食材偽装の罰則強化 行政の怠慢で奪われる庶民のプチ贅沢
2013年11月20日 掲載
そこそこの料金でウマイ店ほど駆逐される
偽装が発覚した阪急阪神ホテルズのお詫びの張り紙/(C)日刊ゲンダイ
一連の食材偽装でも、消費者庁は課徴金の導入など、罰則強化を検討中だ。来年の通常国会に景品表示法改正案を提出することを、19日明らかにした。
自民党の消費者問題調査会が同日まとめた緊急提言では、悪質な虚偽表示には、政府が詐欺容疑などで刑事告発することも考えるべき、と指摘している。ミエミエのウケ狙いだ。
「食材偽装がまかり通っていたことを、消費者庁が知らなかったわけがない。もっと早くに手をつけていれば、偽装の拡大を防げたかもしれない。そもそも現行の景表法でも再発防止の措置命令を出せるし、命令に従わない事業者には最大3億円の罰金、トップには最長2年の懲役が科せられます。罰則を強化したところで所管省庁がサボっていたら、絵に描いた餅。今さら取ってつけたように立ち入り検査をしても後の祭りです」(霞が関事情通)
罰則強化は、役所の怠慢という批判をかわすための“目くらまし”にすぎないのだ。経済ジャーナリストの岩波拓哉氏がこう言う。
「耐震偽装の時も、規制強化で住宅着工件数が激減し、業界は大パニックに。小さな不動産、建設会社がバタバタ潰れた。工期も大幅に延び、そのぶんのコストをかぶったのは消費者です。食材偽装も似たような感じで、伊勢エビやアワビ、和牛など高級食材の価格がすでに高騰している。大量に買い占めたり、料金に転嫁できる高級ホテルはいいでしょうが、本物志向で良心的な街の小さな飲食店ほど値上げもできず、ジワジワと経営が圧迫されていきますよ」
そこそこの料金で食べられていたブランド豚や鳥も高級店に全部持っていかれ、いずれ食べられなくなるかもしれない。近所にある「信州そばの店」から、ある日突然、「信州」の文字が消えてア然、なんてことも起こり得る。庶民のささやかな贅沢(せいたく)がどんどん奪われていく。
「大阪の百貨店では『ステーキ丼』の販売を中止しました。加工牛ではない本物を使ったら値上げせざるを得ないという事情もありますが、“触らぬ神に”でしょう。疑惑を持たれそうなものはメニューから外され、食べられなくなってしまう。そういうケースが増えるでしょう」(流通業界関係者)
怠慢のツケを払うのは、政治家でも官僚でもない。われわれだ。