チベットの大虐殺容疑で江沢民氏らに逮捕状=スペイン裁判所

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  • MATT MOFFETT

 【マドリード】スペインの全国管区裁判所は、チベットでのジェノサイド(大虐殺)の捜査の一環として、江沢民元国家主席など5人の元中国政府要人に対する逮捕状を発行した。

AFP/Getty Images

江沢民氏(12年11月)

 スペインでは、ジェノサイドなど人権侵害については同国の裁判所は普遍的管轄権を持つとの原則がある。それに基づいて、スペインの親チベット人権団体が中国はチベットでジェノサイドを引き起こしたとして、江沢民氏ら5人を刑事告発した。8年間にわたる捜査を受けて、裁判所は19日、5人に尋問のため出頭を求めるだけの十分な証拠があると判断し、逮捕状を出した。

  裁判所が逮捕状を出したことで、5人がスペインや同国と犯罪人引き渡し条約を締結している国を訪れた場合、逮捕される恐れがある。法律専門家らは、逮捕状が執行される可能性は極めて小さいとしながらも、訴訟はチベットの人権問題に世間の関心を向けさせる象徴的な意味合いがあると話す。

 逮捕状が出されたのは、江沢民氏のほか、李鵬元首相、喬石元全国人民代表大会常務委員長ら。裁判所は「捜査対象の事実が起きた時、これら5人の政治的・軍事的な責務を考えると、いずれも人権侵害に加担したとみなすべき根拠がある」と、発行の理由を説明した。

 中国外務省の洪磊・副報道局長は20日の定例記者会見で、「チベットの分離・独立主義者は誹謗中傷やデマを広げ中国政府を繰り返し攻撃し、中国と関係諸国との関係を悪化させている」と非難。「逮捕状の発行が事実ならば、中国はスペインの関係機関に強い不満と断固反対の意を表明する」と述べた。

 告発者の一人で、スペインのNGOである「チベット支援委員会」のアラン・カントス委員長は、裁判所の決定について「真実の究明という点で意味のあるものだ」と歓迎した。

 スペインの裁判所は、国際人権問題にかかわる訴訟に積極的に取り組む傾向があり、人権団体からの評価は高いが、一方で一部外国政府の反発を招いている。1998年にはスペインの予備判事の要請で病気治療のためロンドンに滞在中のチリの独裁者だったピノチェト元大統領が逮捕されたが、その後英政府は同氏を釈放した。

 外交上の問題が引き起こされることに業を煮やしたスペイン政府は数年前に、海外の人権侵害をめぐる訴訟についてはスペインが関係していることが明確でなければならないとの条件を付けた。今回のチベットの人権侵害をめぐる訴訟は、告発者のうちの一人がスペイン国籍を持っていることから、この条件に合致する。

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