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  俺の彼女は聖剣です。 作者:炎雷
魔物
月明かりに照らされ、幻想的な雰囲気を纏う森の中。

俺は、木をなぎ倒しながら進む、大きな影に向かって、ゆっくりと歩を進めた。
途中で左手に持つ剣を抜き、鞘を地面に、ゆっくりと置く。そして、近くの木に身を隠し、その影から、様子を伺った。
そして俺は、相手の姿を見た瞬間。

――やべえ!これは……ちょっと予想外だぜ!

歓喜に肩を震わせ、大きく武者震いをした。
その視線の先にいるのは、……牛。

2足歩行で歩き、手には大きなバトルアックスを持つ、牛。捻れた大きな角と、黄色の瞳が月の光で怪しげに光る、異形な存在だった。
その姿を見ながら、今日見た本の知識を、頭の中に広げる。確か……こいつの名前は……

――ミノタウロス

確か、そんな名前だったはずだ。
オークのような二足歩行系の魔物の中では最高レベルの戦闘力を誇り、知性も高く、人語を解すると言う。
その強大な筋力から放たれる一撃は、並の人間をバラバラにする程の威力が――――

そこまで考えたとき、変に寒気がして、俺は大きく地面に転がった。
刹那、俺が今まで立っていた木が、バキャッ!という音と共になぎ倒され、俺の方に倒れてくる。
それを転がりながら視界に捉えた俺は、

「っ!?」

小さく舌打ちして、意識を集中し、全てが遅くなった世界で体を捻り、腕に力を込めて地面に立て、跳ね上がるようにして起き上がったあと……

「うっらああ!」

剣を素早く振り、その木をバラバラに切り裂いた。
加速を停止し、元に戻った世界で、小さな木片を軽く浴びながら、俺は一息つく。
流石親父の打った剣だ。安物とはいえ、其処らの武器屋の一級品より、よほど切れ味がいい。

感心しながら、前を見据える。そこには、毛むくじゃらの化物が、斧を振り切った状態で、俺の方を見据えていた。
へっ。本当に情報通りだぜ。確かにいい筋力じゃねえか……それに、鼻と耳がいいって話だし。それで気づかれたのかもしれん。
ま、いいけどな。こっちから仕掛ける手間が省けたし、好都合だ。そんなことを思いながら、敵を見据え、冷静に分析していると。

「ほう?今のを避ける……いや。そんなチンケなオモチャで、ここまで綺麗に大木を斬って見せるとは、見事な小僧だ」

低い声で、ミノタウロスが話しかけてきた。
へえ?人語を解するって聞いてたけど、喋れるのか。すげえな。魔物。
まあ、感心してる場合じゃねえか。せっかく挑発してもらってるんだし、こっちも答えてやらねえとな。

「はっ。これくらい、朝飯前だっての。ていうか、随分な挨拶じゃねえか。ちったあ礼儀ってやつを弁えてもらいたいもんだね」

視線を動かさずに鼻を鳴らし、そんな挑発を返す。するとミノタウロスは斧を肩に担ぎ、姿勢を立てて、

「ふん。小僧に……いや。男に示す礼儀などない。女なら、少しは考えてやらんこともないがな」

偉そうにそう言った。マジうぜえ。
なので俺はため息を着くと、

「へえ?紳士気取ってんの?その見た目で?おいおい……冗談だろ?紳士語るなら、せめてそのぶら下げてるもんくらい隠せや。露出魔ですか?コノヤロー。きめえからさっさとくたばってくんねえ?」

馬鹿にしたようにそう言い、更に挑発する。
するとミノタウロスは首をひねって、

「紳士?なんだそれは?」

と、聞いてきた。あら。紳士って言葉の意味わかんなかったか。まあ、

「知らなくていいぜ?だってお前は、今から俺にたたっ斬られて、明日の食卓に並ぶんだからよ」

ニヤッと笑い、剣でスっと指してやった。
それにミノタウロスは溜息をつく。

「なんだ。貴様も、昼の連中と同じく死にたいのか。くっ。なぜ男ばかり……まあ、いい。儂も女の匂いがすると走っていった部下が帰ってこなくて、イライラしていたところだ。ちょいと遊んでやろう」

疲れたように言い、斧を構えるミノタウロス。それに俺はイラッとして、

「へえ?やっぱり昼の……俺の仲間を殺ったのはてめえか。まあ、あんな雑魚……てめえの部下のオーク如きに、俺の仲間がやられる訳がないもんな。あ。ちなみに、てめえの部下は俺がたたっ斬ったから、いくら待っても帰ってこないぞ?」

そんな挑発をし、剣を構えた。
それにミノタウロスは目を見開いた。

「なんだと?儂の……儂の部下を、貴様のような小僧が一人で倒したというのか?」

「ああ。ぶった斬ったぞ?10匹ほど。いやあ、手応え無さ過ぎて、面白くなかったぜ?まあ、そう淋しがるな。すぐに仲間の所に送ってやるからよ」

驚いているミノタウロスに、俺は更なる挑発をする。まあ、実際倒したのは5体なんだが……今ぐらいいいだろう。
さて、どう返してくるかな?そう思いながら俺は、前を見据える。
するとミノタウロスは、

「ガハハハハハハ!面白い!面白いぞ小僧!」

まさかの笑いやがった。

「なんだ?仲間やられて、頭がおかしくなったか?」

それに俺は眉をひそめ、聞く。するとミノタウロスは、

「仲間?ガハハハハ!、ああ、あれはただの部下だよ。まあ、居なければいないで寂しいが、その程度だ」

楽しそうに言った。チッ……やっぱイカれてやがる。
……早いところ終わらせたほうがよさそうだな。

「ああ。そうかい。でもな?俺は仲間やられて、女泣かされて、イライラしてんだ。だからぶった斬らせてもらうぜ?」

そう判断した俺は、ふうと息を吐き、神経を研ぎ澄ます。
そして何時切り込もうか悩んでいると、ミノタウロスは笑みを浮かべ、

「ほう?仲間……この虫ケラどもが仲間とな?」

今まで踏んでいたものを、足で掴んで投げてきた。
血しぶきを空に舞わせながら、飛んでくるそれは……死体。
頭がグチャグチャに割れ、脳もメチャメチャな状態で露出し、体も全身変な方向に折れ曲がっている、そんな男の死体だった。
軽くステップしてそれを避け、地面に落ちたそれを一瞥した俺は、

「……趣味が悪いな。死体をここまでメチャメチャにしやがるとは」

前に視線を戻し、呟いた。
それにミノタウロスは驚いたような声で、

「……小僧。中々肝が座っておるな。普通の人間なら、これだけで怯え、動けなくなるものだが?」

そう言ってきたので、俺はニヤリと笑うと、

「あ?確かにそうかもしれないな。でも残念。俺には効きませ~ん」

軽い口調で、笑ってやった。

「ふん。貴様、人の皮をかぶった悪魔のようだな。先ほどの動きからして、儂の部下を斬り伏せたというのも、嘘ではないようだ」

それでやっと、ミノタウロスは俺を警戒し始めたらしい。今までのは探りか………、ま、俺の見た目じゃ仕方ねえか。
しかし悪魔……ね。確かに……確かに俺は……

「ああ。俺は確かに悪魔かもしれないな。ま、そういう訳だから。悪魔と魔物、仲良く殺し合いしようぜ?」

悪魔かも……しれない。そう思いながらも、笑みは崩さない。だってその悪魔も力が、今の俺には必要なんだからな。
するとミノタウロスも真剣な顔で、

「ふん。いいだろう。それに、儂はそんな貴様が惚れたという女が気になる。これが終わったら、街に攻め入るとしよう」

鼻息荒く宣言しやがった。げっ。こいつ、カーラさんを襲う気かよ?まあ……

「へっ。変態な魔物だぜ。カーラさんはぜってえ渡さねえし、街にも行かせねえ。てめえは……ここで俺がぶった斬る!」

叫んで、俺は足に力を込め、斬りかかった。それにミノタウロスも、

「カーラ!と言うのか!覚えておくぞ!その名!」

叫んで、ダッシュで俺に近づいてくる。その威圧感は、流石化物としか言い様がなかった。
まあ、普通の人間なら、これを見れば逃げるか、足が動かなくなるだろう。そしていずれ、あの斧で斬られて終わるだろう。
少なくともその化物と、真正面から対峙……ましては走り寄ろうとはしないはずだ。でも、

――俺は違う。

――何故なら俺には

「……加速」

――この力があるのだから。

いつも通りの、遅くなった世界。
その中で、俺はミノタウロスに向かって走り寄ると、首、両肩、胴に剣を打ち据えた。
刃が通らないのだ。なんだよこの硬さは。これで防具なしとか、マジふざけんな。
舌打ちして、チンタラと斧を振ってるミノタウロスの脇を通り抜ける。そして大きく息を吐くと、世界が、元のスピードで動き出した。
振り返ると、ミノタウロスが斧を振り切った状態で、固まっているところだった。
一拍遅れて、木が一本バキバキという音を立てて倒れる。うひゃー避けなきゃ俺がああなってんのか。怖いな。
それに戦慄を覚えていると、ミノタウロスがこちらをゆっくりと振り返って、

「……小僧……何をした?」

先程、俺が剣を当てた首を軽く押さえながら、小さく呟いたので、

「斬った。けど、斬れなかった」

ニヤッと笑いながら、ため息をつき、剣を掲げるようにして見せた。
それにミノタウロスは驚いたような顔を見せ、

「……貴様。本当に人間か?」

呟くように聞いてきたので、俺は堂々と答えてやった。

「さっきも言ったろ?俺は……悪魔だ」








            ◇





戦士ギルド、大空の翼。

その地下一階にある一室で眠っている少女がいる。
その少女の名は、ティア。金色のサラサラとした髪に、エメラルドグリーンの瞳を持つ、記憶喪失の少女である。
そしてその少女は、誰もいない部屋の中、ゆっくりと目を開けた。そして、

「……呼んでる」

小さく呟き、体を起こす。
そしてその状態のまま、

「シンが……呼んでる」

また小さく呟くと、ベットから降りた。そしてそのまま、ドアに向かってゆっくりと歩いていく。

「担い手が……呼んでる」

トコトコトコと歩いた彼女は、ドアを開ける。そして、廊下に繰り出すと、ドアを閉め、

「一緒に……戦おうって……」

また、小さく呟き、廊下を歩き始める。

「だからおいでって……」

無表情でのその呟きは、何故か嬉しそうに聞こえる。
そして、一歩、一歩と、ゆっくりと歩く彼女のスピードは、少しずつ上がって行き、

「わかった。今行くよ?シン」

遂には小走りに変わった。
そして走りながら、彼女は優しく微笑んで、

「だから一緒に、魔を消そう……シン」

階段を駆け上り、酔い潰れている人たちで一杯のロビーを抜け、

「待ってて……マスター」

彼女はギルドを飛び出した。




さて、戦闘開始!

今思うけど、加速って卑怯じゃないかな?
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