59分に投稿しようとしてドジってしまった……
これは恥ずかしい
第百八十三章 男の戦い
ポーカーとは、配られた五枚のカードの組み合わせで役(同じ数字のカードが三枚あればスリーカード、カードのマークが全て同じならフラッシュ、など)を作り、そのレアさを競うゲームだ。
もともとはほかのプレイヤーと駆け引きをする心理戦の要素を強く持つゲームのはずなのだが、こういう一人用コンピューターゲームのカジノではルールが簡略化され、単純に強い役をそろえるだけのゲームになっていることが多い。
それは『猫耳猫』においても例外ではなく、参加者はまず賭け金を払い、うまく役が成立させると、役の強さに応じた倍率のお金が払いもどしされる形式になっている。
細かいルールを言うと、賭けるのはカジノ用のコインやメダルではなく、単純にお金で、賭け金には上限はなし。
カード交換は一回で、ジョーカーはあり。
ジョーカーは山に二枚入っていて、どんなカードの代わりにもなる。
具体的な役の倍率は以下の通りである。
2ペア ×1
3カード ×2
フラッシュ ×4
ストレート ×5
フルハウス ×10
4カード ×20
ストレートフラッシュ ×50
5カード ×100
ロイヤルストレートフラッシュ ×500
オールキャット ×1000
まず、フラッシュとストレートの倍率が逆なのはおいておくとしても、ゲームカジノの中でも全体的に倍率は高めだ。
特に最高額、オールキャットの倍率1000倍はかなりのインパクトだ。
何しろ賭け金が1Eでも1000E、1万E賭ければ賞金額は1000万Eになる訳だから、これは凄い。
メダルをもらうには1000万E獲得が条件なので、それだけで条件をクリアしてしまうことになる。
ちなみにオールキャットというのはこのゲーム独自の役だが、要するに猫の絵柄が描かれたハートの11、12、13、そしてジョーカー二枚をそろえればいいらしい。
ジョーカーがあれば難易度が下がるロイヤルストレートフラッシュと比べるとやはり難度は高いと言わざるを得ないだろう。
さらにこの賞金を高くする方法もある。
このカジノ、なんとゲームカジノポーカーの花形、ダブルアップも完備されているのだ。
ダブルアップとは、うまく役を作って勝った時、その賞金全額を賭けてさらなるゲームに挑むシステムだ。
ダブルアップに挑むことを決めると、ハイアンドローという簡単なカードゲームに挑むことになる。
ルールは実に単純で、次のカードの数字が、前のカードよりも大きいか小さいかを当てるだけ。
うまく言い当てることが出来れば、ポーカーで獲得した賭け金は倍に、失敗すれば当然没収となる。
ゲーム内カジノでは、何よりこれがおいしい。
二分の一以上の確率で正解出来て、賞金は倍々に増えていくのだ。
これはやらない手はないほどのプレイヤーに有利な勝負だ。
……が、もちろん『猫耳猫』のカジノは、そんなに甘くない。
ジョーカーあり。
賭け金上限なし。
ダブルアップあり。
確かにルールだけを見ると、ほかのゲームのカジノと比べてもプレイヤー有利なように見える。
しかし、実際にプレイしてみると、その印象は変わる。
特に賭け金が高くなった時、その難易度は急上昇するのだ。
賭け金が1の時と1万の時、それぞれで配られるカードを有志が統計を取ってみたところ、驚くべき結果が出た。
1の時に配られたカードは一般的な場合とほぼ同じだったのだが、1万の時におそろしいまでの偏りが出たのだ。
具体的にはとにかく役が出来ない。
手札の中に同じ数字のカードが入っていることなんて千回に一回程度で、同じマークのカードが三枚入っていることすら稀。
交換しても狙ったようにいいカードが来ず、試行回数は三千回程度だったのに、その中で役が成立したのがたったの十一回。
しかもそのほとんどが一番倍率の低いスリーカードで、成立した最高の手がストレートだというからもう呆れるしかない。
じゃあダブルアップで賞金を稼げば、と考えるのが自然の流れだが、ダブルアップにもイカサマの魔の手は迫ってくる。
成功時の獲得賞金が1万を超えたころから不自然な失敗が多くなり、賞金額が100万を超えるともうほとんど成功しなくなる。
このハイアンドローのルール上、数字のもっとも高いカードはジョーカーだ。
だからジョーカーを引いて次を低いと宣言すればまず負けることはないはずなのだが、賞金額が100万より高い場合、次のカードも十中八九ジョーカーになる。
カードの数が同じだとプレイヤーの負けになるルールなので、最強のカードを引いても負けるという理不尽展開が普通に起こるのだ。
この修正力のやりたい放題っぷりは凄まじく、すでにジョーカーが二枚場に出てる状態でも平然とジョーカーが出現したりもする。
ただ、カードを配るディーラーがイカサマをしてる訳ではないらしく、こちらが憤慨しても首をかしげるだけなのが余計に腹立たしい。
ちなみにディーラーは、バニー姿の若い女の人だ。
首をかしげるとちょっと可愛い。
これもおそらく猫耳猫スタッフの罠だろう。
俺は全然平気だが、人によっては彼女の胸のほくろに気を取られて失敗することもあるのだろう。
まったく、嘆かわしい!
「って、ことでな。これから行く場所は、数多のプレイヤーを葬ってきた、恐ろしい戦場。
いわば、聖戦の舞台なんだ。……お前も、覚悟だけはしておけよ」
長々と説明をして、サザーンにそう言い聞かせてから、俺はカジノに足を踏み入れる。
サザーンがあわてて追い縋ってきた。
「ちょ、ちょっと待て! そんなにやばい場所なのに行くのか?
ここで1000万Eなんて稼ぐのは無理なんだろ?
だったら……」
「無理じゃ、ない」
サザーンの言葉を、静かに訂正する。
「え?」
「無理じゃないんだよ、サザーン。それは、動画で証明されている」
おそらく、過去に、一人だけ。
1000万E以上の賞金額をカウントした猛者がいるのだ。
「いいか。賞金額が上がると、確率は操作される。
だが、あくまで確率が少なくなるだけで、ゼロになる訳じゃないんだ」
のちに『真のカジノ王』『男の中の男』などと呼ばれた、ある男の動画。
賭け金9999Eからの、まさかの4カード。
そしてそこからの、奇跡の五回連続ダブルアップ成功。
その時点での獲得賞金、約640万E。
おそらく、彼の手は緊張と興奮に震えていただろう。
ここでやめてもいいのではと、弱気が彼の耳にささやきかけてきていただろう。
それでも彼は突き進んだ。
640万の賞金を失うリスクを恐れず、1000万越えという夢に向かって突き進んだのだ。
手元のカードはスペードの3。
ほぼ最低の数字のカード。
普通に考えればハイを選び、4以上が出るのを狙うのが定石。
しかし、この状況。
むしろ裏を狙う方がうまく行くのでは、という迷いも捨てきれない。
行き詰まる十秒間。
結局彼が選んだのは、ハイ。
次のカードが、3より高い数のカードだと、予想した。
賞金額がここまでつり上がれば、もう確率なんて役に立たない。
世界の修正力によるイカサマ引きで、彼の運命も終わりだろう。
動画を見た全員がそう考えた、次の瞬間!
――ハートの、4!
誰もが予想しなかった、しかし心のどこかで望んでいた結果が、その目の前にあった。
彼は絶望的な賭けに勝ったのだ!
……ちなみにその後、調子乗った彼は再度のダブルアップを選択、あっさり負けた。
賞金はゼロになり、当然メダルも手に入らなかった。
彼が『男の中の男』と呼ばれる所以である。
「前例は、あるんだ。だから、不可能じゃない。小数点以下の確率だが成功する可能性はある。
気が遠くなるほど低い確率だがゼロではないんだ」
「で、でも、だからって、そんなの……」
取りすがるサザーンを振り切って、俺はポーカー台の前に立つ。
「ここではポーカーをすることが出来ます。遊んでいきますか?」
そう言って、ゲームそのままのバニーさんがにっこりと笑った。
「はい。お願いします」
「ソーマ!!」
ためらわず答えた俺に、サザーンが後ろから悲鳴のような声をあげる。
俺は一度だけ振り返って、ゆっくりと口を開く。
「サザーン。お前にだって、分かるだろ?」
「な、なにがだよ」
仮面の奥の目を射抜くように、あらん限りの気持ちを込めて、俺は言った。
「――男には、勝てないと分かっていても、挑まなきゃいけない時があるんだよ」
その言葉に、サザーンは俺の肩に伸ばした手を、力なく下ろした。
「そんなの、僕には、分からないよ……」
勝負の時が、やってきた。
すぅ、はぁ、と深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
ゆっくりと目を閉じ、そしてゆっくりと開く。
カジノ特有のまばゆいばかりの照明、ざわ……ざわ……っとした周りの喧騒、カードの裏地の模様、バニーさんの胸元のほくろ、全てがはっきりと、鮮明に見える。
大丈夫、俺は落ち着いている。
「それでは、このモノリスに手を置きながら、好きな金額を賭けてください」
そこで準備が整ったと見て取ったのか、バニーさんが俺を促した。
俺はまず、台の横にあるモノリスに手を伸ばした。
勘のいい人ならピンと来るだろうが、この小さなモノリスは街やフィールドにあるのと同じセーブポイントだ。
賭け金を差し出す時には、このモノリスによって強制セーブがなされるため、負けたからやり直しは出来ない。
しかも、この状態でリセットすると、賭けたお金がもどってこないばかりか、ゲームも終わった状態でリスタートされる。
リセット戦術はこのポーカーに関しては通用しないのだ。
だが、それは元より覚悟の上だ。
俺はモノリスに手を置いたまま、お財布クリスタルを差し出して、
「では、1000万Eを」
「――ッ!!」
迷わず1000万Eを賭け金として投入する。
後ろでサザーンが息を呑んだ気配が伝わってきたが、俺は振り返らなかった。
「い、1000万Eですね。承りました」
少しだけひきつった笑顔でバニーさんが賭け金を受け取り、いよいよゲーム本番。
バニーさんの手から、運命のカードが配られ――
「あ、すみませんやっぱりやめます」
――る直前、俺は勝負を降りた。
しばらくフリーズしていたバニーさんだったが、数秒ほどかけて再起動、
「わ、分かりました。では、賭け金をお返しします」
営業スマイルを浮かべて俺に1000万Eの賭け金を返してくれた。
そして、
「あ、おめでとうございます!
獲得した賞金が1000万Eを越えたので、副賞のメダルを差し上げますね!!
………………あれ?」
首をかしげたままふたたびフリーズするバニーさんを背に、俺は意気揚々とカジノをあとにしたのだった。
ポーカーには勝てなかったよ・・・
時間切れ(10月12日)までにもう一話は更新する予定
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