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  俺の彼女は聖剣です。 作者:炎雷
報告
ティアと2人の帰り道の途中で、襲われているおばちゃんを助けた俺は、怪我している様子のおばちゃんを担ぎ、街に戻ろうと歩を進める。

ったく。最初は貴族だけ襲われてたようだから、うわ~全滅しないかなーとか思って見てたんだけど……
なんか馬車に乗ってた親玉の2人が走って逃げ始めたものだから、おばちゃんに迷惑かけたらしい。やっぱ最低だ。
大体、貴族の誇りってやつはどうしたよ?マジイライラすんぜ。そう思いながらも表情には出さない。2人に怖がられるからな。

「しかしあれだねえ。あんた、本当に強いんだねえ……」

おばちゃんが感心したように言うので、俺は笑ってやる。

「ん?ああ、オークってやつが弱いのさ。力はあるけど、遅いし、無駄にでかいからな。的にしか見えないよ」

「はっはっは。言うね~あんた!」

おばちゃんが楽しそうに笑う。ははっ、実際そうだしな。
しかしあれだな。早速本の知識が役に立つとは……オークってあれだな。結構でかい。
俺の身長3人分くらいに、赤黒い肌。顔もなんかキモいし、見た目は強そうだ。
まあ、すげえ弱かったけど~プークスクスと思いながら、俺は手に持つオークの頭の入った布を見て、ニンマリする。
さ~て、街に帰ったら、これでカーラさんを驚かしてやろう!魔族を倒すなんて!って、きっと喜んでくれるだろうからな。
かっこいい抱いて!って言われたらどうしよう。いや、やんわりとお断りせねば。君は俺たちの女神だ。いつまでも綺麗なままでいてくれよ……って言うのはどうだろうか?やばい、余計惚れられちまうぜ。まいったな。
俺みたいなゴロツキに、あんたみたいな女神が眩しすぎるぜ……って言うのは……ダメか。同じ結果になる。

「あれ?シン?何でそんなにニヤニヤしてるの?」

おっと。表情に出ていたみたいだ。俺はティアに優しく微笑みかけ、言ってやる。

「ん?ちょっと交際をお断りしないといけないんでな。どう言えばいいかと」

「へ?」

ポカンとしているティア。ふふっ、ティアにはちょっとこういうのは早かったか。

「あんた……馬鹿だねえ~」

おばちゃんが呆れたように言ってくる。馬鹿とはなんですか馬鹿とは、大事なことですよ?
そう思いながらティアとおばちゃんと楽しく談笑していると、

「ーーー!ーーーー!」

後ろから聞こえてくる男の声に、流石に無視できなくなった様子のおばちゃんが、後ろ……なんかついでに助ける羽目になった貴族どもを振り返った。

「なあ?あの貴族の人たちが叫んでるんだけど、知り合いかい?」

そんなことを聞いてきたので、俺は、直様。

「いや?人違いだろう?」

答えて、俺は貴族共を振り返り、睨みつける。

少し先にいるのは、なんか固まっている、男と女。
男の方は茶髪で、整った顔立ちをしている。典型的な貴族って感じ。服もいいものを着ているな。
女の方は黒髪で、ボロボロになったドレスを着て、なんか泣いてる。マジざまあ。美人だろうがなんだろうが、貴族の女はこれだから嫌いだ。泣けばいいと思ってやがる。

少し2人を見て考えるが……全く見覚えがねえな。チッ誰だっての。こっち見んなマジきめえ。
これ以上見てると目が腐りそうなので、俺は踵を返して、

「どうせこのまま、街まで護衛しろとか言ってんだよ。これだから貴族は嫌いだ。礼の一つも言わずに、自分の利益しか考えてねえ。勝手に食われてろっての」

言い捨てて、歩を進めた。それに慌てたように、ティアがトテトテと歩いてくる。

「シ、シンー!は、早いよ~!」

あ、どうやら苛立ちすぎて、歩くスピードを早くし過ぎたようだ。気づけば、視界も遅くなり、加速していたのがわかる。
一度立ち止まり、一息ついて、俺は心を落ち着ける。そしてティアの月明かりに照らされ、なんだか凄く綺麗になっている頭をぽんぽんと叩きつつ、

「ごめんごめん。ほら、ちゃんとコートの端持ってろ?逸れないようにな」

不満げな彼女に微笑みかけ、ゆっくりと歩き出した。









「で?何か言い訳することはありますか?シンさん」

そう言ってにっこりと微笑んでいるのは、ギルドの女神、カーラさん。
普段ならば、これを見れば俺は幸せな気分になれるだろう。
しかも今は、ギルドの受付カウンターにある奥の部屋……小さな個室の一つで、俺とカーラさんは2人きり。ティアはお風呂に行ってるから一時帰ってこないし……襲おうと思えば、襲っちゃえる感じなのだ。
が、俺はそれをやらない。え?ヘタレだって?いや、違う。断じて違う。俺はヘタレじゃないぞ?なら襲えって?雰囲気で察せバカ野郎。

それは、椅子に座らず正座する俺と、カーラさんの笑顔を見ればわかる。なんか目だけが異常に暗い。これは、怒っているということだ。誰だってわかる。

「何を黙っているんですか?言い訳、しないんですか?」

ビクビクしている俺に、カーラさんはゆっくりと微笑みかける。うん。すごく怖い。
なので俺は―――

「あ……あの……すみませんでした……」

弱々しく言い、静かに土下座へ移行した。





さて、なぜこうなったか説明しようと思う。

え~まず。足を捻挫させたおばちゃんを担ぎ、ティアに目線を向ける馬鹿どもに威嚇しながら、俺は病院に連れて行って、そこで別れた。
そして今度は、おばちゃんの荷台のこともあるので、ギルドへの報告と、ティアのお風呂をお願いしようと、俺はカーラからのプロポーズをお断りする文句を考えながら、ギルドに来たわけだ。

中に入ると、いつも賑やかなギルドは何故か、暗い雰囲気に包まれており、ティアが入ってきても、男どもはグスグスと泣いているだけで、反応しなかった。
それは気になったが、とりあえず報告しようと受付まで行き、カーラさんを見つけたのだが……カーラさんもカウンターに突っ伏して泣いていた。
女神が泣いていることに、俺は悲しくなり、彼女に元気になってもらおうと、布をほどいて、カーラさんの肩を叩き、顔を上げた彼女にオークの頭を見せ、

「うぐっぐすっ……きゃああああああ!!!!!!」

……叫ばれた。………………あれ?
俺がそれにポカンとしていると、やはり女神の叫び声には、ギルドの男どもも「なんだ?なんだ?」と反応し、俺はオークの頭を持ったまま振り返ると、

「「「ぎゃあああああ!!!!!!」」」

同じく叫ばれた。………………あれ?
で、その後平静を取り戻して、一時ふうふう息を吐いたあと、なんか物凄く怒った顔になったカーラさんに奥に引き込まれ、今に至る。

ティアも「シ、シン!?」と驚いていたが、手も振り返せなかった。なので本当にお風呂に入れてもらえてるかはわからない。……あの子、元気にしてるかなあ~

「で?シンさん?謝るくらいなら、なんであんなことしたんですか?」

額を地面に擦りつけている俺に、女神が優しく言ってくる。今思えば、何であんなことしたんだろうね?ホントに申し訳ない。
まあ、このまま黙っていても、先に進まないだろう。そう考えた俺は、顔を上げて、

「泣いているカーラさんに、元気になって貰おうと思いまして……」

「馬鹿なんですか?」

俺はまた、床に額を擦りつけた。
そんな俺の頭上で、カーラさんの「はあ~……」というため息が聞こえてくる。呆れられているようだ。
クソッ……こんなはずじゃなかったのに……何であんなことしたんだ!シン!甘い時間が台無しじゃないか……!
そのため息を聞きながら、俺がそんなことを思っていると、カーラさんはしゃがんで、優しく俺の頭を撫で始めた。へ?

「顔を上げてください。怒ってませんから……」

それに俺が驚いていると、カーラさんが静かにそう言って来た。なので俺が顔を上げると、

「本当に……本当に心配したんですよっ!?」

カーラさんは俺の頭にギュッと抱きつき、ボロボロと涙を流しながらそう言った。は、はれ?どういうこと?何が起こってるの?
カーラさんのなんか優しい匂いと、プニプニと柔らかい感触。
そしてボロボロと泣いているカーラさんに呆然とする俺。ていうか顔に胸が当たってるんだけど……へ?ここは天国ですか?

生きてて良かった!ありがとうございます!カーラさん!

だが、このまま顔いっぱいの幸せを堪能している訳にもいかない……か。泣いてるってことは、何かあったんだろうな。さて、ちゃんと聞いてみるか。
俺はそう思って、彼女の腰を掴んで離し、肩に持ち替えたあと、

「……何があった?今日は……ロビーも凄かったぞ?」

俺が真剣な顔でそう言うと、カーラさんはグシャグシャの顔のまま、泣き声で言葉を紡ぐ。

「うぐっ……ひっく!今日の……ひっぐ……朝シンさんにお願いしたクエスト……ひっぐ……オーク討滅を受けたパーティ5名が…ひっぐ……1人を残して全員……ひっく、全滅しました……」

「……な!?」

俺はそれに驚いた。5人も……いや、4人か。は?全滅?このギルドの腕利きが?……全滅?
ありえない。だってこのギルド、大空の翼は、中々に強い奴が多い。その中でオークなんか受けるってことは、かなりの腕利き揃いのパーティのはず……それが全滅だって?
驚きを隠せない俺は、少しだけ固まったあと、カーラさんの顔を覗き込んで、

「……それは、本当か?」

静かに聞いた。すると彼女は泣き止もうと頑張っていたが、

「は……はい……本当です……うわああああん!」

また、大声で泣きながら、今度は俺の胸に飛び込んできた。
そうか、このギルドの奴らは仲間意識が高いし、カーラさんといえば、俺たちギルドの連中全員の顔を覚え、家族だと豪語するような人だ。……辛かっただろうな……

俺は泣いているカーラさんの頭を撫でながら、考える。
たしかにオークは、力は強いし、デカイからリーチもあるし、場慣れしてない奴なら、恐ろしいと感じるだろう。
だが、ギルドの腕利きがパーティが全滅するほど、強いとも感じなかった。
動きは遅いし、仲間が切り刻まれてるのに、簡単に殴りかかってくるほど頭も悪い。そんな奴に、うちのメンバーが簡単に殺されるものか?

いや、ない。ないぞ?絶対ありえない。はず……。

俺はそう思って、腕の中で泣くカーラさんに、声をかける。

「……カーラさん。一人だけ残して……ってことは、そいつは逃げ帰ってきたんだよな?なにか報告してなかったか?」

俺がそう聞いてみると、カーラさんは少しグズったあと、俺の胸元で涙を拭き、なんとか喋れるようになったあと顔を上げて―――

「うっ……ええとですね……まず、オークが10程居て、それに自分のパーティがやられたあと、そいつらは<風の丘>の方へ……シンさんがいるほうへ走って行ったって……それを聞いて私……私……!うわあああん!無事で……!無事でよかっ……!わあああん!」

また俺の胸元で泣き始めたカーラさん。オークが……10?俺が倒したのは5だぞ……?と、疑問に思ったが、人数も多いんだ。5体くらい変わらないだろう。
それに、あと5体を俺が見なかったってことは、あの貴族たちが倒したと推測できる。なら、所詮はその程度の強さってことだ。ギルドの敵じゃない。

―――チッ嫌な予感がしやがる。

そう思った俺は、カーラさんにもう一度聞く。

「……ほかに、何か言ってなかったか?」

すると、大分落ち着いてきた様子のカーラさんはまた少しグスグスしたあと、

「うっ……なんか……ひっぐ!オークの中に、一体だけ、大きな奴がいたって言って……」

……いや、そいつだろ。
絶対パーティ全滅させたのそいつだろ。
オークじゃねえよ。と言いたくなったが、俺は敢えて何も言わず。

「わかった。あとは任せろ。ちょっと行ってくる」

俺は彼女の体を離し、ドアに向かった。すると背中から、カーラさんが叫んでくる。

「ま、まさか行くつもりですか!?だ、ダメですよ!?」

「ん?俺は家に帰るだけだ。あの森は俺の――――――」

「そ、そんな屁理屈!今日はダメです!へ、部屋を用意しますから!」

「あ。じゃあティアを頼む。寝かせておいてくれ。ほら、このままだと被害が増えるし、ちょっと行ってくるよ。な?俺ならオークも簡単に倒せるし―――――」

「もう、騎士団と、噂の勇者ルークに申請を出してます!それにもう暗いですし、危険です!ああもう!今日はとにかくダメです!シンさんは、今日は私の目の届くところにいてください!」

カーラさんは叫びながら、俺の方に走り寄ってきた。しかもなんか、嬉しいことまで言ってくれている。普段の俺なら、喜んで飛びつくだろう。
……が、俺も固まっていた。もちろんカーラさんの一緒にいてください宣言のせいではない。
彼女の言葉で一つだけ、気になることがあったのだ。なので俺は後ろを振り向くと―――

「……ちょっと待て?勇者の名前なんて言った?」

静かにそう聞いた。するとカーラさんはキョトンとして、

「へ?新聞読んでないんですか?ルークです。勇者ルークですよ?今、有名じゃないですか」

……勇者ルーク?へ?ええと……すごく聞いたことあるなあ……
そんなことを思いながら、俺は震える唇を動かし――――――

「あの……フルネームは?」

カーラさんに恐る恐る聞いてみる。すると彼女はキョトンとして、

「へ?ルーク・ド・グラムランドって言うそうです」

それを聞いて、俺はピキッと固まり、「へえ~」と呟くと。
彼女の肩を掴み、顔を彼女に近づけた。
その瞬間、彼女は顔を真っ赤にして、何やらキョロキョロと目線を動かす。

「へ?ええっと……シンさん?どうし……だ、ダメですよ?こんなところで……」

何故か物凄く焦っている彼女。確かにこれは、顔が近くて恥ずかしいし、彼女も俺の顔なんかが近くにあって嫌かもしれない。
でも、これだけは、これだけは言わせてくれ……!

「私、初めてはベットが――――」

「なあ。昨日の新聞あるか?」

すると彼女は一瞬ポカンとしたあと、何故か肩をわなわなと震わせ、

「へ?シ、シシシ!シンさんのバカっ!」

――――――パシンッ!

「ッ!?なぜにっ!?」

ぶっ叩かれました。


さあ。新ルート開拓。

死んじゃえ!死んじゃえ!

そしてティアは我がもとに……ぐへへ
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