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“百貨店過剰”の行き着く先は? 「大阪のみではパイの奪い合い」と危機感

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“百貨店過剰”の行き着く先は? 「大阪のみではパイの奪い合い」と危機感

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平日でも大勢の来店客でにぎわう阪急百貨店梅田本店の総菜売り場。広域から集客し、いかに売り上げにつなげるかがカギとなる=大阪市北区(安元雄太撮影)  13日朝。大丸梅田店(大阪市北区)食品売り場の一角に来店客が殺到した。開業30周年を記念し、初めて開催した「大謝恩祭」の招待客で、お目当ては有名旅館の昼食と温泉入浴がセットの限定チケット。開店から約1時間で完売した。

 大謝恩祭では、全館でこうした限定商品やセール商品を販売し、高い集客力をみせている。しかし、大丸梅田店に来店客が押し寄せたのは、通常の催事の約5倍にあたる25万部の案内状をカード顧客に送付した効果もあったとみられる。

 「対阪急梅田本店の意識はある」。大丸梅田店を運営する大丸松坂屋百貨店の担当者は、増床開業から1年を迎える阪急百貨店梅田本店(同)への対抗心を隠さない。

 大丸梅田店は、過去にも同じ大阪駅ビルに入るJR大阪三越伊勢丹(同)と共同企画を実施し、顧客獲得を図ってきた。今回の大謝恩祭では、案内状の送付で地域1番店として親しまれる神戸店や歴史が深い京都店の協力を取り付け、京阪神の店舗が連携する形で阪急梅田本店を牽制(けんせい)した。

 集中、連携…商圏拡大に必死

 大阪の百貨店関係者の間には、常にある不安がつきまとう。「全国から人が集まる東京とは異なり、大阪では市場のパイが広がらない」。阪急阪神百貨店の荒木直也社長はこう話す。

 市場が縮小傾向の中でどう生き残りを図るのか。各社とも「商圏の拡大」を打ち出すが、そのアプローチは各社各様だ。

 阪急百貨店は神戸と京都の店舗を閉鎖し、梅田本店に集中する戦略を敷く。まだ地元の競合店に勝てるほど地力はないものの、それでも「神戸、京都の客を着実に奪いつつある」(流通関係者)という。

 増床後の1年で近畿、西日本エリアからの阪急阪神百貨店のクレジットカード顧客による売上高は前年の約2倍に伸び、狙いはひとまず成功。荒木社長は「西日本の富裕層が梅田に買い物に来ている」と明かす。

 近鉄百貨店も、日本一の超高層ビル「あべのハルカス」(同市阿倍野区)に来年3月、全面開業する近鉄本店を核に商圏の拡大を目指しており、その手法は阪急百貨店と似ている。

 一方、大丸松坂屋百貨店は、大丸梅田店が大謝恩祭で神戸店、京都店に応援を要請したように京阪神の各店舗が連携し、グループで売り上げの拡大を狙う。その背景にあるのは「大阪のみではパイの奪い合いになるだけだ」という焦燥感と危機感だ。

 「ゼロサムゲームにならないように各店舗は商圏外から顧客を獲得する工夫が必要だ」。日本政策投資銀行関西支店の福盛田真義副調査役はこう説く。梅田の商業施設の集積を生かし、「海外からの外国人観光客にPRする」ことなどを提案する。

 競争が消費を動かす

 昨年末に発足した安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」で、消費不況が続く百貨店業界にもようやく薄日が差し始めている。

 日本百貨店協会によると、全国百貨店売上高(店舗数調整後)は8、9月と2カ月連続で前年同月比プラスを記録。関西の百貨店関係者の一人は「消費税増税という難題もあるが、経済界に賃上げを求めるなど安倍政権は脱デフレにむけて努力している。百貨店としても消費が上向くように、さまざまな工夫を凝らす必要がある」と話す。

 百貨店の売り上げが上向けば、経済も上向いている証し。関西地区では売上高、来店客数で1番店を維持し続けてきた阪急梅田本店は業界の牽引(けんいん)役であり、「阪急梅田本店には常に先頭を走っていてほしい。他店がそれを追い抜く努力をするという前向きなライバル関係が消費を上向かす」と前出の百貨店関係者はいう。

 1年前の増床以降、圧倒的な存在感をみせているとは言い難いが、今後も関西の百貨店競争は阪急梅田本店を軸に進むのは間違いない。(中村智隆、阿部佐知子)

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