第九十七章 既知なる冒険者
「なんか、やっちゃった感があるなぁ……」
久々の本格戦闘だったので、ちょっと熱くなって当初の目的を見失ってしまっていたようだ。
あれ、そういえば俺、時間稼ぎするはずだったんじゃ、と思い出したのがついさっき。
当然ながら、敵の主力部隊はもう一匹残らずいなくなっていた。
もう一度念入りに辺りを見回したのだが、やはり近くに敵の姿はない。
途中、敵が俺を避けて逃げ出しているのではないかと被害妄想に駆られてしまったが、もちろんそんなことはなかった。
単純に、残っている敵が少なくなってしまったためにそう感じていただけだったらしい。
(うーん……)
ついうっかり全滅させてしまったが、これ、後でミツキに怒られたりしないだろうか。
敵を多く倒して怒られるとか普通はありえないとは思うのだが、事前に話していた会話が会話だけにちょっと不安である。
だがぶっちゃけた話、『敵を引きつけて逃げる』という計画は、敵の後衛を飛び越えた辺りですっかり頭の中から抜け落ちていた。
とはいえ、戦いに夢中になっていた、なんて正直に告白すると、ミツキに同類認定されそうで怖い。
戦うことを楽しんでいるヒサメ家の人間とは違い、俺は単に効率的な戦闘を模索していくことにちょっと熱中していただけだ。
そりゃあもちろん、もっと戦って昔の戦闘勘を取りもどしたいという思いは強くあるが、それはゲーマーとしてはごく当たり前のことだろう。
それだけであんなバトルジャンキーたちと一緒にされてはたまらない。
(……まあ、それは今はいいか)
それはその時になってから考えればいい。
夢中になりすぎたことについては後の反省材料にするとしても、とりあえずは結果オーライだ。
今は一刻も早く、この襲撃イベントを終わらせるべく動く時だろう。
俺は戦場を見回して、助太刀に向かう場所を吟味した。
まず、後衛部隊については問題なさそうだ。
ミツキの様子は見えないものの、敵の数は現在進行形で順調に減っていっているようだ。
相性的に魔法使いを相手にはしたくないし、ミツキが負けるとは思えない。
ここは放置でいいだろう。
リンゴ、についてはさらに介入の余地がない。
ざっと見る限り、リンゴはペースこそミツキにおよばないものの、空の敵を危なげなく倒しているようだ。
そもそも相手が空中にいると、俺には効果的な攻撃手段がない。
いや、移動系のスキルと魔法を使えば空中戦が全く出来ないという訳でもないのだが、空を縦横に舞う飛行型のモンスターと戦うとなるとかなり苦しい戦いを強いられてしまうのだ。
(……と、なると)
残るのは一つだ。
いまだに戦闘が続いているらしい街の門に向けて、
(ステップハイステップ、縮地!)
俺は全速で飛び出していった。
そうなると俄然気になってくるのが真希の安否だ。
頭上を見ても、空を切り裂く雷撃の光は、一つだけ。
王都の側から雷撃は放たれていない。
普通に考えれば真希は雷撃が使えないか、そもそもこの戦闘に参加していないということになる。
戦闘前にその辺りのことを探ろうとしたが、ミツキの探索者の指輪は知っている相手にしか使えないらしく不発。
ミツキがシェルミア王女と面識がなかったのか、それとも真希と面識がなかったのか。
とにかく探索者の指輪が使えないなら戦闘前に出来ることはあまりない。
一応一つだけ手を打って、真希のことは頭の隅に追いやることにしたのだ。
俺が必死で主力部隊を引き付けようとしたのは、真希の安全のためという理由もあった。
街にどんな冒険者が残っているかによっても状況は変わるが、流石に前衛、先遣隊だけならはねのけるだけの力は持っているはずだ。
そう信じてはいるものの、やはり不安はぬぐえない。
真希はかなりのトラブルメイカーだから、自分から要らぬ危険を呼び込んでいる可能性もある。
俺は全力で移動スキルを発動し続けた。
(少しずつ、見えてきたな)
街の近くに寄っていくにつれ、だんだんと街側の陣営も見えてきた。
予想していたが、大体がゲームと同じ陣容だ。
街の門を囲むように、V字の防衛網を敷いている。
V字の左右で人の種類が違っていて、右翼、俺から見ると向かって左側に騎士団や王族。
左翼、向かって右側に冒険者たちがいるようだった。
まずはどちらに向かうべきか。
一瞬だけ迷ったが、結局左、騎士団の方へと進路を取る。
冒険者の側は遠目にも炎や激しい技のエフェクトが光って元気がよさそうなのに対して、騎士団の方が敵に押されているように見える。
それに、
(あそこには、真希がいるかもしれない!)
彼女がいるとしたら、騎士団の近くだろう。
雷撃がなければ戦力にはならないだろうが、あいつがこんな事態におとなしくしているとは考えにくい。
そんなことを考えながら進んでいくと、騎士たちとモンスターの戦いが見えてくる。
騎士団は組織的な戦い方で、効率よく魔物と戦っているようだ。
レベル的には高レベルモンスターを相手にするのはきついはずなのだが、うまく連携してモンスターとまともに打ち合わないようにしている。
『猫耳猫』のプレイヤーとは対極とも言える戦闘スタイルだが、そこには確かに完成された技術があった。
しかしそれだけに苦戦している感は否めない。
脱落者は出ていないようだが、その分モンスターにもダメージを与えられていない。
何か一つ失策があれば崩れそうな雰囲気はあるが、
「あれは……メリアルダ王妃?」
それを支えているのがリヒト王国王妃、メリアルダの存在だった。
彼女は回復・補助魔法の名手。
無尽蔵に近いMPを使い、惜しげもなく全体回復・補助魔法を騎士団全体にかけて戦線を支えている。
そして、その隣には当然のようにリヒト国王フルフィルがいて、寄ってくるモンスターを一刀両断している。
その安定感は抜群で、あの二人は一緒にいればまずこのレベルのモンスターに負けることはないだろうと安心出来た。
ただ、
(真希の姿が見えないな)
王と王妃の傍にいるはずの王女の姿はない。
王族全てが出張ってきているのかと思ったが、真希は留守番なのか。
あるいはもう少し奥に護衛の騎士と一緒に戦っているのか。
(どちらにせよ、ここを制圧すれば分かることだ)
いよいよ敵が近付いてくる。
モンスターのほとんどは正面の騎士団に気を取られ、こちらに気付いていないようだ。
ならまずは、あいさつ代わりの先制攻撃。
(ステップ横薙ぎ、ステップ横薙ぎ、ステップハイステップジャンプ横薙ぎ!)
騎士団の連中に当ててしまってはまずい。
充分に距離を保ちつつ、敵の背後から広範囲に奇襲をかける。
(流石に……)
敵もよく避ける。
スピードが速いモンスターが集まっているだけのことはある。
奥にいる騎士に当てないことを最優先にしたせいもあるだろうが、狙った半分程度しか倒せなかった。
しかしそれでもモンスターたちに動揺を与えることには成功した。
突然の背後からの奇襲に算を乱すモンスターたち。
なぜかモンスターだけでなく騎士団の方にも動揺が広まっている気がするが、あまり考えずにそのまま接近戦に移る。
(ステップスラッシュ、ステップスラッシュ、ステップスラッシュ、ステップ横薙ぎ!)
攻撃範囲の広い横薙ぎの使用は自粛して、スラッシュで確実に敵の数を減らす。
横薙ぎと比べるとスラッシュの威力は弱いが、スピード重視の敵なら問題ない。
決まれば確実に倒せる。
「きゃっ!」
そんな風に敵の数を減らしていると、悲鳴が聞こえた。
声の方を見ると、そこには地面にしりもちをついた騎士の女性。
確か、新米騎士のジェシカとかなんとかいうイベントキャラ。
騎士が戦場で「きゃっ」とか言うなよとは思うが、危険なのは間違いない。
反射的にステップで近付いて、
(しまった!)
近付きすぎたことに気付いた。
ジェシカに迫るモンスターは2匹。
流石にスラッシュでは倒し切れないが、横薙ぎではジェシカに当たる。
とっさの判断、
(ワイドスラッシュ!)
俺はステップをキャンセルして剣スキル『ワイドスラッシュ』を使う。
この技は剣スキルのため威力に乏しく、おまけに攻撃範囲も横薙ぎよりも狭いのであまり使っていなかったのだが、今回はその攻撃範囲の狭さが逆に利点になる。
斬撃エフェクトがモンスターとジェシカの身体をまとめて斬る、が、ワイドスラッシュはエフェクトよりも実際の攻撃範囲が狭い。
ジェシカの身体を通ったエフェクトに実効性はなく、手前のモンスターだけを正確に二つに斬り裂く。
「大丈夫か?」
流石に放置はまずいと思い、一瞬足を止めて声をかけると、
「ひっ! ゆ、ゆるして…!」
やはりまだモンスターに襲われた恐怖が残っているのだろう。
悲鳴を上げられてしまった。
もう一度声をかけようと思ったが、そこで時間切れ。
「おっと」
急に身体が横に押され、ジェシカの姿が遠くなる。
予約していたエアハンマーが発動して、俺の身体を移動させたのだ。
「っひ!!」
またジェシカの悲鳴。
ただ人が移動しただけで悲鳴を上げるなんて、やっぱり彼女は騎士には向いていないんじゃないだろうかと思う。
だが、その辺りから俺にとって戦いやすい環境が出来た。
自分たちが前に出て来ると俺が戦いにくいということをなんとなく読み取ってくれたのか、騎士団の布陣が最初より少し下がり気味になったのだ。
もちろんそれに釣られて戦線を上げるモンスターも多かったが、半分くらいは反転して俺の方に向かってくる。
騎士団の厚意を遠慮なく受け取って、横薙ぎを中心にスキルを組み立てて効率よく敵を掃討していく。
ターゲットが騎士団にも分散されるため、殲滅効率は主力部隊と戦った時ほどではないものの、先遣隊のモンスターは主力と比べると格段に少ない。
討ち漏らしを気にせず大まかに敵を殲滅しながら、少しずつ右翼方面から左翼方面に向かって流れていく。
進みながらも横目で騎士団の様子をうかがうが、真希の姿はやっぱりない。
それに、
(『あいつ』もいないな)
ここで遭遇すると予想していた人物も見つからなかった。
そうこうしている内に、もう右翼の端まで来てしまう。
念のため、右翼から離れて左翼の様子を見る。
こちらは冒険者がメインになって戦っているのだが、
「これはひどい……」
思わずそうつぶやいてしまうほどのバラバラっぷり。
個々のレベルは高そうなのだが、連携がまるで出来ていないという、騎士団とは対極のありさまだ。
中でも特にひどいのが、真ん中に位置しているグループ。
そこには見覚えのあるキャラクターばかりがチームを組んでいた。
「あははははは! 喰らえ、これが勇者の一撃だ!!」
笑いながら剣を振るうのは、最強勇者、アレックズ!
振り下ろした剣から衝撃波が生まれ、その場にいたモンスターと近くにいた仲間の冒険者を吹き飛ばす。
「我が右腕に封じられし、おぞましき魔よ。
魑魅魍魎共を喰らい尽くせ!
顕現せよ闇の炎、ダークネスフレイム!
……ふっ。偉大なる僕の前に立った不幸を呪うがいい」
長台詞を叫びながら魔法を放つのは、天才アホ魔術師、サザーン!
振りかざした右腕から炎がほとばしり、その場にいたモンスターと近くにいた冒険者は炎に包まれる。
そして、さっきからアレックズやサザーンの攻撃に巻き込まれている冒険者は、よく見るとライデンだった。
おまけにその隣にはムキムキマッチョな武闘家、バカラまでいる。
「なんだあの嫌すぎるドリームチーム……」
戦闘能力だけを考えるとトップクラスが集まっているが、同時にパーティを組みたくないランキングとかあったら間違いなくベストテンに名を連ねるような連中がそろっている。
ホースヒット能力が発動した結果なんだろうが、あんなチームに入ったライデンは頭がおかしい。
強い奴に会いにいくとかっていうんじゃなく、単にマゾなんじゃないかと思えるレベルだ。
四人の活躍でモンスターは確実に減っていっているが、同時に味方も逃げまどっている。
冒険者サイドを眺めてみると、ほとんどもうモンスターと戦っているというよりは、あのチームの攻撃の巻き添えを受けないように逃げ回っているという様子だった。
正直、俺もあそこに突っ込みたくはない。
今からでもミツキかリンゴの援護に向かおうかと後ろを見ると、ミツキの所はもうほとんど終わっているようだった。
全滅までもう秒読みだろう。
ではリンゴは、と見ると、
「あれは……まずいな」
空を行く敵はほとんど倒していたが、物理属性の効きが悪いゴースト系のモンスターだけが残っていた。
しかも、その真ん中にいるのは、
「リッチゴースト、か」
レベル170クラスのボスモンスター、リッチゴースト。
こいつは霧で出来た黒い衣のような外見をしたモンスターで、リッチな上にゴーストという筋金入りのアンデッドだけあって通常の物理攻撃は全く効かない。
それどころか四属性全てに耐性を持ち、闇属性は当然吸収。
その上ボス補正なのか、アンデッドの弱点のはずの回復魔法まで無効化するため、光属性の攻撃以外はほとんど通らないという難敵だ。
その上いやらしい特殊攻撃を持っているせいで、対策なしに初見で戦えば犠牲が出ることの多い、厄介極まりないモンスターだと言える。
あんな敵がリンゴを襲ったら大変だ。
リンゴの雷撃は物理属性。
リッチゴーストに襲われたら対抗手段がない。
(なのに、リンゴがターゲッティングされてる、か?)
たとえ効果のない攻撃でも、当てればわずかにヘイトは上がる。
雷撃が当たったせいでリンゴを敵と認識してしまったようだ。
俺が急いでリンゴの所に駆けつけようと速度を上げたところ、
(あれは…!)
地上から石が飛んで行って、リッチゴーストを打った。
投げた石だって当然物理属性。
ダメージはないはずだが、攻撃目標はそちらに移る。
(一体誰が……)
そう思って石を投げた人物を探すと、そこにはメイスを手に数匹のモンスターを相手にする冒険者の少女がいた。
身体のスペックが異様に高いのか、スキルもなしに常人離れした運動能力を見せてモンスターたちを圧倒、隙を見せた敵を一匹ずつ手にしたメイスで撲殺している。
(そういえば……)
以前、八百屋のおばちゃんからメイス使いの少女の噂を聞いた。
ゲームではそんな冒険者の存在は知らなかったためにスルーしてしまったが、彼女がそうだということなのだろうか。
俺がさらに彼女をよく見ようと目を凝らすと、
「くまっ!!」
その隣に見覚えのありすぎる黄色い影を見つけてしまった。
実はくまには戦いの直前、あるお願いをして俺たちとは別行動を取ってもらった。
本当はリンゴと一緒に離れた場所で待っていてもらおうかと思ったのだが、くまが最近やけにリンゴを怖がっているので、特別な指令を与えて単独行動を取らせたのだ。
その指令とは、『王女を見つけて、俺の手紙を届ける』こと。
くま単体では戦闘に参加するのは大変だし、高確率で王女が外に出て来るこのチャンスを逃す訳にはいかない。
絶対に無理はしないようにと厳命した上で、護身用の攻撃アイテムの入った鞄と俺からの手紙を託したのだ。
モンスターと間違われて攻撃されないかが心配だったが、どうやらうまく街側の陣に潜入出来たらしい。
というかもしかして、くまがここにいるということは……。
(あれが、真希?!)
あえてそういう予断を持ってあらためてその冒険者の少女を見ると、どことなく真希に似ている気がしてきた。
隣で戦っている冒険者風の男たちも、よく見ると騎士団イベントで見かけたことがある有名な騎士キャラクターのようにも見える。
そして、トドメがあの少女が持っている武器。
それを使って殴っているからてっきりメイスだと思っていたのだが、
(あれ、シェルミア王女の初期装備の杖じゃないか!!)
『王都襲撃』で雷撃を出していた杖と完全に同じだった。
ここまで来ればもう間違いない。
俺はさらに速度を上げて彼女に近付きながら、
「真希!!」
と声の限りに叫んだ。
その声は、少女へと届く。
「あれ? この声、もしかして、そ――」
彼女は驚いた顔をして振り向いて、しかし、それが決定的な隙になった。
今まで何もせずに上空を漂っていたリッチゴーストが、突然加速する。
「真希っ!」
今度はさっきまでとは違う意味で声を張り上げる。
だが、俺が叫んだ瞬間にはもうリッチゴーストは真希にその手をかけていて、
「――え?!」
という言葉だけを残し、真希の身体が接近したリッチゴーストに飲み込まれる。
「ま、き……」
顔から、血の気が引く。
「取り、込まれた…?」
リッチゴーストの特殊攻撃『取り込み』。
自らの身体の中に相手を取り込むという最悪の攻撃方法。
「姫様っ!」
護衛の騎士らしき二人がリッチゴーストを攻撃しようと剣を構えるが、
「攻撃したら駄目だ!! 中の真希に当たる!!」
俺はそれを制止する。
リッチゴーストの取り込みの陰険な所は、『取り込み中のリッチゴーストが攻撃を受けた場合、その攻撃の半分をそのまま取り込んだ相手に流し、肩代わりさせる』という特殊効果にある。
これを使われると単純にダメージが半分になる上に、中にいる人間が味方の攻撃で殺されてしまうことになる。
取り込みを解除させるにはリッチゴーストを倒すしかないので、取り込まれた人間がリッチゴーストよりも高い耐久力を持っていない限り、中にいる人間は死んでしまうという最悪な技だ。
かといって、そのまま放っておいてもリッチゴーストにHPを吸い取られて死ぬ。
八方塞がりと言っていいほどの状況。
だが、
「くま! 奴に白の球!!」
ここであきらめたりはしない!
せっかく再会した従妹を目の前で死なせるなんて、絶対にごめんだ。
取り込み中はリッチゴーストの速度が落ちる。
くまが至近距離から投げた白の球は見事にリッチゴーストに命中し、その動きを止める。
「姫様がっ!」
「その程度では!」
護衛の二人が同時に叫ぶ。
いくら光属性の攻撃でも球では効果は薄いことも、そのダメージが真希にも行っているのも分かっている。
俺の本命はそれじゃない。
「くま、助かった!」
そう言いながらエアハンマーで奴の前に立つと、パワーアップを詠唱。
同時に俺は、
(こっちじゃ、足りない!)
左手の黄金桜を投げ捨て、ポーチから球を取り出した。
それは、奴に唯一ダメージを与えられる白の球、ではなく、相手を回復させる、黒の球。
「なっ! 馬鹿な、奴に闇属性は…!」
護衛の騎士が何か言っているが、俺は構わずに黒の球を握りしめる。
そして、光属性の攻撃を喰らって行動不能になっているリッチゴーストを前に、頭上へ、自分自身の頭上へと、黒の球を投擲する。
(頼むぞ!)
誰にか分からずそう願いながら、間髪入れずに発動するのはもちろん、
「絶刀色彩返し!!」
最強のカウンター技。
(行けるか? タイミング、は……)
少しでもタイミングがずれれば不発になる。
胸が痛くなるようなひりつく二秒間。
焦れったくなる予備動作が終わり、構えが完成し、反撃受付時間がやってきて、
(来い!)
俺の身体に黒色のボールが落下、衝突し、弾ける。
闇属性の攻撃を感知し、『絶刀色彩返し』のカウンターが発動する。
(動くな、動くなよ!)
俺の身体はあらかじめ設定されたスキルのモーションに従って、不知火を振り上げる。
ブッチャーを相手に戦った時の焼き直し。
黒いボールをぶつけられた俺の不知火の一撃は、当然禍々しい闇色の力を帯びて、
「当た、れぇえ!!」
ようやく白の球の硬直から抜け出したリッチゴーストを捉える!
ただの光攻撃では中の真希ごと殺してしまう。
しかし、ほかの属性ではリッチゴーストを倒すことが出来ない。
……それが、通常の攻撃であれば。
しかし今、俺の闇属性攻撃には指輪の力でマイナスの補正がかかっている。
普通の相手に使えば、当たった相手を回復させる攻撃。
だがそれも、闇属性を吸収する相手に使えば、逆の効果が与えられる!
「まさかっ!」
騎士が叫ぶ。
改造した不知火の攻撃力、高いスキル補正、パワーアップの効果、闇属性の倍率。
全てが乗算されたその一撃は、リッチゴーストをあっけなく吹き散らし、
「真希!!」
中から、囚われのお姫様を吐き出させた。
落下していく真希の身体。
「姫様っ!」
そして、硬直して動けない俺よりも、呆然としてスタートが遅れた騎士たちよりも早く、その落下点に到達し、両腕を広げたのは、
――ニタァ。
やっぱり黄色くて出来るぬいぐるみのあいつで、真希の身体を見事に受け止めて、
――グシャッ!
ぺしゃんこに潰れながらも真希の身体を衝撃から守ってくれた。
「……ナイスクッション」
ほっとした俺は、そうくまに声をかけたのだった。
「……あ、れ?」
真希が目を覚ます。
「……真希」
安堵の感情に、膝から力が抜ける。
服装こそ変わっているが、その勝気な瞳は変わらない。
こんな場所にいても、こんな状況になっても、真希はやっぱり、真希だった。
真希は視界の真ん中に俺の姿を見かけると、
「え? ……え?」
信じられない、というように二度、三度とぱちぱちとまばたきをして、ようやく俺の姿を認め、目を丸くした。
「そー、ま?
ほんとうに、そーま?
わたしを、助けにきてくれたの?」
真希のその言葉に、俺は何だか急に恥ずかしくなった。
だから俺はそっぽを向き、照れ隠しに照れくさい台詞を吐いた。
「――俺、参上」
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