クレアの想い
シンとティアが甘い時間を満喫している頃。
ライザ国の首都、レクスに向かって、一台の馬車が6人の騎士に護衛され、走っていた。
その馬車の中にいるのは、クレア・レ・イアモンド。地の国、ライザ国の公爵家の婦人にして、勇者ルークの妹である。
そしてその向かい側にいるのが、彼女の夫、イアモンド家一男。レン・デ・イアモンド。次期イアモンド公爵家の第一候補だ。
ライザ国の公爵婦人。更には、勇者の妹として、夜会に引っ張りだこだったクレアは、やっと帰宅を許された帰りの馬車の中で溜息をついた。
「疲れたかい?クレア」
「ええ。とても疲れたわ……」
「はははっ。僕もだよ。まあ、家に帰ったら、ゆっくりしよう」
その様子を見ながら、彼女の夫、レンはにこやかに笑いかける。
少し茶髪の彼は、ライザでは有名な美男子。そして、クレアがまだ初めてを済ませていないように、かなり女の子に気を遣う。
その身分と相まって、沢山の求婚を受けていたレンだが、クレアに夜会で一目惚れし、婚約を申し込んだのは、とても有名な話だ。
だが、クレアは男に興味ない……というか、家の中に気になる人がいたため、断っていたのだが、欲にくらんだ父が勝手に婚約を受け、今に至る。
つまり、クレアはこの男が嫌いなのだ。まあ、悪い人じゃないというのはわかっているのだが……。
(でも、私はまだ15なのに……)
はあ……とまた、溜息をつく。それを見て、レンは気遣うように、口を開いた。
「まあ、いきなり自分のお兄さんが勇者って言われて、これだけもてはやされたら、驚くだろうね。僕も義兄は、レオン様だけだと思ってたから、驚いたよ」
ははは。と笑うレンに、クレアはイラっとした。何故なら、彼女はレオンのことを、兄だとは思ってないのだ。
あの下品な笑み、自分たちの為なら家族でも酷いことをするレオンが大っ嫌いなのだ。
なのでルークがレオンを気絶させ、出て行ったということを、未だにレオンが引きずっている事を、いつも清々しく感じていた。
「あんな奴……兄なんかじゃない……私の兄は、お兄ちゃんだけよ」
「本当に君は、レオン様のことが嫌いなんだね。でも、そんな君でも、勇者ルークは好きなのか。益々会ってみたいね」
ふふっと笑うレン。そんな彼を見ても、クレアは苛立ちを隠せない。
いや、ここ数日、ずっとイライラしていた。世間に認知されず酷いことばっかりされていた兄が、勇者だからって利用されようとしている。
また、自由を奪われようとしている。戦って戦って、魔王を倒すか、自分が死ぬまで戦わされようとしている。そのことが許せなかった。
ふざけるなって、そう思った。
「……お兄ちゃんは、勇者なんてやらない。あの人は、私たちのために戦おうなんてしないわ」
気づけば、クレアはそう言っていた。それにレンは、どうして?と首をかしげる。
クレアは答えた。
「お兄ちゃんは、私たちを憎んでるもの。だから、私たちのためになんて、あの人は戦わないわ」
クレアがそう言うと、レンはまた首をかしげる。
「……君のお兄さんに何があったかは聞かない。君に嫌われたくないからね。でも、勇者になれば神の代理人。この大陸で、最も偉い存在となれるんだよ?家族を恨んでるとしても、直ぐに滅ぼせる力を持てる。そんな立場を、自分から捨てるような人なのかい?」
それにもクレアは、すぐに答える。
「ええ。あの人は権力で……人の力で誰かを陥れようとはしない。だって、誰も信用してないから。あの人が信用するのは、自分自身だけ。あの人が欲するのは、自由だけ。そう言う人よ」
それを聞いたレンは。少しだけ考える素振りを見せた。そのあと、静かに口を開く。
「へえ。そりゃ珍しい人だね。でも……それでも僕たちは勇者に、戦ってもらわないといけないんだ」
「なぜ?」
それを聞いたクレアは、真剣な顔でレンを見た。
「なぜなら、僕たち貴族の騎士では、魔物たちを倒せない。だが、いつも威張ってる僕たちは、こういう戦いには負けられない。負けたら、民からの信用を失うからね。そしたら、今のような生活もできなくなるという焦りから、全ての貴族が、勇者ルークを望んでるんだ。自分たちの威厳を守るため、代わりに戦ってもらおう……とね」
それを聞いたクレアはレンを睨んだ。
「貴方も……そう思ってるの?」
「いや?僕は正直、身分なんかどうでもいいよ。僕はね、君がいてくれればいいから。まあ、魔王は倒してくれないと、困るけどね」
レンは悪戯に笑う。それは紛れもない本心だと、クレアは知っているため、何も言わない。自分の夫は、貴族の中では珍しい感性を持っているのだと、分かっているからだ。
女の子に軽いのは、色々と問題があるが……。
クレアがそんなことを思っていると、レンはスッと真顔になった。
「まあ、何があったかしらないけど、君のお兄さんだって貴族だ。なら、民のために戦う義務がある。そうだろう?」
それにクレアは、真顔で返す。
「いえ。お兄ちゃんはもう、貴族じゃないわ。それに、貴族らしい生活をしたことないはずだもの。民を守る義務なんて、全くないわ」
「……本当に、勇者ルークはどんな扱いを受けていたんだ……」
クレアの言葉に、レンは驚愕した。何故なら、グラムランド家といえば、かなり上位の大貴族だ。そんな家の者が、貴族の生活をしたことがない?そのことが引っかかった。
なので、レンはクレアの目を覗き込み、小さく呟く。
「……ねえ、君の家を調べても?」
それにクレアは、首を振った。
「……やめたほうがいいわ、お兄ちゃんが出て行ったあと、色々と人の手が入ったもの。何も出てこないわ。最悪、あの父との関係がこじれるだけよ」
「そうか……確かにグラムランド卿は、僕も敵にしたくはないね。クッ……勇者について、色々と知りたかったんだけど……」
レンは、悔しげに唇をかんだ。
それを見て、クレアはこう思ってしまう。
(それ程……お兄ちゃんを戦わせたいの……?)
実際は違うのかもしれないが、貴族として、自分の親を一番に観てきたクレアには、全ての貴族が自分の利益のために動いているとしか、考えられなくなっていた。
だから今回も、自分たちが威張るために、大好きな兄を死地に追いやろうとしている。そう考えてしまった。
(お兄ちゃんは……渡さない)
クレアはギュッと拳を握り、決意を固めた時、コンコンコンと馬車が叩かれ、
「長い旅路、お疲れ様です。もうすぐ、レクスに到着いたします」
外の騎士が、そんな報告をしてきた。どうやらレンは考え事をしているようなので、それにクレアが答える。
「ありがとう。最後まで宜しくね」
「お任せ下さい」
軽く挨拶を交わして、騎士はまた護衛に戻ったようだ。それを感じて、クレアは一息つく。
(はあ……お兄ちゃん。貴方は今、どこにいるの?私、会いたいよ……)
自由を求め、飛び出したのに、有名になってしまった兄。そんな兄に、クレアはそっと、想いを寄せた。
――――――刹那。
「な、なんだ!こいつらは!?」
「くっ!?こ、これは……オ、オーク!?オークだ!魔物が出た!全員戦闘配置!お二人をお守りしろ!」
外からそんな声が聞こえ、クレアとレンは何事かとカーテンを開け、外を見ると、
「グルルルルル……」
そこには、赤黒い肌3mほどの大きな体、手には棍棒を持ち、大きなうめき声を上げている。
―――伝説の化物がいた。
わあー大変だー(棒)
クレアに大変な思いさせたいという作者のゲスさ。とくと見よ。
小説家になろう 勝手にランキング
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。