『人民の星』 5838号1面 2013年11月16日付
「秘密法」は戦争への道 社会の真実隠し人民抑圧
安倍政府が日本版NSC(国家安全保障会議)設置法案とともに重視している特定秘密保護法案が、七日に衆議院本会議で審議入りした。特定秘密保護法案は、アメリカの戦争に動員するための日本版NSCの設置にともなって、アメリカから提供された情報、あるいは日米協議で得た安保、外交などの情報を人民から秘匿するための法案である。政府が「防衛」「外交」などの四分野を勝手に「特定秘密」として指定し、それを漏えいしたり、手にいれようとするものには最高一〇年の刑に科すとしている。「秘密保護」を口実に、平時から人民を監視・弾圧する体制をつくろうとするものである。法曹界をはじめ広範な人人が危惧し、「秘密保護の名のもとに人民の知る権利をうばい、戦前のように戦争体制をつくるもの」と反対の世論が高まっている。
戦前・戦後の歴史が証明
ブルジョア報道機関の各種の世論調査でも、特定秘密保護法案反対が半数をこえている。たとえば「共同通信」が先月二六、二七日に実施した全国電話世論調査でも、特定秘密保護法案反対は五〇・六%と半数をこえ、賛成は三五・九%だった。また、今国会にこだわらず、慎重審議をもとめる意見は八二・七%に達し、今国会で成立させるべきは一二・九%にすぎない。
首相・安倍は、七日の衆議院本会議での趣旨説明で「情報漏えいに関する脅威が高まっている状況や、外国との情報共有は情報が各国で保全されることを前提におこなわれていることにかんがみると、秘密保全に関する法制の整備は喫緊の課題だ」とのべたが、だれのための「秘密保護」かということである。
戦争体験者のなかでは戦時中の体験と照らしあわせて「秘密保護法を制定して、戦前のように戦争へもっていこうとしているのでは」と危惧する声がだされている。
戦争体験者が猛然と反発 戦前と同じ方向だ
当時、大陸への出入り口にあたる関門地域は戦略的要衝であり、軍事施設が張りめぐらされ、警戒・監視もきびしかった。
八〇代のある婦人は「関釜連絡船のところには“特高”がたっていた。海岸はとくに監視していたようだ。家の上の方に砲台とか軍の施設があった。海岸に薪になる木をひろいにいったり、おかずにする貝を掘りにいったりしていると、上から見ていた憲兵がすぐやってきた。海岸に人があらわれるとどういう人間か調べにくるのだ。知らない人だときびしく問いつめられた」と当時の状況を語っている。
戦争中は香川県にいて女学生だったという八〇代の婦人は「毎日、縫製工場へいって軍服のボタンつけが任務だった。工場には配属将校がおり、愚痴でもいおうなら女学生でも容赦なく制裁をうけた。だから工場でどんな作業をしているか、どれだけの分量の仕事をしているかということは、家族にも口外してはならなかった」と語るとともに、「四国の田舎の方でも“特高”というのはこわいものだというのが、ゆきわたっていた。大阪や東京都といった大都会だと、もっと言論に注意しないとすぐにひっぱられたのではないか。国民が自由にものがいえなくなるのは、戦争への第一歩だと思う。どれを秘密にするのかしないのかとった問題ではない」と語っている。
陸軍士官だった男性は、徴兵検査で甲種合格となると、軍の諜報機関にいかされ、一年ほど教育をうけて南方におくられ、内情の偵察と宣撫工作の任務をやらされたと語り、その経験から「いま国会でさわがれている秘密保護法はようするに戦争をするための法律だ。“積極的平和主義”のためだとかいってるが、ことばのごまかしだ。戦前も“東亜の平和のため”だの“八紘一宇”だのといって戦争をした。
それにはまず国民を監視し、ものをいわせないようにしなければならなかった。“アカは非国民で、天皇にたてつく逆賊だ”という思想をうえつけて、支配を強める必要があった。平和国家に徹するなら保護しなければならない秘密などない。アメリカといっしょになって戦争をやろうというのだから、朝鮮や中国に知られてはまずい秘密ができる。ほんとうの平和には、戦前のような“特高”や憲兵隊、諜報機関など必要ない」とのべている。
明治いらい、天皇制政府は侵略戦争をくりかえしてきた。そのため軍事機密の漏えいについては、軍事機密保護法を制定してきびしく統制し、厳罰を科してきた。それも当初は、軍隊を構成する軍人・軍属が対象であったが、一九三七年の盧溝橋事件による中国への全面侵略戦争にむかうと、軍事機密保護法もスパイ防止策として改定され、一般人民も対象にされた。国民へ軍事秘密や軍事情報が漏れるのをふせいで、政府・軍がなんの障害もなく戦争政策をすすめるとともに、国民の国防意識を高め、戦時高揚をはかって戦争への協力態勢をつくるためであった。
日本人民は戦争へひきこんでいったこの道をけっしてわすれることはない。
戦後は米占領軍が統制 原爆被害を封じる
しかも、それは戦後は、もっと拡大したかたちでアメリカがおこなってきた。
戦後、日本に乗りこんで占領支配したアメリカ帝国主義は「言論の自由の確立」といいながら、ただちにプレスコード(日本新聞遵則)をだして、新聞や雑誌などの出版物を事前検閲し、言論の統制をおこなった。ねらいは占領軍・アメリカにたいする批判をふうじることであった。アメリカは、とりわけ原爆被害についてはいっさい報道させなかった。日本のマスコミや科学者だけでなく被爆者が体験を公表することも禁止したし、外国の報道機関が日本にきて原爆投下された広島や長崎について発表することも統制した。
七二年には、当時の毎日新聞の記者が「沖縄返還」密約にからむ取材で機密電文を外務省事務官に持ちださせたとして、国家公務員法違反容疑で逮捕され有罪にさせられた事件がおきている。
一一年三月一一日の東日本大震災にともなう福島第一原発事故では、原子炉建屋が爆発して放射性物質が大量に放出され四散した。政府はどの方向に四散したか情報をにぎっていたが、アメリカにはそのデータを提供していたが、人民には「不安をあおってはならない」とまったく知らせなかった。そのため多くの人人が放射能濃度の高い地域に避難するはめになった。
人民は、米日政府の「秘密保護」によって大きな犠牲と抑圧をうけてきた。首相・安倍は「特定秘密保護法」は国家の安全のためであるかのようによそおっているが、実際には、国益のためでも国民のためでもない。米日支配階級が人民を抑圧・支配するためである。そしてあらたな戦争のためである。
安倍は、「特定秘密」は「恣意的な指定がおこなわれないよう重層的な仕組みを設けており、適正な運用が確保される」とか、国民の「知る権利」の侵害の懸念については「憲法の保護する“表現の自由”と結びついたものとして十分尊重されるべき。秘密を保護する必要性と政府が国民に説明する責務とのバランスを考慮して適用していく」などといっているだけで、なんの保証もない。いったん法制化されれば、拡大解釈され、いっそう人民を抑圧するものになるのは歴史がしめすところである。
安倍政府の特定秘密保護法案は、日本版NSC(国家安全保障会議)設置法案と一体のものである。日本版NSCは、アメリカの下請け機関で、戦争を決定する機関である。アメリカが日本を戦争動員するために、アメリカの指令をただちに日本政府につたえ実行させるために日本版NSCをつくらせようとしているのである。そのさい、アメリカの提供する情報の保護体制を要求しており、特定秘密法護法案はそのためにつくられ、さらに拡大することが意図されている。
特定秘密保護法案は、日本版NSC設置法案ともに、日本と日本人民をアメリカの原水爆戦争にかりだすためのものであり、断じてゆるしてはならない。