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  俺の彼女は聖剣です。 作者:炎雷
願いの声
剣の勇者。

それは、魔法が使えず、唯、剣だけを振り続けた少年が、ある日現れた魔王を滅ぼすという、ありふれた物語。

主人公として名を残す少年の名は、ロイ。
彼は、いつものように自分を鍛錬していた森の中で、金の光を放つ剣を拾い、世界を襲っていた魔族との戦争に、その剣を使って参戦。
戦場を制した彼は、たくさんの人々に発信する。「俺が魔王を滅ぼすだから安心してくれ」……と。
その言葉通り、彼は自らの仲間たち、剣を使った騎士。回復魔法を得意とした聖女。攻撃魔法に特化した魔法使いと共に旅を続け、魔族の武将たちを、全て切り倒す。
そして現れたゲートをくぐり、魔界へと渡った彼は、ついぞ魔王の心臓を貫き、世界に平和をもたらした。

その後、彼は……。




胸の中で眠っているティアの頭を撫でながら、暇潰しにと読んでいた本を、パタンと閉じる。
ずっと同じ体勢だから、ちょっと硬くなった筋肉を、体を大きく動かすことで伸ばす。
すると、ポキポキと関節の音がして、血行が良くなった気がした。

それを感じながら、俺は物思いにふける。
剣の勇者……世界を救った少年……ね。
主人公が俺に似てるせいか、共感するところもあり、なかなか面白かった。それに……いろいろとヒントもあったしな。
魔物の特徴とかも、綺麗に描写してあるし、これからの戦闘に生かせそうだ。まあ、今代の勇者様が暴れるんだろうから、あんまりする事はなさそうだけど。
でも、自分の身を守らないといけない場合もあるしな。買っておいてよかったぜ。
まあ、でも銀髪が言ってたように、これを子供に読み聞かせるのはどうかと思う。だって結構分厚いんだぜ?今なら面白く読めるけど、子供は飽きるっつーの。

ティアの幸せそうな寝顔が、傾き始めた日の光に照らされ、赤みを帯びる。
キラキラと輝く金髪は、とても綺麗だ。思わず目を奪われてしまう。

顔を上げ、景色を眺めると、もうすっかり夕方だ。。
ここから見る夕日は、とても綺麗で、心を洗ってくれるように感じる。

「ははっ。さっさと起きないと、沈んじまうぜ?」

苦笑いを浮かべながら、ティアの髪を撫でていく。この夕日を彼女が見たら、どんな反応をするだろう?
やっぱり、綺麗だね~って笑うんだろうな。そんな彼女を見たいけど、起こすのもアレだし……かと言って見れないと可哀想だしな~。

俺がそうやって迷っていると、彼女は「ん……」と小さく呻いた。あら?起きるのかもしれないぞ?

「ティア?夕日がすっごく綺麗だぜ?早く起きないと、沈んじゃうって」

軽くゆさゆさと揺すってみる。すると彼女はまた「ん~」と呻いたあと、ゆっくりと目を開けて……

「ん……シン?あれ?私寝ちゃって……」

「ああ。すっごく気持ち良さそうに眠ってたよ。あ、そんなことより、見てみろ。夕日が綺麗だからさ」

「ホント?」

寝ぼけているティアに笑ってやると、ティアはゆっくりと体を起こして、

「わあ~!綺麗!」

満面の笑みを浮かべた。
その横顔は、どんな綺麗な夕日よりも、綺麗だなって、そう思った。








夕日も沈み、綺麗な星が輝き始めた。

俺は腕に寄りかかって、目を輝かせながら空を見ている彼女を見て、今日は連れてきてよかったなと思う。
ずっとこうして居たいが、風の丘はその名の通り、いつも風が吹いているし、少し肌寒い。
俺はコートを着ているからいいが、風邪を引かせるわけにもいかないし、そろそろ帰るべきだろう。
なので俺はティアの顔を覗き込み、軽く笑うと、


「そろそろ冷えてきたし、帰ろうか?」

そう言って見る。すると彼女は、

「……もうちょっと居たいなあ……」

寂しそうに言って、俺の腕に頬を擦り付けてくる。うん。大変可愛い。
でもまあ、夜は野生の動物もいるし、早めに街に帰ったほうがいいだろう。

「まあ、まだ居たいってのは、俺も同じなんだけどさ。風邪ひいちゃうだろ?また連れてきてあげるから、今日は帰ろうな?」

寂しそうな彼女に小さく微笑む。彼女はそれに、寂しそうに笑って、

「……うん。わかった。約束だよ?」

小さく頷いた。

「ああ。約束だ」

俺はそんな彼女の頭に、手を置いて、優しく撫で、彼女の笑顔に安堵した。






        ◇





「早く逃げてください!お2人とも!『ロックボール!』」

馬車の外から騎士の声がし、その後、魔法を放つのが聞こえた。それを聞いて、レンは私の手を取る。

「逃げるよ!クレア!」

レンが馬車のドアを開け、外に出る。私も彼に引っ張られるように、外に飛び出す。

「『ウインドカッター!』」

外に出た瞬間、私は握っていた杖に魔力を込め、近くにいるオークめがけて、風の刃を打ち出した。
風の刃が、空を切っていく音が響く。そしてその刃は、狙い通り、オークの体に直撃した。
が、その攻撃は、オークの体を軽く切り裂いたに留まる。それを見て、私は驚いた。

え?私のウインドカッターをまともに受けて……それだけ?

私は、化物……オークに恐怖した。流石伝説の魔物。一筋縄ではいかないみたいね……。
私の魔法は、学校でも上位の成績だったはず……今は結婚して中退し、家庭教師が勉強を教えてくれているけど、それでも魔法には自信があったのに……

オークが苦悶の声を上げ、馬車を棍棒で叩くと、バラバラになった。なんて力なの……!

「うっ!魔法があんまり効かない!クレア!このまま街まで逃げるよ!」

レンに手を引かれながら、私は走る。ドレスを着ているし、靴のヒールも高いから走りにくい……ちょっとでも躓けば、転けてしまいそうだった。

周りを見渡せば、そんな化物が10体もいる。なんで私たちを襲ってきたんだろう?そう考えてすぐに気づく。オークはたしか、性欲が強いと聞いたことがあった。
子供を作るという事には興味がなく、ただ欲望を満たすためだけに女性を襲うらしい。つまり、こいつらの狙いは私みたいだ。
だって、騎士の人たちにもあまり興味なさそうに、私ばかり狙ってきているし、うん。確定だろう。

「レン!こいつらの狙いは私よ!あなたは逃げて!」

私はレンの手を振り払い、杖に魔力を込めた。すると彼は、私の手をもう一度握ってくる。

「馬鹿かい君は!僕が君を、置いていくわけないだろう!?ほら!騎士が時間を稼いでるあいだに、早く逃げるんだ!」

レンは叫び、私の手を掴んだまま走り出す。でも、逃げきれるわけがない。
私を追ってくるオークの足は早く、ただでさえ足が速い方ではない私が、ドレスやヒールの靴なんかを纏っているのだ。絶対逃げきれない!

そう思いながらも必死に走る。怖くて怖くて、泣きたかった。でも、泣いてても何も始まらない。今は、ただ足を動かそう!
走っていると、すぐ後ろからズシンズシンと足音が響いてくる。抑えられなくなった涙を流しながら、私は必死に祈った。
誰か助けて!って叫びたかった。でも、私は貴族だ。貴族は、人に助けを求めちゃいけない。自分で何とかしなさいって、大っ嫌いな父が言っていた。

だから私は必死に走る。自分でなんとかしなきゃ!そう思ったから。

でも、その時私の視界に、あるものが映った。逃げ遅れてる人がいるのだ。よく見ると、その人は年配の女性だとわかる。
なんで逃げないの!?そう思ってその人を見ると、オークを見て焦ったのか、引いていた荷台のタイヤに、足を挟まれているようだ。

私は迷わずレンに叫んだ。

「レン!あそこの人!逃げ遅れてる!」

すると彼はチラリとその人を見て、

「今は君が大切だ!助けてあげてる時間なんてない!」

叫び返してきたレンを見て、私は驚いた。さっきまで貴族は、民のために戦うものだって言ってたじゃない!と。
だから私は、もう一度叫んだ。

「さっきまで貴族は、民のために戦うものだって言ってたじゃない!今頃になって、何を怖じ気ずいてるのよ!」

「なら聞くよ!君がもし、あの人のところに行って、助けられるのかい!?君の魔法であのオークを倒して、皆助かることができるのかい!?」

少し息を荒らげながら、彼は叫ぶ。それに私は、言い返せなかった。
その沈黙を肯定と取ったのか、レンは叫ぶ。

「出来もしないのに、ヒーローを語っちゃダメだ!僕たちは所詮、ただの人。君のお兄さんみたいな、勇者なんかじゃないんだ!」

彼の背中を見ながら、私はその通りだと思った。でも……でも!

「さあ!わかったなら走るんだ!くそっ!『ファイアーボール!』」

レンが振り向きざまに魔法を放ち、オークを足止めする。そして私の手を強く引いて、更に早く走り出した。
一生懸命走りながら、私はその女性をちらりと見る。そして、その人にオークが近づいていくのを見て、

――助けなきゃって、そう思った。

気づけば私はレンの腕を振り払い、叫んでいた。

「私は……私は貴族よ!だから私には、民を救う義務があるの!」

「待つんだクレア!」

静止の声を振り払い、私は女性のもとへと走り寄って、杖をオークに向かって構えた。

「『ウインドハンマーッッッ!!!』」

ありったけの魔力を込めた上級魔法で、オークの一体を吹き飛ばす。それを確認して、女性に声をかけた。

「大丈夫ですか!?はやく、早く逃げましょう!『ブレイドッ!』」

杖に現れた魔法の刃で、私は女性の足を踏んでいるタイヤを切り裂き、手を取った。……が。

「ははは……ありがとうね?でも、私はいいよ。足を挫いて動けないんだ」

弱々しく笑う女性。その人の顔には、明らかな諦めの色が浮かんでいた。

「何を言ってるんですか!?早く逃げますよ!」

それに私は大きく叫ぶ。その時、女性が私を突き飛ばした。

「えっ……」

それに驚きながら、空を舞う私が見たのは、その女性に向かって棍棒を振り下ろしているオークの姿。

「本当に……ありがとうね」

そう言って彼女は笑い、私の目の前で命を終えようとしていた。

「いやああああ!!!!」

私は叫ぶ。私のせいだと、狙われている私が近寄ったせいで、新しいオークが来たんだとわかったから。
女性に向かって手を伸ばす。そして願った。誰か……誰かあの人を助けて!って。
頭の中に浮かんだ人を、私は求めた。その人はいつも優しくて、でも、とても悲しそうで、いつもいつも、自由を求めていた人……。

「お兄ちゃんっ!」

叫んで、ギュッと目を閉じた。女性が自分のせいで、棍棒に潰されて死ぬのを、見たくなかったから。
背中に衝撃が走る。地面に落ちたのだと気づいた。そして、女性が潰される衝撃の音を聞きたくないと、耳を塞いだ。

――でも、いつまでたっても衝撃が来ない。

不思議に思って、ゆっくりと目を開ける。するとそこには、驚くべき光景があった。

そこには……バラバラになったオーク。降り注ぐ紫色の血の雨。そして、女性の目の前に立つ。

――――黒衣の剣士がいた。


うわー。誰だろー(棒)

イケメソだなー(棒)

爆ぜればいいのにー(本気)
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