ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  俺の彼女は聖剣です。 作者:炎雷
朝のギルド
窓から差し込む光が、朝の訪れを告げる。

鳥の鳴き声が聞こえ、俺はまどろみの心地よさを感じながら、目を開けた。
その瞬間、俺の目の前に、金色の女の子の幸せそうな寝顔があった。

「ん……そうか。ティアか……」

一瞬誰かと思ったが、すぐに思い出した俺は、小さく名を呟き、体を起こす。
久しぶりにベットで寝たから、寝起き特有の気怠さはあるものの、かなり体が軽い。
それに、野生動物の襲撃の恐れもないし、安心して眠ることができたため、気分も軽い。
体を伸ばすとパキパキと関節の音がし、更に体の調子がよくなる。やっぱこれはやっとかないとな。

その後、ティアの寝顔に目線を落とし、そのサラサラの金髪を撫でてやる。
ちょっとくすぐったそうに顔を動かす彼女は、とても愛らしい。
何年ぶりだろうな?隣で……というか同じ部屋で誰かが寝たのは。
ティアの寝顔はすごく可愛いな。まあ、起きてても天使だけど。
気持ちよさそうに眠るティアと、一年前に別れ、もう一生会うことはないだろう妹の姿が、一瞬重なる。
あいつ……元気にやってるかな?確か結婚したはずだが、幸せに生きてるといいな。
まあ、あのクソ親父の決めた結婚相手なんだろうし、多分ひどい目に遭ってる可能性が高いだろう。

そう考えると、最近俺は少し、後悔するようになっていた。
あの日……話くらいは聞いてやるべきだったかもしれない。一緒に連れてくるべきだったかもしれないってな。
……今更だけど、探して確かめるか?いや、もう遅い。あいつは他人だ……俺にはもう関係ない。

「けっ……いつまでも引きずってんじゃねえよ。アホが……」

自傷気味に呟き、頭を振る。
ったく……変なこと思い出しちまった。俺には妹なんかいない……。俺はシン。このギルドで生きる、自由な男。……そうだろ?

「んん……?」

自分に言い聞かせながらティアの頭を撫でていると、彼女は小さく呻き、

「ふぁあ……あれ……?シン?おはよう……」

ゆっくりと目を開けた。まだ眠そうなエメラルドグリーンの目が、俺を見つめる。

「ああ。おはよう」

ポンポンと頭を叩いてやると、彼女はくすぐったそうに目を細めた。

「くすぐったいよ……」

小さく笑う彼女の顔が、また妹と重なってしまい、俺はなんだかモヤモヤとした気持ちを抱え、苦笑いを浮かべた。





        ◇


コートを羽織り、ティアの身支度の手伝いをし、荷物を持った俺はティアと並んでロビーに出る。
いつも通り、ギルドの中は賑わっていた。ったく。毎日のように朝から大騒ぎしやがって。

「ん……うるさい」

コートの端を持って、俺から離れまいとしているティアが小さく呟く。どうやら、男たちの騒ぎ声が苦手なようだ。

「ごめんな?うるさいところで。ちょっと我慢できるか?あんまり嫌なら外に行くぞ?」

振り返り、彼女を気遣うと、ティアはふるふると首を振り。

「シンがここにいるなら居る」

逆に気遣われてしまった。ああ~ホントいい子だな。
でも、やっぱり苦手なんだろう。でかい声が聞こえるたびにビクッとしてるし、俺のコートを掴む手もちょっと強い。
……やばい。可愛い。
ちょっと可哀想だけど、このまま見ていたいくらいだな。
まあ、でもそれだと流石に可哀想なので、俺は何か簡単な依頼を受けて、2人で散歩するかと考えた。
それにほら、受付に行けばカーラさんがいるし。べ、別に下心とかないからな!

朝はあの笑顔を見ないと元気が出ないだけだし!俺カーラ教の信者だから、宗教活動みたいなもんだし!

「じゃあティア。昨日のお姉さんに少し話をしに行くぞ?そのあと散歩しような?」

「うん♪」

俺がそう言ってやると、彼女は嬉しそうに頷いた。やっぱり苦手だったようだ。ははは。無理してるティアは可愛いな。
軽く頭を撫で、嬉しそうにしているティアを確認した俺は、2人並んで階段を降りた――

「おいシン!その子誰だ!」

「ルーキー!てめえギルドに女連れてくるたあ……いい度胸だな?」

「ちょっとお兄さんとお話しようか?裏路地に来てくれる?」

「この野郎……女が出来たからって装備買い換えやがったな……?」

「うわ。真っ黒じゃねえか!」

……瞬間には囲まれていた。

やはりここの男どもは……全くもってあれだな。欲望に忠実だ。
俺に向けられる殺意の目。マジでうぜえ、斬っていいかな?ムカつくし。

だってさ。俺への殺意はまだいいよ?でもさ、怯えてるティアに向けられてる――――

「どう思う?こいつは一級だと思うんだが……」

「馬鹿野郎!俺は胸が大きいほうが……」

「お前!小さいは正義だろうが!」

品定めのようなジロジロとした目、

「この子見ろよ。ルーキーの後ろでビクビクしてて可愛くねえ?」

「ほら。おいで?お兄さん達は怖くないよ?」

「おじさんの間違いだろう?ん~涙目がいいな。この保護欲をそそる……」

ほんわかと優しい目や

「ねえ君。そんなルーキーより俺のとこ来いよ?可愛がってやるぜ?」

「お兄さんと一発どうだ?いい仕事すんぜ?」

「テクニシャンで有名な俺はどうだ?」

下品なニヤついた目。

…………ムカつくじゃん?

「シ、シン……」

ギュッとコートを握ってくるティア。その目には涙がにじみ、俺の顔をじっと見つめている。……怯えているのがすぐにわかった。

――チッ。怖がらせやがって。ちょっと痛い目見せてやるか。
と、言うわけで俺は意識を集中し、ゆったりと遅くなった世界の中で、素早く剣を抜き、
男たちのある一点だけを狙って、――ヒュン!ヒュン!ヒュン!と、何度か剣を振った。
その後素早く剣を収め、パチンと音が鳴った瞬間に気を緩め、元の世界に戻る。すると、

シュルシュルシュル……トサッ。

鼻息荒く俺たちに迫っていた男たち全員のベルトが切れ、ズボンが……床に落ちた。

「「「きゃあああああ!!!!!変態!」」」

それを見たギルドの中で働く女性たちや女のギルドメンバーの声が、大きく響く。おっと、依頼しに来たお客さんの女性も入ってるじゃん。お騒がせしてます。

「な!べ、ベルトが!ベルトが切れた!?」

「な、なんで全員!?ちょっ!?誤解ですって!」

「バカっ!お前ら慌てる前にズボン上げろ!」

女性にドン引きされて慌てる男ども。それを見ながら俺は思ったね。
――ざまあ!

俺が慌てる男たちを見ながらニヤニヤしていると、おっと。カーラさんが出てきた。
さて、どんな反応するかな?そう思ってニヤニヤする。男たちの顔はサーと青ざめていた。
まあ、カーラさんには嫌われたくないだろうからなあ……ま、自業自得だっての。

「ね、姉ちゃん!違うんだ!ベ、ベルトが勝手に!」

「そうだぜカーラさん!俺たちはわざと露出した訳じゃ……」

「お、俺だってカーラが許してくれるまでパンツは見せまいと……」

流石このギルドのアイドル、カーラさん。男たちの慌てようも尋常じゃないな!
ほら、カーラさん。こんなどうしようもない男どもに氷の一言を!そう思いながらニヤニヤする。

が、次の瞬間にカーラさんの口から出たのは、予想外な言葉だった。

「もう!あんまりふざけちゃダメですよ?お客さんもいるんですから。ほら、皆さん。そのままじゃ風邪ひいちゃいますよ?」

この現状……男どもの下品なパンツを見ても、カーラさんはニコッと微笑んだのである。
……何度でも言おう。カーラさんマジ天使。いや、もう女神だな。

その時、ギルドの男たちの心はひとつになった。
――この人は、絶対俺たちが守ろうと。



   ◇



その後、俺は騒ぎも治まり、男たちがベルトを一斉に手に入れに行ったので、何時もより静かなロビーの受付の前に立っていた。
まあ、ティアも怯えの色が多少薄れたし、結果オーライだったかもしれない。
後はあいつらが帰ってくる前に、さっさとクエストを受け、出かけよう。

「と、言うわけでなんかないか?カーラさん」

俺はギルドの受付嬢。天使から女神にランクアップしたカーラさんに、何かいいクエストがないか聞いてみる。
すると彼女は苦笑いを浮かべた。

「はい。実はちょっと困ってるのがありまして……今の騒ぎの途中に女性が慌てて依頼してきたんですけど、貴方が寝床にしてる<恩恵の森>にオークが出たらしくて……」

カーラさんは静かな声でそう言った。ん?オークってなんだ?聞き覚えがないぞ?

「あの……オークってなんだ?聞いたことがないんだが」

俺が正直に聞くと、カーラさんは少し驚いたような声を出した。

「え?知らないんですか?あの剣の勇者で有名な、魔物ですよ。魔物。力が強くて大きい魔物です」

魔物?ああ……そういえばあの銀髪がたしか言ってたな。本で有名って言ってるし、間違いないか。

「つまり、魔王って奴の手先……か」

「あ、そうです。その通りです!」

俺が小さく呟くと、カーラさんは理解されたのが嬉しいようで、ぱあっ!と微笑んだ。うん、非常に可愛い。

「でもさ。それって、最近人が増えてるって噂の騎士団や勇者とか言う奴の仕事じゃないのか?それに、今までだって、そういう危ない仕事は殆ど騎士団がやってたじゃないか」

俺がそういうのも、今まで、竜とかそういう危険なやつが出てきたら、騎士団が兵を出し、ギルドの仕事を奪っているからだ。
まあ、人々からギルドがあるし、わざわざ騎士団を作ってるのは、税金の無駄使いだと言われているため、ちょっとでもギルドより格好つけたい騎士団が、ギルドに警告し、自分たちが出ているというわけである。
それに、ここは首都だ。他の地域ならギルドが動くほうが早いが、ここでは騎士団が動いても、大して変わらない。それなら確実に戦力がある騎士団のほうがいい。

それに多分、魔物ってやつは随分強いんじゃねえかな?分かんないけど。
とりあえず、ここは、無駄に金使ってる貴族様の集団に動いてもらうべきだろう。
そう思いながらうんうんと首を振っていると。

「シンさん?そんな常識的なこと言ってても、すごく行きたいって顔してますよ?」

……バレたか。うん、行きたいよ!すごく戦いたいよ!だってさ。勇者が戦うやつなんだろ?やってみたいじゃん?
気恥ずかしくなって、頬を掻く。クスクス笑うカーラさんは、意外とドSなのかもしれない。

「まあ、本音を言えばな。でも、今日のクエストはティアとの散歩も兼ねてるんだ。危険なのはやめておくよ」

俺はさっきから構ってないせいで、寂しそうにしているティアを一瞥し、軽く微笑んでやる。
するとカーラさんはまた、クスクス笑った。

「あら。残念。さっき、シンさんが男性陣のベルトを斬っちゃって、誰もいないから困ってるのになー」

「……見えてたのか、凄いな。カーラさん、本当にいい目してるよ。剣士に転向すれば?」

悪戯に笑うカーラさんに俺は驚いた。
俺の剣線を見えたと言った人は、初めてだ。それがまさか、剣士でもなんでもない一般人とは……この人マジで神様じゃね?
そんなことを思っていると、カーラさんはクスッと微笑んで、

「ふふっ。そしたらパーティ組んでくれる?」

「もちろん!というか俺から誘うよ」

即答しました。当然だね!
この判断は当たり前だろ?他の男に取られるくらいだったら俺が貰う。なんかこの人といると生存率上がりそうだし。
なんてったって、このギルドの女神だからな。本当に転向しないかな?

「む~。シン。さっきから楽しそう……」

そろそろ限界だったのか、ティアにくいくいとコートを引っ張られる。おっと、膨れ顔が可愛いな。
まあ、これ以上待たせるのもあれだし、なんか軽いの取るか。

「ねえ。カーラさん。他にはない?薬草集めとかでいいんだけど」

「あはは。そうですね。今日はその子の安全が第一ですね。じゃあ、これなんかどうですか?」

そう言ってカーラさんが渡してきたのは、一枚の紙。
俺はそれを依頼書だと認識し、覗き込む。

「風の丘にある、エアーリーフの調達か。うん。散歩にはちょうどいい距離だし、これにするわ」

エアーリーフとは、傷薬の材料に良く使われている材料だ。
風をたくさん浴びて育つため、そう呼ばれているらしい。
ここから風の丘までなら、街の西門から出てすぐだ。ちょうどいいクエストだろう。

そういう意味を込めて俺が言うと、カーラさんはニコッと微笑んで依頼書を渡してきた。

「はい。じゃあいいデートを♪」

「ああ。お姫様を満足させてくる。じゃ、行こうか?ティア」

「うん♪」

笑顔で手を振ってくれるカーラさんに手を振り返しながら、俺はもう片方の手でティアと手をつなぎ、ギルドを出た。



小説家になろう 勝手にランキング


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。