【田中久稔】複数の症状がなくても水俣病患者と認定できるとした国の公害健康被害補償不服審査会の裁決を受け、熊本県に患者認定された同県水俣市の下田良雄さん(65)に対し、原因企業チッソ(東京)が19日、認定患者との補償協定を結ばないと伝えた。これまで裁判で勝訴し、損害賠償を受けた認定患者への補償を拒むことはあったが、賠償を受けていない認定患者との協定を拒むのは初めて。

 認定患者への補償については、1973年7月に患者側とチッソが結んだ補償協定書で、慰謝料1600万~1800万円などを払うことが定められた。認定患者はこれに基づき、チッソと個別に協定を結び、慰謝料や年金、医療費などを受けている。

 下田さんは、水俣病の典型症状である手足の先に行くほど感覚が鈍る障害があるが、それ以外の症状は確認されていない。99年から県に水俣病認定申請を重ねたが棄却が続き、国の不服審査会に審査請求。今年10月、「県の処分を取り消して水俣病と認定することが相当」とする裁決を受けた。裁決は認定をめぐる今年4月の最高裁判決を踏まえ、国が事実上、認定基準とする「複数の症状の組み合わせ」に該当しなくても認定できるとした。