この夏、俳優・高岡蒼甫の発言で火がつき、フジテレビへの抗議デモにまで発展した、メディアの韓流コンテンツ偏重の批判。韓国政府が国策として資金を出し、自国のコンテンツをゴリ押ししているという噂まで飛び交ったが、そんなことが本当にあるのだろうか?
K-POPに詳しく『韓流エンタメ 日本侵攻戦略』を執筆した小野田衛氏は、韓国政府が自国文化の育成と輸出に力を入れていることは事実だが、国策というほど大げさなものではないと答える。
―イメージ先行で語られる韓国エンタメ業界。その実態とは?
日本の国家予算のうち文化予算が占める割合は0.11%に対し、韓国の文科省に相当する文化体育観光部の予算は約1%。しかし韓国では、IT支援やスポーツ選手育成のシステムなど、国家規模のサポートが行なわれるのは当たり前のこと。
それらに比べると、エンタメ産業への支援は規模が小さいです。それに、官僚がエンタメを理解して正しく出資先を選んでいるかは、かなり疑わしい。あまり効果的にやっているようには見えませんね。
―めくじら立てるほど、国が洗練された自国文化輸出政策を行なっているわけではないと。一方で、韓国の芸能プロダクションは輸出には熱心だと聞きます。
それは韓国の市場規模に理由があります。韓国の人口は日本の3分の1ですが、音楽産業の市場規模は約30分の1。ほかの産業でも同じですが、韓国企業は自国の市場だけで十分な利益を挙げられない。海外進出が前提でないと発展できないようになっているのです。
K-POPも同じで、例えば少女時代の9人のメンバーのうちふたり、KARAではひとりが韓国系アメリカ人です。
これはグループ結成当初から海外進出を見越していたから。大手事務所は定期的に海外でオーディションを行なっています。その上で、最低でも3年、へたをしたら9年かけて練習させ、デビューに至ります。
―その練習がいかに過酷なものかも、KARAの分裂騒動のときに話題になりました。
一度、事務所に入ってしまったら携帯電話は没収され、朝から晩までレッスン漬けになります。
学校に通えないのも普通。だから、途中で事務所を辞めた場合、歌やダンス以外に何もできず、ひたすらほかの事務所を渡り歩きオーディションを受けていく子もいるくらい。
―では、そんなK-POPが日本市場へ向けて打ってくる次の一手はどのようなものでしょうか。
若い男性ファンの獲得でしょう。昨年、少女時代やKARAがブレイクしたとき、支持層は圧倒的に若い女性でした。かつてのSPEEDや浜崎あゆみのような、女のコのああなりたいという憧れの対象であり、アイドル好きの男性は取り込めていなかった。
しかし先月、日本デビューしたRAINBOWというグループのイベントでは観客の8割が男性。日本のアイドルファンの流入が目立っていた。
また、昨年5月に日本デビューした4Minuteも、中心メンバーのヒョナが露骨にセクシーで、やり方次第では男性の支持を得られると思います。今後、男性にも韓流アイドルは浸透していくでしょう。
―確かに彼女らは色っぽい。
う~ん、いくら美脚と言われても、少女時代でオナニーはしづらいでしょう(笑)。
しかし今挙げたふたつのグループは、K-POPなのにヌケるアイドルだと思います。日本では昔からアイドルは擬似恋愛の対象としての要素が強い。K-POPが女のコのためのものだと決めつけずにウオッチしていけば、男性も思わぬ形でハマるかもしれませんよ。
●小野田衛(おのだ まもる)
1974年生まれ。幼少期をソウルで過ごす。大学卒業後、出版社勤務を経て、現在は電子書籍配信会社「ブックシェルパ」取締役。根っからのアイドル好き
『韓流エンタメ 日本侵攻戦略』扶桑社新書 756円
韓流エンタメが、なぜ流行しているのかわからない、という向きは少なくないはず。そんな人へ、韓国アイドルのマーケティングや教育システム、グローバル戦略を詳述。国民性や韓国社会の現状を踏まえ、日本に進出する韓国芸能界の姿を解説する。