【岩佐友、佐藤英彬】県警は21日、暴力団員の身分を隠して生活保護費を不正に受給していたとして、宇都宮市の無職の男(63)を詐欺容疑で逮捕した。受給当時、男は住吉会系暴力団幹部だった。「間違いありません」と容疑を認めているという。

 宇都宮東署と県警組織犯罪対策1課によると、男は昨年3月から今年10月までの約1年半、暴力団幹部であることを隠し、市から月に11万~12万円の生活保護費計約213万円をだまし取った疑いがある。

 暴力団組員への生活保護費給付は、2006年3月の厚生労働省の通知により原則禁止されている。男は約20年前から病気を理由に、宇都宮市以外に以前住んでいた上三川町でも受給していたという。申請当時は暴力団員ではなかったが、昨年3月、かつて所属していた暴力団組織に復帰していた。

 今年10月、署員が男を宇都宮市内で職務質問し、身元の確認をしたところ発覚。県警からの通報で市も把握したという。

 県警は、暴力団員の不正受給の摘発は県内初としており、今後は組織の資金源になっていないか調べる。

 県医事厚生課によると、9月現在、県内の生活保護の受給者は2万1327人。11年度の保護費(支給総額)約318億6千万円のうち、確認された不正受給は511件、約2億3800万円で、総額の約0・7%になる。働いて得た収入や保険金の受け取りを隠す事例が多いという。

 不正受給の対応に自治体は苦慮している。宇都宮市では生活保護の申請を受ける際、就労や保険の有無などの申告内容を約2週間にわたり調査。暴力団員には生活保護費の給付を原則として行わないことも口頭や文書で伝えている。申請時に暴力団員と疑われる場合には、県警に照会して身元を確認しているという。

 支給開始後は1カ月~半年に1回、ケースワーカーが受給者の自宅を訪問。生活指導を行う中で、収入や年金を隠すなどの不正が行われていないかを調べる。担当者は「収入は課税調査などで把握することができるが、暴力団員かどうかを判断するのは難しい。今後、県警との連携を考えていきたい」としている。

 折しも今国会では、不正受給の罰則強化を盛り込んだ生活保護法改正案が審議されている。

 県内の生活困窮者を支援する「反貧困ネットワーク栃木」の原田芳子事務局長は「ごく一部の受給者による不正で、受給者全体のイメージが悪くなってしまうのではないか」と懸念する。「生活保護は正当な制度。生活に苦しみ、必要とする人が利用しやすいものであってほしい」と話す。(岩佐友、佐藤英彬)