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【特定秘密保護法案】

知る権利 危ない 秘密保護法案 ここが問題

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 国の機密を漏らした公務員らへの罰則を強化する「特定秘密保護法案」が、開会中の国会で審議されている。防衛や外交など4分野、計約40万件とされる「特定秘密」は閣僚ら行政機関のトップが指定し、第三者による妥当性のチェックは保証されていない。最長60年の指定期間には例外規定が設けられ、機密が永久に開示されない恐れもある。法案が可決された場合、国民の「知る権利」にはどんな影響があるのか。米国など主要国の制度とは何が異なるのか。

【基準も範囲も曖昧】

 法案の可決、成立を目指す政府は、機密保護を強化する理由を「国際情勢が複雑になり、国と国民の安全確保にかかわる情報の重要性が増している」と説明する。ただ、特定秘密の指定基準や範囲、解除後の取り扱いの曖昧さなど、法案には多くの問題が潜んでいる。

■恣意性 

 法案は(1)防衛(2)外交(3)スパイ活動の防止(4)テロ活動の防止−の四分野のうち、政府が「国の安全保障に著しい支障がある」と判断した情報を特定秘密に指定するとしている。

 指定権限は防衛相ら閣僚や警察庁長官などに与えられるが、妥当性を監視する「第三者機関」の設置が現行法案には盛り込まれていない。自民、公明の与党とみんなの党は、首相が「第三者機関的」な役割を担う修正案で合意したが、首相は政府そのもので、第三者にはなり得ない。

 与党と日本維新の会の修正協議では、法案の付則に第三者機関の「設置検討」を盛り込む案で一致。ただ、独立した点検機能を持つ組織が設けられる保証はなく、政府が国民に知られたくない情報を恣意(しい)的に指定する恐れは消えていない。

■永久封印 

 法案は特定秘密の指定期間を五年とし、さらに五年単位で延長できる内容。三十年を超える場合も内閣の承認があれば更新できるとしていたが、修正協議で与党側は「原則六十年以内」とする案を提示した。

 指定期間の上限が当初案より延びたほか、「人的な情報源に関わる情報」「暗号」「武器関連情報」−など七項目を延長の例外として規定。これらの情報は六十年を超えても指定の継続が認められることになり、国民の目に触れないまま永久に封印される懸念がある。

 期間だけでなく、指定範囲の拡大も懸念される。法案には秘密指定の範囲を含め、「その他」との記述が三十三カ所に出てくる。指定対象が四分野に限定されているとはいえず、閣僚らの意向で範囲がいくらでも広がる恐れがある。

■プライバシー

 閣僚らが指定した特定秘密は、公務員ならば誰でも取り扱えるわけではない。「適性評価」として犯歴や病歴、飲酒の節度などを調べ、情報を漏らす心配がないと評価された人だけが管理できる。

 機密漏えいの防衛策だが、適性評価は公務員だけでなく、防衛省の事業の受注業者など民間も対象だ。借金の有無を含む経済状況や家族の国籍なども調べられるため、プライバシーを侵害するとの指摘もある。

■厳罰化 

 公務員でも民間でも特定秘密を漏らした人には、最高で懲役十年および一千万円以下の罰金が科せられる。現行の国家公務員法の守秘義務違反は一年以下、自衛隊法違反は五年以下の懲役。厳罰化により、公務員が萎縮して本来は隠す必要のない情報の提供まで拒み、国民の知る権利を阻害する懸念もある。

 新聞記者や市民団体のメンバー、フリーライターなどが情報を入手しても、漏えいをそそのかしたとみなされた場合は最高で懲役五年が適用される。

【これが違法になるかも!?】

<事例監修>

本秀紀教授 名古屋大大学院法学研究科(憲法学)

浜島将周弁護士 愛知県弁護士会所属

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◆事例1 息子に話しただけで…

 下町でねじ工場を営むAさん。大手機械メーカーから特注部品の製造を受注した。海上自衛隊が導入する新しい無線機の本体に使うねじ。従業員二十人を抱えるAさんは「これで業績が上がる」と喜んだ。

 夕飯の食卓。Aさんは飛行機のプラモデルが大好きな息子に「お父さん、いま自衛隊の仕事をしているんだぞ」と胸を張った。新型無線機の開発が特定秘密だと知っていたが、取引業者に話したわけではない。「へーっ、かっこいい!」と驚く息子の顔がうれしかった。

 翌日。息子は学校で「うちの父ちゃん、すごいんだぜ」と自慢したが、同級生の父親に警察官がいた。Aさんの工場は家宅捜索され、捜査幹部は「ねじの形まで漏らしていたら逮捕でしたよ」と忠告した。Aさん一家はそれ以降、夕飯の会話が弾まない。

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◆事例2 原発警備を尋ねたら…

 東京電力福島第一原発事故後、脱原発サークルに入った主婦のBさん。近くのX電力Y原発で同じ事故が起こったら…。BさんのサークルはY原発の安全性を調べようと経済産業省に情報公開請求したが、決定は「非開示」だった。

 そこでBさんは、経産省OBの叔父Cさんを訪ねた。Cさんは退職するまでY原発の警備計画を担当。「いくら親類でも特定秘密は教えられないよ」と断られたが、Bさんは「指定期間の五年は過ぎているでしょ」。Cさんは「そうか」と思い、安全対策計画書を見せた。

 ところが、指定はCさんが知らない間に延長されていた。後日、Bさんがサークルのホームページに計画書の概要を載せたところ、警察が来て「警備態勢は特定秘密です」。Cさんをそそのかして情報を入手したとみなされ、事情聴取された。

【海外の制度】

 海外でも公務員らによる機密漏えいに厳しい罰則を定めている国は多い。ただ、日本の特定秘密保護法案とは異なり、第三者機関が政府の機密管理を監視している。「原則六十年以内」とする指定期間も、最長二十五年で自動解除される米国などに比べて著しく長く、世界の類似法の中でも例外的な内容といえる。

 米国は一九一七年にスパイ防止法を制定。機密の指定範囲と期間は大統領令で定め、オバマ大統領は軍事計画や政府の外交活動、大量破壊兵器の開発など八分野を指定した。期間は十年未満から最長で二十五年。大量破壊兵器関連など例外を除き、期限後は自動的に指定が解除される。

 大統領令に基づいて機密に指定された情報でも、国立公文書館の部局として設置されている「情報保全監察局」に解除請求権が与えられている。存在そのものが機密指定されている情報を除き、行政機関に機密指定の解除を請求できる。第三者によるチェック機関を設けることで、政権による機密指定の乱用を防ぐ狙いだ。

 一方、欧州では英国が公務秘密法で防衛やスパイ防止など政府の秘密情報の漏えいを禁止。二〇一〇年の制度見直しで、秘密の指定期間が原則三十年から二十年に短縮された。防衛に関する情報の取り扱いは首相が任命する「議会情報安全保障委員会」がチェックしていたが、今年に入り独立性と権限を強化。任命権限が首相から議会に移り、対象機関に情報開示を強制できるようになった。

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 ドイツは国の安全が脅かされる秘密などを除き、原則三十年で開示。政府への開示請求権を持つ議会組織が設置されている。社会問題に対するメディアの監視機能を保障するため、昨年には「報道の自由強化法」も成立した。

 フランスでは国防や外交の秘密が指定から五十年後に公開されるが、秘密情報にアクセス可能な独立行政機関があり、政府に指定解除や公開を助言できる。

 全国市民オンブズマン連絡会議の新海聡事務局長は「米国などの指定範囲は具体的に絞られているが、日本の法案はあまりにも広範。諸外国のように指定の乱用を是正する第三者機関の設置も保証されておらず、問題が多い」と指摘している。

 

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