第8回 消費と浪費と恋と愛【哲学者とAV監督の対話 ⑤】

恋愛とセックスについてAV監督が哲学する、連載『キモい男、ウザい女。』の特別篇。二村さんの著書『すべてはモテるためである』(イースト・プレス/文庫ぎんが堂)の発売に際して行われた、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)の著者である國分功一郎さんとの対談もいよいよ最終回。今回のテーマは聖なる夜に、ぜひ読んでもらいたい「恋と愛」、そして「消費と浪費」についてです。

「消費」と「浪費」の違いについて、考えてみたことはありますか?

國分 二村さんが書かれている「ナルシシズムに陥らずに【自己肯定】を目指すことが、幸せに生きる方法だ」というのは、まったく、その通りだと思います。でも【自分を肯定する】って、ほんとうに難しいことですよね。心にあいた穴が《その人の悪いところ、あるいは弱点》であると同時に《いいところ、あるいは魅力》でもあることは、なかなか自覚できない。

二村 自分の弱点を理解しながら、こだわりながら、それを善用して生きていくためには、時間も経験も《学び》も必要だし、なによりも自分自身と向かいあわないといけない。この対談の第一回で『ジョジョ』の話をしましたが、言ってみれば【自己肯定】って「自分のスタンドを使いこなせるようになる」ってことですから(笑)。

國分 僕は《自分の判断の基準》が、ずっと「ふらふらしてる」と感じていました。生き方というものを教わっていないからです。それは僕の弱点なんだけど、でも逆にそれが僕の《馬力》になって、じゃあ「方法」ってどういうことなんだろう、「正しい/正しくない」の基準はどうやって決めることができるんだろうって猛烈に考えたりしたんですよね。それで「哲学を仕事にしよう」と思えた。だから僕は、ある意味、恵まれていたんだと思うんです。

二村 國分さんはご著書『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)のなかで【浪費と消費】という話をなさっています。対談もそろそろ終わりに近づいたので、この國分さんのお考えと、僕の言う【恋愛における自己肯定】の話を、結びつけてみたいんですが。
普通だと《浪費》は悪いこと、《消費》は良いことだとまでは言わなくても「人間が生きていく上で、せざるをえないこと」だと認識されてると思うんですが、國分さんの倫理学では逆なんですよね。

國分 ボードリヤールという社会学者・哲学者が「浪費と消費」についておもしろいことを言いました。彼は《浪費》を「必要を超えて《もの》を受け取ること、吸収すること」と定義している。たとえば自分が生きていくためには必要ないかもしれない豪華な食事を食べたり、高価な洋服を着る。結果、浪費は人に満足をもたらします。ものを受け取ること、吸収することには限界があるからです。

二村 胃袋の限界を超えて食べ続けることはできないし、一度にたくさんの服を着ることはできない。だから浪費は「どこかでストップする」。むしろ一般の「むだづかい」というイメージと逆ですね。

國分 でも、一方の《消費》には「限界がない」。なぜなら現代において消費の対象は《もの》ではないんですよ。人は消費をするときに、物に付随する意味や、情報を消費している。ボードリヤールは、消費とは「観念的な行為」であるとも言っています。ちょっと難しく言うと、消費されるためには、物は記号にならなければならないんです。

二村 《記号》という言葉が出てくると、話を僕の専門の《セックス》とも結びつけたくなるんですけど。人は記号的なもの(巨乳とか女子高生とか)に発情する場合と、信号(「あなたが好き」「あなたとセックスしたい」というシグナル)に発情する場合とがある。前者の方が《男性的な欲望》だとされていますが、女性だって記号(メガネ男子とか)に興奮する場合もあります。そして、たしかに「記号を消費すること」には量的限界がないな……。

ケイクス

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