社説:被ばく管理 個人に任せきりにせず

毎日新聞 2013年11月22日 東京朝刊

 原発事故による避難住民の帰還に向けた対策を検討していた原子力規制委員会が提言をまとめた。柱のひとつとして注目されるのは、帰還後の被ばくの評価や低減策を個人線量に基づいて行うとしたことだ。

 これまで、政府は航空機モニタリングなどで測定する空間線量を基に、避難指示や除染などの対策を講じてきた。空間線量から推定される被ばく量に比べ、線量計で測る個人線量の方が一人一人の被ばく量をより正確に反映することを思うと、この方針自体は評価できる。

 ただ、線量計を住民に配るだけでは、安全の確保にも安心にもつながらない。大事なのは線量計の測定結果を一人一人にわかりやすく説明し、健康管理などにつなげることだ。

 1時間ごとの線量を測定できる線量計を使えば、自宅と職場、学校、通勤・通学路などでどのように被ばく線量が変わるかがわかる。これを基に、被ばくを減らすこともできるはずだが、それには、専門知識を持ち、きめ細かく相談に乗ってくれる人が必要だ。

 提言も相談員の必要性を指摘しているが、関係省庁や自治体は人材の育成や配置などの具体策を早急に考えなくてはならない。

 空間線量と個人線量の違いについても政府はもっと丁寧に説明すべきだ。規制委の提言には、空間線量から推定される被ばく量に比べ、個人線量の方が低い傾向があることは示されているが、なぜそうなるかの説明が足りない。同じ地域でも個人線量の方が低いことから、「事実上の基準緩和」との見方もある。複雑な内容でも伝える努力をしないと、混乱が生じ、信頼が得られなくなる。

 帰還するかしないかに関わらず、個人の選択を尊重することが提言に盛り込まれたことは評価したい。避難指示区域外の住民や自主避難している人々も含め、住民の立場に立った対策を講じてもらいたい。

 帰還のためには空間線量を基に推定される積算線量が年20ミリシーベルト以下となることが必須としたが、長期的に個人の追加被ばく線量年1ミリシーベルト以下をめざした低減策が必要であることも示された。年20ミリシーベルトでは高すぎるとの見方もあり、地域の実情にあわせ帰還の条件を自治体が独自に設定することがあってもいいだろう。

 住民の不安は放射線だけではない。雇用や教育、医療なども含め、一カ所で総合的に対応してくれる場所を設けることも大事だ。

 規制委は提言をまとめるにあたり地元自治体や民間団体などからヒアリングを行ったが、十分とはいえない。さまざまな意見を持つ住民から幅広く聞き取りを重ね、現実的な対策に生かしてほしい。

最新写真特集