阿部
「まずこちらをご覧ください。
昨年度(2012年度)、長時間労働や仕事上の強いストレスが原因で、死亡したり自殺を図ったり、また病気になって労災と認定された人は813人に上りました。
統計を取り始めた昭和62年度以降で、最も多くなりました。」
鈴木
「こうした中、過労死や過労自殺を防ぐための法律を制定しようという動きが本格化しています。
なぜ過労死はなくならないのか。
取材しました。」
阿部
「まずこちらをご覧ください。
昨年度(2012年度)、長時間労働や仕事上の強いストレスが原因で、死亡したり自殺を図ったり、また病気になって労災と認定された人は813人に上りました。
統計を取り始めた昭和62年度以降で、最も多くなりました。」
鈴木
「こうした中、過労死や過労自殺を防ぐための法律を制定しようという動きが本格化しています。
なぜ過労死はなくならないのか。
取材しました。」
京都市に住む、吹上了(ふきあげ・さとる)さんです。
6年前に、過労死で長男を亡くしました。
長男、元康(もとやす)さん。
大学を卒業後、飲食チェーンに正社員として入社。
そのわずか4か月後に、急性心不全で亡くなりました。
24歳でした。
小学生のころから、食堂を開くことが夢だった元康さん。
希望の仕事に就けたと喜んでいたといいます。
研修中につづっていたノートには「いつか自分の店をもちたい」と記していました。
吹上了さん
「最初の研修から帰ってきた時は、もうすがすがしいような感じで、非常にいい顔をしていた。
これからやるんだという気持ちがあった。」
研修を終えて店舗に出ると、仕事に追われるようになりました。
食器洗いや仕入れた商品の仕分けなど、1日10数時間の労働。
帰宅は深夜0時を過ぎることが続きました。
会社に残されていた元康さんの勤務データです。
入社した翌月、5月の残業は98時間。
6月は84時間。
元康さんは過重労働で死亡したとして、労災と認定されました。
残業時間が「過労死ライン」と呼ばれる月平均80時間を超えていたためです。
元康さんの職場では、月に100時間まで残業ができることになっていました。
労使の間で協定が結ばれていたからです。
さらに給料の「最低支給額」には、月80時間の残業代があらかじめ組み込まれていました。
元 同僚
「80時間残業しないと、そこまで給料が出ないということだった。
80時間残業するのが当たり前だという風潮があった。」
協定の制度は、長時間の残業を防ぐために設けられています。
企業と従業員の代表の間で合意をし、労働基準監督署に届け出て初めて、月に45時間まで残業が可能になります。
ところが、例外があります。
繁忙期や突発的な事情がある場合は、残業時間を延長できるという特別条項です。
延長時間に上限はなく、労使の合意があれば何時間でも残業できることになっているのです。
吹上さんの訴えに対し、会社は
「外食産業では忙しい時期を特定することは難しく、天気などの影響で予想外の事態が生まれる。100時間の特別条項を設けるのは珍しいことではない」
と説明しました。
吹上了さん
「なんと言ったらいいんでしょうね。
ものすごい違和感があるというか、ものすごく憤りを感じる。
こういうことがあるから、過労死が減らないんじゃないかと思う。」
さらに、過労死ラインの2倍を超える残業を可能とする協定が結ばれていたケースも
あります。
5年前に過労自殺で亡くなった男性は、石油プラントの建設や点検を行う会社で
働いていました。
男性の職場では、月200時間の残業を可能とする協定が結ばれていました。
残業は、実際に200時間になったこともありました。
男性はうつの症状を訴えるようになり、その後、自殺。
入社から1年半、24歳でした。
男性の母親
「国で過労死ラインが月80時間だと言っているにもかかわらず、200時間まで
いいと。
(国が)こういうのを受け付けているのはおかしいんじゃないか。」
NHKは、全国の労働基準監督署が過労死や過労自殺が起きた事業所に対して行っている調査の結果について、情報公開請求しました。
昨年度、調査が行われた399か所のうち、公開された資料から協定の内容がわかったのは3分の1。
そのうち48か所の協定が、過労死ラインを超えていました。
中には、250時間の残業を認めていた職場もありました。
どれだけ長い残業でも協定がある限り、労働基準監督署が強制的に指導することはできないと言います。
三田労働基準監督署 中尾剛次長
「協定自体は、労使が協議して決定して締結したものだと。
労使が決めたことについて指導するには、限界が当然ある。」
阿部
「取材にあたった矢島ディレクターです。
協定によって長時間労働を防ぐというのは難しいわけですね。」
矢島ディレクター
「はい、協定の範囲内での長時間労働は労使が納得した上で行っているものとされ、認められています。
ただ、過労死ラインを超えるような残業は例外のはずで、常態化してしまうようなことは避けなくてはいけないと思います。」
鈴木
「過労死をなくすためには抜本的な対策というのが必要となってきますよね。」
矢島ディレクター
「まずは過労死防止の意識を高めようと、新しい法律をつくる動きがあります。
与野党の国会議員でつくる議員連盟が、今の国会に法案の提出を目指していて、
経営者の理解を深めるような施策を進めることなどが盛り込まれる見込みです。
さらに、労働時間の規制から休憩時間の確保に発想を転換することが必要だと指摘する専門家もいます。」
大阪市立大学 西谷敏名誉教授
「休息時間と呼んでいる、インターバル。
ある日の労働時間が終わったら、次の日の労働時間が始まるまでの間隔を最低限11時間おかなければならない、これがひとつ。
日本ほど、異常に働いて過労死がこれほど出ている国はない。」
矢島ディレクター
「過労などで労災認定される人が過去最多となっている今、思い切った対策が求められています。」