2013年11月22日12時58分
【久保智祥】真宗大谷派の本山・東本願寺(下京区)で21日に始まった報恩講で、境内に東日本大震災の被災地の現状を伝える「語りべ小屋」が設けられた。津波で自身も九死に一生を得た住職が、自らの体験や現在の被災地の様子を語った。
阿弥陀堂前に設けられたテントで、30人ほどの参拝者を前に岩手県陸前高田市の本稱寺(ほんしょうじ)住職の佐々木隆道さん(50)が話し始めた。
3・11のあの日。近所の人と立ち話をしていると通りがかった消防車が叫んだ。「逃げろ。津波がそこまで来ている」
寺の庫裏(住居)の2階へあがると、黒い濁流が押し寄せた。あっという間に水は天井近くまで上がり、流された。水中で「ああこうやって亡くなっていくのかな」と思った。
なんとか水面から顔を出し、浮いていた畳につかまって山手へ流された。
高台の墓から街を見ると何もなかった。14日になって500メートル離れた場所で本堂の屋根が見つかった。17日に流された庫裏2階から母親と妹の遺体が見つかり、安置所で妻の遺体と対面した。行方不明だった父は6月28日にすでに火葬されていることが判明した。
8月、高台にプレハブで仮設の本堂を再建できた。「やっとお参りする場所ができた」と喜ぶ門徒の姿に「私はこのために生かされたんだ」と感じた。
今、がれきは片付いたけれど何もない状態のままの陸前高田。「生きている間に復興は見られないね」と言うお年寄りの門徒が多い。先が見えない中、忘れられていくのではという不安を多くの人が抱えていると感じる。「現地に足を運び、仮設に立ち寄ってもらって、ぜひ普通に話をしてみてください。『忘れていない』という声が、私たちの生きる力につながります」
語りべ小屋は28日までの午前9時~午後4時。宮城、福島の寺の住職らが交代で常駐する。問い合わせは東本願寺(075・371・9181)。