秘宝館
一号室の2


それは,見慣れた人々の,見慣れない姿。

明るい日差しの差し込む部屋,見慣れたラグの上に,
妲己の,色素の薄い,豊かな髪がこぼれている。
髪は,ベッドを源流として流れていた。
ベッドの端からずり落ちそうになりながら,見たことも
ない表情で聞いたことのない密やかな声を上げている
妲己は,全裸であった。
庭からでも,彼女の裸体が全てみてとれる。

妲己は,恍惚とした表情で目を閉じ,足を大きく広げ,
上半身をベッドからはみださせ,下半身をベッドに投げ
出している。

…そしてその下半身の,大きく広げられた足の間に,
弟が…太公望がやはり全裸で,跪いていた。

二人が何をしているのか,それがわからないほど,
無垢であるつもりはなかったが,竜吉公主は,全身の
血が凍ったかのような錯覚と,衝撃を受けた。

目が,一点に吸い寄せられる。

大きく広げられた妲己の足の真中の茂みに,何か
見たことがないものが生え,大きく動いている。

それは,太公望と繋がっていた。

ベッドが大きく,激しく軋み,妲己と太公望の口からは
止め処もなく吐息と,喘ぎが漏れる。

濡れたような,湿ったような物音が幽かに聞こえる。

太公望の手が,反り返った妲己の,豊かに張り出した
胸に伸びる。
ずり落ちかけた妲己の身体をわずかに引き上げると,
太公望の手が妲己の胸を包んだ。
妲己の豊かな胸が,太公望の手のひらの下で様々な
形に変わるのを凝視しながら,竜吉公主は息苦しくな
り,その息苦しさに,初めて自分が,姉と,弟の性行為
を凝視していたことに気づいた。

慌てて,しかし物音を立てないように,竜吉公主はその
場を離れた。

十分に遠くに離れても,胸の動悸が納まらない。

あれは,性行為だったはずだ。

しかも,妲己の相手は,確かに太公望だった。

太公望は,我々姉妹の,実の弟である。

祖母に生き写しの我々,父に,祖父に生き写しの弟,
我々姉弟には,血縁関係を疑える材料など,寸分もない。
我々は,完全に,実の姉弟である。

姉弟での性行為は,完全に禁忌である。

竜吉公主の頭を,何度も同じフレーズが駆け巡る。
身体が熱くなる。
身体の奥が,どうしようもないほどに熱くなって,その火
照りが治まらない。
震えがとまらなくて,竜吉公主は思わず自分の腕を抱
いた。

身体の熱さは,何時までたっても治まらなかった。

目の前を,繋がった妲己と太公望の姿が浮かび,息が
荒くなる。

耐え切れなくなり,シャワーを浴びようとバスルームに
入った。

バスルームの鏡に,上気した自分の顔が映る。
上気した身体も。

鏡の中の自分の茂みに,視線が落ちた。
…ここが大きく開き,その中に…

妲己の身体に差し入れられた,弟の一部。

必死にその淫らな光景を振り払い,バスルームに入り,
蛇口をひねった。

洗い流したい。
全ては夢。

この記憶さえなくなれば…。


身体の火照りは,何時までたっても治まりそうになく,
仕方なくバスルームを出た。
すこし躊躇し,バスタオルを巻いたまま,バスルーム
を出る。
バスルームから,何も着ないで出るなど,生まれて初
めてのことだ。

まだ明るい室内を歩き,姿身の前に立つ。
火照りに押されるように,バスタオルを落とす。

女神のような裸体が,鏡に映る。

竜吉公主は,鏡の中の自分の胸を見つめた。

妲己ほどではないが,十分に豊かな乳房が,美しい膨ら
みを形成している。

太公望の手を思い浮かべ,息が荒くなる。

太公望の手の下で,様々に形を変えた妲己の乳房。

迷って,そして勇気を出したように,手を胸に伸ばす。
ためらうように,鏡の中の手は,ゆっくりと胸へと伸びて
いく。

堪らずに,目を閉じる。
そろそろ手が胸につく,と思った瞬間。

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