言だったのだ。
「む~……シン……カーラと仲良し……」
カーラさんの恥ずかしがる姿を脳内に焼き付けていると、ティアのそんな声が聞こえてくる。
それに顔を向けてみると、あれ?なんか頬をふくらませてる。どうしたんだろうか?
「はあ……シンのバカ……」
何故かため息をついているティア。俺はそれに首をひねる。そして気づいた。
「なあ、ティア。さっきから機嫌が悪いけど、トイレか?」
「………!シンのバカっ!もう知らない!」
あら?どうやら違ったようだ。なんか怒らせちまった。でもいいや、プイッて顔を背けてるティアも可愛いし。
「シンさん。貴方はもうちょっと、デリカシーというものを持つべきです」
ティアを見ながらニヤニヤしていると、カーラさんに呆れたような視線を向けられた。
ああそうか。女の子にトイレか?なんて聞いちゃダメだったな。失敬失敬。
「なんで私……こんな人を好きになったんでしょう……」
「ん?何か言った?カーラさん?」
「なんでもありません!」
「そ、そうか?なんかすまん」
ティアを見ながら失敗したなと思っていると、カーラさんが何かをボソボソと呟いていたので聞いてみると、何故か怒られた。なのでとりあえず謝っておく。
女の人って怖い。これが、最近の俺の教訓だ。まあ、初めて外の女の人見た時も怖かったけど。カーラさんのおかげで改善してたのになあ~。
カーラさんを見ながらそんなことを思っていると、カーラさんはハッと何かに気づいたように目を見開いた。
そして慌てたように口を開く。
「わ、忘れてました!そういえばシンさんに、お会いしたいという方がいらっしゃってまして……」
「ん?俺に?誰だ?」
それに俺は首をひねった。
だって俺、普通に知り合い少ないし、それに数少ない知り合いの親父や門番の奴らや街の住人の奴らなら顔パスで上がってくるし、わざわざ呼び出しなんてされたのは初めてなのだ。
ん~?本当に心当たりがない。そう思っていると、
「なんでも、昨日オークに襲われていた時に、シンさんに助けてもらった方らしくて」
カーラさんがそんなことを言ってきた。ああ~。わかった。おばちゃんか。ったく。気にしなくてもいいのに。
そう思いながらも、俺は視線を一階に向ける。すると、いつものバカ騒ぎの騒がしさじゃなく、異質なざわめきが、そこにはあった。
あれ?ティアに夢中で気付かなかったけど、何かあったようだ。そう思いながらも視線を受付の方へ持っていき、気づいた。
そこには、おばちゃんは居らず、この騒ぎの元凶がいた。
それは、艶々と輝く黒髪を振りかざし、辺りをキョロキョロと見わたす、一人の女の子だった。
ロビーに居る人間たち、全員の視線を集めるその子は、格好こそ俺たち平民と変わらないが、その雰囲気で分かる。
――貴族だ。しかも、かなり上位の……!
見た瞬間。そう思った。
小さな頃からその雰囲気を纏えるように礼儀作法を煩く叩き込まれ、屋敷を追い出されて小屋に住んでる間に、拒否反応まで起こすようになった俺にはわかる。これは……
――吐き気がするほど大嫌いな、あの雰囲気だ……!
ギリッと口から嫌な音がする。知らず知らずのうちに、体に力が入っていたらしい。
それを確認して、俺はとりあえず頭を冷やそうと、視線を天井に向け、息を吐く。すると少しだけ、頭が冷えたような気がした。
何度か息を吐き、完全に落ち着いた所で視線を2人の女の子に戻すと、2人はどこか怯えたような顔で、俺を見ていた。気づかないうちに、殺気を出していたらしい。
だから俺は2人を安心させるため、笑顔を向けて、
「すまん。ちょっと嫌なことを思い出してな。カーラさん。済まないけど、俺はいないと言ってくれ。会いたくないんだ」
カーラさんに笑顔のままお願いする。それに彼女は、
「え?で、でもいいんですか?あの方、いま噂に名高い公爵家婦人。クレア様ですよ?ほら、あの勇者ルークの妹君の……」
「っ!?」
カーラさんがそう言った瞬間。俺はガタンと音を立てて、椅子から立ち上がっていた。
そして、視線を一階に向ける。
あれが……あれがクレアなのか?
すげえ、……綺麗になったな。
そう思った。
7年の間離れ、屋敷から出るときもなるべく視線を向けないようにしていたから、気づかなかった。
ずっと他人だ他人だと、自分に言い聞かせてきたから、気にしないようにしていた。
そんな妹の姿を、7年ぶりにじっと見ながら、考える。
母譲りの綺麗な黒髪は、艶々と煌き、その圧倒的な雰囲気を醸し出す。
そのまさに貴族といった立ち振る舞いは、俺のいない間に身につけたものだろうか?
まさか、昨日助けた貴族。それがまさかクレアだったなんて……思ってもいなかった。
そして俺は思った。
――――なんで今更、現れたんだ……!
ギリッと歯を鳴らす。
答えはすぐに見つかった。
恐らく、クレアは昨日。勇者となった俺の戦う姿を見て、それをあのクソ野郎にでも報告したんだろう。
それを聞いて、あのクソ野郎は、今更になって俺を探し出したと。
そして、見つけた俺への接触の為に選んだ人材が、クレアってわけか。
俺と彼女は、小さな頃から仲が良かったし、行けるとでも踏んでるんだろうな。あのクソ野郎は。
チッ……やっぱクレアも貴族だぜ。腐ってやがる。そんな作戦に協力するなんてよ。やっぱ、あいつも変わっちまったな。
だって、本当にアイツが俺のことを心配してるなら、昨日俺に会った時、声をかけてくるはずだしな。
ま、それでも知らんぷりしてたけどな。なぜなら俺とアイツはもう………
――他人なんだから。
さて、どうするかな。嫌いとはいえ、相手は貴族。こちらから面会を断ることなんてできないだろう。
特に、クレアは公爵家に嫁入りしたらしいしな。まさか、あのクソ野郎。娘をそんなところに売ってまで力を欲するゲス野郎だったとは……。
まあ、顔色は悪くないし、いい生活は出来てるみたいだから、そこだけは安心かな?
流石、生まれ持っての才能がある奴は待遇がいいねえ。
さて、そんな貴族様を相手にするんだし、もしここで俺が変な対応をすれば、ギルドに迷惑がかかるってわけだ。それだけは阻止しないといけないな。
そしてもう一つの案。居留守もやめた方がいいだろう。
そんな事をしたところで、あのクソ野郎のことだ。毎日のようにクレアを通わせてくるだろう。まあ、俺……勇者を家から輩出したとなれば、変な交渉よりもよっぽど利益になるだろうからな。
それに、妹だからといって、毎日公爵家レベルの貴族なんかに通われたら、迷惑だし、俺もいい気がしない。その内、昔は仲良かったからといって、切り捨ててしまう可能性がある。
ならばどうするか―――やっぱ、これしかねえよな。
「わかった。会うよ。案内してくれ、カーラさん」
俺はお前なんか知らない他人だって、お前の兄なんかじゃないって、否定してやる。
ここで完璧に……お前との繋がりを切ってやるよ。クレア。だってお前は俺にとって……。
全く知らない、他人なんだから。
お前ら貴族風に言ってやると、俺の自由のために邪魔な存在なんだからな。
だからここで、完璧に拒絶してやるよ……
俺は、ルークなんて名前の勇者じゃない。シンっていう名の、ただの傭兵だってな。
なんて言おうか考えながら、笑みを浮かべる。やっと俺は、今日。本当の意味で自由になれると、そう思ったから。
「あ、はい。わかりました!」
俺が会うと言ったことに、どこか安堵している様子のカーラさんが、返事をしてくる。
まあ、相手は公爵家婦人様。一級貴族様だしな。ここで変に断って、後々のギルドの評判のためにも、そうなるだろう。
そう思いながら俺が彼女を見ていると、
「む~。シン。今日は私と一緒にいてくれるって言った!」
ティアが頬をふくらませながらそう言ってきた。
それに俺は苦笑いを浮かべて、
「はは。直ぐに終わるよ。あの人が俺に、お礼を言いたいだけなんだって」
と、言ってやる。それにティアは
「本当にすぐ?」
上目遣いで聞いてくる。それに俺はちょっと萌えたため、手を彼女の頭の上に置いて、
「ああ。すぐだ。だから、ちょっとここでご飯食べとけ。その間に終わらせるからさ。終わったら出かけようぜ?」
「うん!」
「よし。いい子だ」
「えへへ~♪」
笑いかけ、ティアのいい返事のご褒美に頭を撫でたやったあと、カーラさんの方に向き直る。
そして―――
「じゃあ。カーラさん。ちょっと行ってくるわ」
と、言って一歩を踏み出し、
「はい。失礼のないようにお願いしますね?」
「わかってらあ」
少し不安そうなカーラさんに後ろ手を振りつつ、階段の方に歩を進めた。
さて、クレアにつめたい言葉を浴びせに行きますよ!
普段はいい生活してるからこれくらいはw
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