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第四十六章 秘策
 作戦を練るために、リンゴのスペックを確認していたのだが、そこで驚愕の事実が判明してしまった。

 ――なんと彼女、スキルも魔法も一切使えないのだ!

 あ、いや、使えないというのはちょっと語弊があって、別に訓練しても使えないという話ではなく、単にスキルも魔法も基本スキルしか習得しておらず、そもそも基本スキルの使い方すら知らなかった、という話だ。

 と、こう言うと、じゃあベンチを破壊したあの雷の魔法はなんなんだ、という話になってくるだろう。

 結論から言おう。
 俺もびっくりしたが、あれは雷の魔法ではなかった。
 ではなんだったかと言えば、なんとあれは、通常攻撃・・・・だったのだ。


 そもそも、彼女はスキルや魔法の存在を知らなかったし、存在を知らないのに発動のさせ方が分かるはずがない。
 でもなぜ彼女があの一撃を放てたかというと、彼女にとってあれは、出来て当然の自然な行動だったからだ。

 俺はAIには詳しくないので憶測だけで話をさせてもらうと、『腕を振る』とか『足を上げる』とかと同じように、彼女の中には『手から雷を放つ』という動作が設定されていたのではないかというのが俺の予想だ。

 思い返してみれば、『王都襲撃』イベント時のシェルミア王女は、確かにまるで通常攻撃を繰り出すように雷の魔法で次々とモンスターを倒していたと思っていたが、本当に通常攻撃扱いだったとは。
 プレイヤーの仲間にするつもりがなかったからって、いくらなんでも手抜きが過ぎる。
 そりゃああれだけ撃ってもMP切れしない訳だ。


 それから、彼女の『通常攻撃』のスペックを確認した。
 主にシショーなどに試し撃ちをしてもらって調べた所、以下のことが分かった。

 まず、大体見た目通りの当たり判定があり、多段ヒットするが、その属性は無属性で物理系。
 しかも物理系だけあって、攻撃力は魔力ではなく筋力依存。
 また、武器を持つと武器自身の攻撃力は乗るが、武器種補正と武器熟練度補正は乗らない。

 頭を抱えたくなるような性能である。
 なんというかこれ、属性的にも全然魔法じゃない。
 雷属性はないし、おまけに物理攻撃扱い。
 彼女はイベント時には杖を持っていたはずだが、あの杖が魔力の上がる装備だったとすると、たぶんあれ、全く意味がなかったんじゃないだろうか。

 一応それを思い出して武器を持たせた所、剣だろうが斧だろうが武器の先から例の『通常攻撃』が出るのに、武器補正は乗っていなかった。
 どう言えばいいのだろうか。
 右手に武器を持って攻撃力だけ上げて、武器を持っていない左手で遠くを殴ってるみたいな感じだ。
 データ的には理解出来るが、現実的に考えると全く意味不明である。

 とりあえず、これも『猫耳猫』クオリティだと理解して、あまり考えないことにする。
 とにかくこの『雷の通常攻撃』があれば、ゴールデンはぐれノライムを倒すのもずいぶんと楽になるだろう。

 しかし、それにしたってレベル1であの威力とは、本当に末恐ろしいとしか言えない。
 ついでにと色々調べてみたのだが、スペック的に、彼女の能力値はレベル1の水準をはるかに上回っていることが分かった。
 これでレベルが上がったらどうなるのか。
 あるいはヒサメ以上のチートキャラに成長するかもしれない。

 ただ、文字通り色々と規格外な所があるリンゴだから、そもそもレベルが上がるかは分からないし、レベルが上がっても能力上昇が起こらない、なんて可能性だってある。
 『猫耳猫』をやる上で一番大事なことは、全部を一応疑ってかかること。
 リンゴの成長については、あまり期待しすぎない範囲で期待しておくことにしよう。


 と、リンゴの話ばかりをしてしまったが、俺ももちろん、ゴールデン狩りには参加するつもりだ。
 リンゴの『雷の通常攻撃』、略して『雷撃』は強くて手数も多いが、狙いが若干アバウトになる欠点がある。
 以前にも触れたが、急所であるクリティカルポイントを狙えばダメージが増え、さらにトドメを刺すことが出来ればアイテムドロップ率が倍になる、という『猫耳猫』の仕様上、ピンポイントで急所を狙えるスキルも重要になってくるのだ。

 俺は今の所、たいまつシショーを使って、剣・大太刀・短剣・忍刀の武器熟練度と、火属性の魔法熟練度を上げている。
 ただ、剣スキルや大太刀スキルは威力重視の技が多くて不向きだし、忍刀にも多段ダメージ技はあったりするが、場所がばらけたり闇属性だったりで使いにくい。
 不知火と脇差の二刀流は変えないつもりだが、今回は脇差をメインにして短剣スキルを使っていこうというのが現在の方針だ。

 特に、短剣スキルを上げて覚えた『六突き』というスキルは、同じ場所に目にも留まらぬ六連撃を繰り出す技……というか、まあぶっちゃけエフェクト的には実際一回しか突いていないのに、六回の連続ダメージを与えてくれるというちょっとずるいスキルだ。
 これを今回のゴールデンはぐれノライム戦に使っていこうと考えている。


 そして、もう一つ大事なのが火属性魔法だ。
 火属性の魔法なんていつ使ったんだ、と思われるかもしれないが、もちろん一度も使っていない。
 なのになぜ火属性魔法の熟練度が上がっているかというと、これはヒートナイフのおかげだ。

 これはバグか仕様か微妙な所だが、『猫耳猫』では属性武器や属性スキルを使うと、その属性に対応した魔法の熟練度が上がる。
 火属性のついたヒートナイフが貴重なアイテムなのは、そのためである。

 魔法は、魔法屋などで売っている魔法の書を読んで習得し、その属性の熟練度が足りている場合にのみ使用することが出来る。
 ラムリックで買いはしたものの、今まで使えなかった火の魔法がこれで解禁されるという訳だ。

 もちろん魔法系ではない俺が攻撃魔法なんて使っても効果は高が知れているが、それでも火属性には役に立つ魔法がたくさんある。
 俺が今回使えるようになった『パワーアップ』と『プチプロージョン』なんかはその代表格で、カスタムも加えて行けば終盤まで使っていける便利魔法だ。

 『パワーアップ』は魔力に関係なく効果を発揮する魔法で、使用者の筋力を割合で高めてくれる貴重な魔法効果を持つ。
 戦士系でも必須の魔法の一つと言われている。

 『プチプロージョン』は『エクスプロージョン』の下位魔法だが、場合によってはそれ以上に使いやすいと言われる魔法で、消費MPは少なく爆発の威力も大したことはないが、敵味方認識をしないノックバック付きの爆風を発生させるために使い道は多い。
 アクセサリー屋で属性攻撃特化の指輪はきちんと買っておいたので、それをつけて使えばさらに便利な魔法に化けることだろう。


 基本的にはこの辺りのスキルを使ってリンゴの補助をしていくつもりだが、もちろん機会があれば自分でゴールデンを倒してレベル上げをしたいとも思っている。
 初心者防具は言わずもがなだが、この界隈でレベル13のまま戦うなんていうのも、やっぱり自殺行為だ。
 ここでそれなりにレベルでも上げておかないと、結局モンスターが怖くて外に出られないなんてことになりかねない。
 そうは言っても、こんな絶好の機会が来なければ武器の熟練度上げのためにもう少しくらいは低レベルでいてもよかったのだが、今はレベル上げを優先するべきだろう。

 武器熟練度は相手のレベルによってプラス補正が働き、相手のレベルがこちらより高ければ1レベルにつき10%の補正がかかる。
 レベル13の俺が250のたいまつシショーを攻撃すればレベル差は237だから、通常時の約25倍の熟練度が手に入る。

 しかし仮に、俺がゴールデンでレベルを150まで上げたとしても、レベル差はまだ100もある。
 手に入る熟練度は通常時の11倍。
 効率は多少落ちてしまうものの、たいまつシショーの優位性はまだまだ崩れない。

 そもそも本来のゲームバランスからすると、レベルが20以上も上の相手に挑むなんていうのは、はっきり言って自殺行為なのだ。
 このゲームには攻撃や防御にレベル補正はかからないが、レベルが上がれば敵も単純に強くなる。
 相当いい武器や防具、スキルなんかを持っていないと、レベルが10違えば普通に負ける。

 ゴールデンはぐれノライムは確かに並外れた防御力を持っているが、メタルやゴールデンといったモンスターは、『どんなに弱い攻撃でも、当てれば必ず1ダメージ喰らう』という特性を持っている。
 さらに弱点、クリティカルポイントに当てれば最低2ダメージだ。
 攻撃力が足りていなくても、多段攻撃をうまく当てていけば誰にでも倒せるチャンスがあるのである。


 リンゴの雷撃で足を止めた所を、俺が駆け込んで急所に『六突き』を当てる。
 その作戦で1位を目指しつつ、行けそうならリンゴに少しだけ攻撃を控えてもらって、俺がトドメを刺して俺のレベルも上げる。
 これが最終的な、俺たちの対ゴールデンはぐれノライム向けの作戦である。

 後は、討伐大会が始まってからどう動くかについても打ち合わせした。
 ゴールデンを倒すことが出来るだけの実力があっても、他の参加者次第では獲物を掠められたり、うまく戦えなかったりする可能性もある。
 一応参加者同士の戦闘は禁止にされているのでそれはあまり心配していないが、俺たちが1位になれるかは、大会が始まってから他の参加者たちを出し抜いてうまく立ち回れるか、そこに大きくかかってくる。

 一人で考えて、何か見落としていることがあってはいけない。
 そう思ってリンゴにも色々と意見を訊いたのだが、彼女がうなずきか首振り以外の反応をすることはなかった。
 ちょっと心配になったので、最後に、

「大会が始まってからの段取り、ちゃんと覚えてるか?」 

 と訊いたら、

「…ついてって、撃つ?」

 という簡潔な返事が返ってきた。
 今までの俺の必死の説明はなんだったのかという気になったが、まあ、真理だ。
 リンゴはそれでいい気がしてきた。

 それに、これでうまいことお金が作れたら、リンゴの身の振り方についても考えるだけの余裕が出て来るはずだ。
 今も本人が何を考えているかは知らないが、少なくともこの大会に対しては意外と乗り気なように見える。
 とりあえずはこの大会を力を合わせて乗り越えることを考えるべきだろう。

「そろそろ、時間か……」

 気のせいだろうか。
 街の慌ただしさが少し増したような気がした。
 門の方に早足で歩いていく冒険者風の人間も多数見かけるようになった。

「それじゃ、俺たちも行くか」

 その言葉にリンゴが小さくうなずいたのを確認してから、俺たちも門を目指して歩き出した。

 ――いざ、デウス平原へ!


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