特定秘密保護法案は、表現の自由という基本的人権にかかわる法案だ。たった2週間あまりの審議ですませるなど、とうてい認められない。自民、公明両党と修正案で合意した日本維新の[記事全文]
危険な現場で働く人にはヘルメットや命綱の装着が義務づけられている。長時間労働の歯止めも同じではないか。月80時間の残業が「過労死」の危険ラインとさ[記事全文]
特定秘密保護法案は、表現の自由という基本的人権にかかわる法案だ。たった2週間あまりの審議ですませるなど、とうてい認められない。
自民、公明両党と修正案で合意した日本維新の会も含め、野党側は、与党が求める26日の衆院通過に反対している。当然である。
仮に、採決を1日や2日延ばしたところですむ話ではない。さらに時間をかけた徹底審議が必要だ。
与党と維新、みんなの党の4党修正案には、あまりに不可解な点が多い。
特定秘密の指定期間について、与党は「原則30年」といっていたのが、いつの間にか実質的に60年に延びてしまった。しかも、60年を超えられる幅広い例外が認められている。
また、法施行から5年の間に秘密指定をしなかった役所には指定権限をなくすという。秘密指定ができる役所を絞るためだというが、これでは逆に多くの役所に秘密づくりを奨励するようなものではないか。
こんな矛盾や疑問を4党はどう説明し、政府はどう運用しようとしているのか。一つひとつ明らかにしていくだけでも、相当の時間がかかる。
加えて、民主党が独自の対案を5本も出しているのだ。時間をかけるのは当たり前だ。
審議入りから約10日後の民主の対案提出に、与党は「遅すぎる」と批判する。だが、審議にたえる法案をつくるには時間がかかる。この批判こそ、与党の性急さをかえって浮き彫りにしているのではないか。
与党が各党と修正協議をしている間、特別委員会での審議は、たるみ切っていた。
与党側には空席が目立ち、野党の質問に森雅子担当相は「修正協議の内容にかかわるので控える」と繰り返す。議場での質疑より密室での取引のほうが大事だと言わんばかりである。
こんな茶番が続く一方、国会の外ではこの法案に反対する声が強まっている。
東京・日比谷でおととい開かれた集会には、主催者発表で約1万人が集まり、法案への反対を訴えた。同様の集会は、大阪、名古屋でもあった。
この法案が単に取材をめぐる政府と報道機関の関係にとどまらず、市民社会にも大きく影響する問題をはらんでいるとの認識が広まっている表れだ。
衆院特別委は来週、福島市で公聴会を予定している。これだけに終わらせず、中央公聴会も開いて一人でも多くの国民の声を聴くべきだ。
危険な現場で働く人にはヘルメットや命綱の装着が義務づけられている。
長時間労働の歯止めも同じではないか。
月80時間の残業が「過労死」の危険ラインとされる。昨年度の労災認定の状況をみると、脳や心臓の病気で亡くなった123人のうち9割、うつ病など精神疾患による自殺や自殺未遂の93人のうち6割が、このライン以上、働いていた。
こうした悲劇を防ごうと、「基本法」を制定する動きが国会で大詰めを迎えている。
今年6月に発足した超党派の議員連盟には120人余りが参加する。遺族らが集めた約52万の署名を追い風に、ぜひ今国会で成立させて欲しい。
この法案は「過労死はあってはならない」という理念のもと、国や自治体、使用者の責任の明確化を求める。
強制力はないが、より正確な実態把握などをテコに、労働基準法の労働時間規制に「魂を入れ直す」出発点となろう。
言うまでもなく、労働基準法では1日8時間、週40時間の労働が原則だ。
ところが、30歳代の男性は2割近くが週に20時間以上、残業する。危険ラインである。
こうなるのは、労使で協定を結べば、ほぼ無制限の長時間労働が可能になるからだ。割り増しの残業代の支払いが義務づけられることが、歯止めになっているに過ぎない。
一方、安倍政権では、規制改革や競争力強化のため、この歯止めを緩め、時間に関係なく賃金を払う裁量労働制などを広げる検討が進む。
であればなおさら、残業代の問題とは別に、命と健康を守るため、労働時間に物理的な上限を設けるべきだろう。
欧州連合(EU)では、勤務の終了から翌日の勤務開始まで最低連続11時間の休息を義務づけている。参考になる。
日本での大きな課題は、働く側にも「片付けるべき仕事があるのだから、労働時間に規制をかけて欲しくない」という意識が強いことである。
仕事の目標が実労働時間とは無関係に決まることが多く、その達成度で評価されるからだ。責任感が強く、能力のある人ほど仕事が集中しやすい。
労働時間を含めた仕事の量を労使が調整する。そんな現場の工夫が必要だ。
労働者をひたすら長時間働かせるブラック企業は、社会を沈没させる。それを許さない仕組みを考えたい。
きょうは、勤労感謝の日。