日本経済の幻想と真実

婚外子差別も夫婦同姓も「日本の伝統」ではない歴史を知らない「保守」の劣化

2013.11.21(木)  池田 信夫

 江戸時代までなかった夫婦同姓の制度は、明治期に家父長国家を確立し、個人を家に組み込む装置だった。ここでは社会の単位は個人ではなく家であり、家督を相続するのは長男であり、女性はそれに従属することを求められたのだ。

戦前の「国体」を復活しようとする保守派

 このように自民党の自称保守派が守ろうとしているのは、日本古来の伝統ではなく、家族の一体感でもない。彼らが「戦後レジーム」を否定して復活しようとしているのは、戦前の「国体」や「家」である。

 明治国家の最大の目的は、帝国主義戦争に生き残ることで、このために徳川300年の平和に慣れた国民を戦争に動員する必要があった。西洋には君主を超えた神の権威があるが、明治になってかつぎ出された天皇にはそういう重みがなかったので、国体という概念が作られ、国家神道という宗教が創作された。

 明治政府の実態は藩閥政治だったが、それを隠して国民を動員するイデオロギー装置が国体だった。そこでは江戸時代のように人々は藩主の私的な支配に従属するのではなく、臣民として天皇の下に位置づけられ、自ら戦争に出陣する気概を持つ必要があった。

 さすがに今どき国体とか臣民とは言いにくいので、保守派は「国力」とか「国柄」とか、やたらに国家を持ち出してナショナリズムをあおる。彼らは国民国家こそ西洋近代の生み出したフィクションであることを知らないのだろうか。

 ナショナリズムは、日本のように組織化された宗教を持たない国で国民を統合するほとんど唯一の概念装置だが、主義主張ではなく感情である。それには理論がないので、ネット右翼でも共有できる。彼らも「在日が戸籍名ではなく通称を名乗るのは『在日特権』だ」というように、戸籍を差別の道具に使っているのは不気味だ。

 明治国家の作った戸籍は、日本人を続柄や本籍で序列化し、朝鮮人を底辺に追いやって差別を制度化する装置だった。自民党もネトウヨも、明治期の家父長国家を復活させようという点では同じである。

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