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  俺の彼女は聖剣です。 作者:炎雷
森へ
地下からの階段を駆け上り、馬鹿どもが泣き酒パーティを行っているロビーを走り抜け、ギルドの外に出た俺は、勇者勇者だとお祭り騒ぎで、いい加減しつこく感じ始めた街の中を駆ける。
そんな俺が最初に目指した場所。それが……

「親父!」

ここ、武具店。『俺の武器を見ろ!』だった。
ドアをいつものように蹴り開け、いつものように居眠りしていた様子の親父が、

「うっせえぞクソガキ!椅子から転げ落ちただろうが!」

どうやら俺が来たせいで椅子から転げ落ち、強打した様子の頭を摩りながら立ち上がっている。
本当はいつものように絡みたいところだが、今日は急ぎなので、俺は親父に近づくや否や、

「すまん!親父!剣売ってくれ!」

耳元に大声で叫んだ。すると親父は目を白黒させて、

「耳元で叫ぶな!キーンとしただろうが!」

耳を両手で抑え、大声で叫ぶ。どうやら、結構痛かったようだ。
それにはちょっと悪い気がしたが、今日の俺には時間がないのだ。なるべく早く仕留めて、カーラさんの待つギルドに帰りたい。
なので俺は、今度は静かに、

「すまん。でも今日は急ぎなんだ。ちょっと一本だけ、剣を売ってくれ。ええと……これでいい」

近くの棚にあった剣を一本持ち、ポケットから財布を取り出して、金をカウンターに叩きつける。
そうして、さっさと立ち去ろうとした俺の腕を親父が掴んだ。

「おい。どうしたシン?いつもの名剣ちゃんも俺の作った防具も着ず、俺との絡みもせず、そんな安物の剣を買いに来てよ?お前が帯剣してないのなんか、初めて見たぜ?」

その言葉に振り返ってみると、親父は確かに驚いたような顔をしていた。
まあ、俺が武装せずに歩くなんて、普段ありえないことだから仕方ないんだろうが……。
さて、どう言おうかな?慎重に言葉を選ばないと、後で困るのは俺だし。ていうかさっさと行きたいし……
しゃあない。ちょっと嘘つくか。

「ああ。ちょっと模擬戦を申し込まれたんだが……あの剣だと、卑怯だって相手が言うもんで、剣を買いに来たんだ。で、どうせならプライドをズタズタにしてやりたいじゃん?だから安物でボコボコにしてやろうかと思ってな」

「お前……ほんと性格悪いな……」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

親父が呆れたように言うので、俺はニヤッと笑ってやった。

「つーわけで、相手待たせてるし、急ぎなんだわ。すまねえな。いつもみたいに絡めなくて」

肩をすくめて俺が言うと、親父は腕を離してくれた。そして、はあ、とため息をついたあと、

「ああ。わーったよ。なら、明日こいや。試合の結果教えてくれ。あと、彼女も連れてこい。昨日から見たくて見たくて、股間をビンビンにさせてんだ」

「うん。ちょっと待て?最後おかしいだろ?」

ちょっとおかしい点があったので、俺は親父に突っ込む。
すると親父はきょとんとして、

「は?おかしいとこなんてねえだろ?お前みたいな萎えチンで満足出来てない娘に、大人のテクってやつを教えてやろうと思って、昨日から溜めてんだ」

平然と言う親父に、俺はイラっとした。

「俺は萎えチンじゃないし、満足も何もまだしてないから!後、大人のテクとか教えなくていいから!」

「は?じゃあてめえ、まだ童貞なのか?このヘタレが」

「俺はヘタレじゃない。紳士なだけだ!」

「知ってるか?自分で紳士とか言う奴は、ただのヘタレなんだぜ?」

「ぐ……」

あまりの正論に、俺は呻いた。
や、やばい……言い負かされそうだ。この親父……出来る……。
だが、簡単に負けるわけにはいかない。俺は大きく息を吸うと、言ってやった。

「大体!親父だって大人のテクなんて知らねえだろうが!この歳で独り身なんだから、お前だって童貞じゃねえのか!?」

本当は言っちゃいけないことなんだろうが、形振り構っていられないので、そう言ってやった。
多分、すげえ怒るだろうな……そう思いながら親父を見る。
が、親父はキョトンとした顔をしていた。

「は?何言ってんだ?俺にがガキがいるぞ?」

……はい?

「あ、あの?今なんて言いました?」

あまりの衝撃に、俺は震える唇でそう聞く。
すると親父はその顔のまま、

「だから。俺には子供がいるぞ?3人」

平然とそう言った。
へ?親父に子供?つまりは……あれっ?へ?……あれっ?

「え?じゃあ何?親父って……奥さんいるの?」

震える指で親父の顔を指し、そう聞いてみる。
すると親父は当然とでも言うように

「ああ。いるぞ?当たり前だろ?」

馬鹿にしたようにそう言った。
それを確認して、俺はついに我慢できなくなり……

「嘘ぉぉおおおおおおおおお!?」

大声で叫んでいた。それ程の衝撃だったのだ。

「あ~。うっせえな。叫ぶんじゃねえよ。馬鹿が」

それに親父は顔をしかめ、耳を抑えていた。
それに向かって、俺は迫る。

「いやいやいや!だってお前……お前さ!こんな訳のわからない名前の店の親父が……だぞ?しかも普段は店番サボって寝てるような奴がだぞ?いや、誰だって驚くだろう!?」

「おい。訳のわからない名前ってなんだよ。分かりやすくていいじゃねえか」

「いや!『俺の武器を見ろっ』てなんだよ!馬鹿か!」

「俺が鍛えた武器を見せびらかしてやれって意味だ。な?かっこいーだろ?」

ドヤ顔で言う親父は、やはり馬鹿だった。

「いやいや!結局はお前が自慢したいだけかい!?っていうかお前子供いるのに店番サボってていいのか!?この店、俺以外に客見たことないんだけど、潰れたらやばいんじゃねえの!?」

「あ?ガキどもはもう独り立ちしてらあ。それに、俺は基本的にオーダーメイド専門だから、店まで来るのはお前くらいだぞ?」

「そ、そうだよな!お前くらいの腕があれば、そこそこ稼ぎはある――じゃなくて!奥さん見たことねえんだけど!?なんで店にいねえの?親父の家、ここの2階だろ?」

そう聞いてみると、親父ははあ~とため息をつき、

「だっておめえ、もう死んじまってるし」

そんな事を、平然と言ってのけた。

「……え?」

それに固まる俺。そんな俺を見ながら、親父はもう一度、

「だから。もう俺の妻は、死んじまってるんだよ」

平然とそう言った。
それを聞いて、俺は気づいた。

あ……これマジで言っちゃいけない奴だったわと。

「す、すまん。変なこと聞いたな……」

物凄い罪悪感が湧き、俺は頭を下げて、親父に謝った。
そんな俺を、親父は呆れたような目で見ながら、

「ああ?なんで謝るんだよ。もう気にしてねえって。おら。頭上げろ」

俺の頭をガシガシ撫でながら、親父が言う。
それに俺が頭を上げると、親父はガハハと笑い。

「まあ、教えなかった俺が悪いか。ガハハ。まあ、気にするな。おら、決闘相手が待ってるんだろ?さっさと行け、バカ息子」

俺の頭に拳骨を落とした。

「いて……クソッ……謝って損したぜ」

そのあまりの痛みに、俺は頭を摩りながらそう言う。
まあ、内心はスゲエ悪い事した気分なんだけどな。
そうしていると、親父は笑って、

「まあ、明日来た時に、詳しく話してやるから、今日はもう行け。あんまり人は待たせるもんじゃねえぞ?」

俺のケツを蹴飛ばした。その痛みにも、俺は顔を歪める。
だが、そろそろ行ったほうがいいのは事実なので、俺はケツを摩りながら、

「わかった。じゃあ明日な。俺はちょっと……行ってくるわ」

後ろ手に手を振りながら、店を出た。
そんな俺の背後から、親父の「ちゃんと彼女連れてこいよー!」と言う言葉が、大きく響いた。




チッ……ホント、お人好しな親父だ。死ねない理由が増えちまった……。







             ◇







親父から買った剣を左手に持ち、街を歩き、<恩恵の森>に一番近い、東の門まで出てきた俺は、

「仕事しろよな……」

城壁に寄りかかり、爆睡しているオヤジを見て、小さく呟いた。
ったく。この先にある森には、化物がいるってのに、本当に気楽なやつだぜ。

っていうか。普通、そんなのが出たのなら、門は閉鎖してあるはずじゃねえのか?大丈夫かこの街。
まあ、そんな疑問はあったが、好都合なので、俺はオヤジの近くにあった出門許可書に名前を書き、<恩恵の森>までの道を歩き始めた。




森に入ると、今日は天気が良かったので、月明かりが美しく、あまり視界が悪くないことがわかった。
寧ろ、月の明かりが差し込む森の中は、幻想的という言葉がふさわしいほど美しい。
そんな森の中を、俺は神経を張り巡らせながら歩く。
なるべく気配を消すように努力し、一歩一歩、あまり音が出ないように踏みしめていく。
カサッカサッという草を踏む音だけは消しきれないが、仕方がない。
周りを見渡すと、恐ろしい程に森の中は静かだ。普段なら、森には行った瞬間に、ウルフが狙って来てもおかしくない。
やはり、鼻も耳も頭のいいウルフどもは、ここに魔物がいることに気づいているんだろうか?そう思いながらしばらく歩いていると、俺はあるものを発見した。

ボコボコにへこんだ、銀色の鋼の鎧。手には、半ばで断ち切られ、折れてしまっている剣。
体格も良く、ゴツゴツとした印象のあるその大男は、今日全滅したという。パーティの一人だった。
木に寄りかかっているその人を見て、俺は驚きながらも、急いで走り寄った。

「……死んでるな……」

首を触り、脈を確認。口を触って、呼吸を確認した俺は、それを死体と認識し、小さく呟いた。
しかし、鋼の鎧をこんなにし、剣を叩き折るとは、魔物は余程の筋力を誇る様だ。
よく見てみると、男の腕や足が、変な方向へ曲っているのがわかる。それを見て、俺はブルりと肌を震わせた。
恐怖ではない。ただ、俺は……

「これは……楽しめそうだな」

嬉しく感じてしまった。
ずっと監禁され、レベルの低い兄を虐める事しかしなかった子供の頃。
そして一年前、ギルドに入ったはいいものの、手応えのありそうな奴は全て騎士団に取られてきた俺は、全力の戦いと言う奴に飢えていたのかもしれない。

その証拠に、家を飛び出した時の、初めて人を斬った時や、今日のオークとの戦いの時は、何か胸に訴えてくるものがあったのを覚えている。
俺は案外、戦うのが好きなのかもしれない。それが勇者ってやつの気質なのかもしれないが、そんなのは関係ない。

「俺は……俺だ」

小さく呟き、顔を上げた時、バキバキと言う木の折れる音が、辺りに響いた。
そちらの方を見てみると、大きな影が見える。あれが、魔物ってやつなのだろうか?いや……恐らく、間違いないだろう。

「ははっ……こいつは、本格的に面白そうだ」

それを見て、俺は笑い、倒れているギルドの男の腰から、大振りなナイフを鞘ごと頂くと、それをズボンに差し、歩きだした。


次回は戦闘ですね!

死ね死ね死ね!

byティアに添い寝中の作者(クンカクンカ
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