木語:リコノミステリー=金子秀敏
毎日新聞 2013年11月21日 東京朝刊
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「リコノミクス」とは中国の首相、李克強(りこくきょう)氏の経済改革政策である。今年3月、全国人民代表大会(議会)で表明した。
中国の成長力も落ちた。規制緩和によって国有大企業の特権を廃し、市場経済化を進めて民間活力を引き出そうというのがリコノミクスだ。となると、「大型国有企業」と結びついた共産党内の特権集団から激しい抵抗が出る。石油閥あり、電力閥あり、不動産業界、金融業界、通信業界との癒着あり……共産党内でそれぞれの権益集団代表がにらみをきかせている。
11月、共産党は中央委員会総会を開いた。「3中全会」である。ここで「全面的な改革深化に関する若干の重大問題の決議」が採択された。リコノミクスの具体化になると思われていたが、結果は大違い。李克強首相が関与していなかった。リコノミステリーだ。
中国では、経済政策の提案は首相か副首相が行うのが慣例だ。今回の3中全会では習近平(しゅうきんぺい)総書記が自ら決議案の趣旨説明演説をした。あまり普通のことではない。
習氏は、党に「全面深化改革領導小組」を新設した。組長は習氏自身。副組長は李克強首相ではなく、保守派の劉雲山(りゅううんざん)・書記局常務書記と石油閥出身の張高麗(ちょうこうれい)副首相だった。大変普通ではない。
改革抵抗勢力を太刀持ち、露払いにした横綱の土俵入りだ。本気で改革を断行する気はないのだ。
習氏は演説のなかで「公有制経済を守る」と断言した。要するに国有企業の権益を守る一方で、国有企業からの国庫上納金を増やそうという改革案だ。
改革派の首相を外したのは、特権集団の圧力に屈したのか、そもそも習氏の改革センスが四半世紀ほど前の天安門事件当時の水準だからなのか。いずれにせよ、習近平政権は構造改革という険しい道を避けて、目先の安定を求めた。持続的成長への挑戦を回避した。
3中全会が終わると、上海株式市場は、失望売りで下げたが、軍需工業関連株だけがはねあがった。「富国強兵」路線の習近平政権は民需や福祉は後回しで、軍事への投資が続くと直感したのだ。