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第2章の4 【アリの迷宮】
お前にあげる♪
「キィィッィィィッィィ」

 アリの女王がうなる。
 その耳障りな声が魔法の詠唱なのか、地面からとがった土槍が無数に飛び出してくるのを危うくかわし、腰から引き抜いた神器銃を撃つ。
 だが、その赤い光の奔流は女王アリの直前で輝く壁に阻まれ霧散した。
 ……やっぱりダメか。
 予想はしていたが、それでも完全防御過ぎて嫌になっちゃうね。
 もしかすれば物理防御と魔法防御の切り替えに時間がかかるのかもと試してみたのだが、即座に切り替え可能のようだ。

 物理と魔法が無効とかやっちゃダメだろ……。どっちか片方にしとけよ。
 胸のうちで女神連中を罵りながらも右手に神器刀、左手に神器銃を構える。
 物理と魔法。
 同時に叩き込めば防げるのは片方だけだと判断したのだ。
 これでダメだったら女神達のところに化けて出てやる。
 糞ゲーつーか無理ゲーだしな。

 ペッポを胸当てから背中に移動させてから、地面を蹴りつけ、神器靴の跳躍力を利用して女王アリに一気に接近する。
 いつもと違って鎧が紙なんで接近しねーと話にならねーんだよな。
 魔法の無効化も出来ないし。

「キィィッィィィッィィ」

 耳につく唸り声を上げ、女王アリが繰り出す一つ覚えの土槍をなんとかかわし進む。
 この女王アリ、ありがたいことに戦闘経験がないらしい。
 せっかく地中から無数に土の槍を出すつー強力な魔法を持っているのに、発動させる場所を見ながら唸るんでタイミングの予想がつくのだ。
 だが、もうすこしで届く。
 そういったところで女王アリが背中をそるように大きく息を吸い込むのが見えた。

 大技の事前準備行動!
 そう判断して、俺は慌てて回避に移った。
 ステップを踏み横にそれたのだ。そんな俺を掠めるように緑の炎が吐き出される。
 工業排水の影響で染まった川のような毒々しい緑。
 状態異常に耐性がある神器兜はかぶっているが、触ってみたいとはペッポの爪の先ほども思わない。
 女王アリが首を振って炎の吐息を広範囲にまきちらすのでさらにステップを踏み横に逃げる。
 逃げながら懐から爆裂石を取り出し女王アリの頭上に放り投げた。

「温泉宿早く作ってよ!」

 ヌアラの設定したクソみたいなキーワードに応え、爆発した爆裂石の衝撃が女王アリを頭上から押す。息を吐いていた口がパクンと閉じた。同時に緑の炎も霧散する。
 あわよくば生き埋めにならないかと思ったのだが、この部屋の天井は通路のように崩落はしないらしいな。
 相打ちですら難しいか。

 ……しまったな。
 不意打ちが失敗した時点で逃げときゃよかった。
 ちょっとばかり後悔しながら、再度両手に武器をかまえる。
 そんな俺を、娘の【ネム】とかいう女王と同じように憎々しげに睨み付けてくる女王アリ。
 気後れしないように俺も女王を睨み返す。
 と、女王アリがじっと俺を見詰ながら口を開いた。

「ミごとダだ。むげンにすマうものよ」

 聞き取りにくい声。裏声のようで発音は不明瞭だし片言の子供のような抑揚。
 だが、驚いたことにその声は確かに女性の声のように聞こえた。

「お前、言葉をしゃべれるのか?」
「ムろンだ。わレらはひトとあらソうキはない。ヒいテもらえぬかむげンにすマうものよ」

 なんだかひどくまともな提案のような気もするが……時間稼ぎには付き合えねーって。
 アリが通路の瓦礫を片付けたら俺はボコられる。
 万が一、この女王アリが本気だとしても無理だ。アリは人を殺しすぎたし何より悪食過ぎる。
 こいつらが現れてから、わずか1年で大湿地の動物達は姿を消した。
 食料的な問題で、いつかは生存をかけて戦う日が絶対にやってくるだろう。ならば、数の少ない今殺さねば人に勝ち目がない。

「断る! いまさらだろ! 遠征軍を襲う前に、カエル族を襲う前に、そう提案すべきだったな」
「わレらがしかけたモのではない。わレらはわレがすミかがおカされヌかぎり、ひトとあらソうキはなイのだ。むげンにすマうものよ」
「……仮にそうだとしても、お前達とは同じ地には住めんよ。時間稼ぎはその辺にしてくれアリの女王」
「ナらばひとつだけコタえよ。ワがさイしょのムすめ【ネム】をコロしたのはおマえか? むげンにすマうものよ」

 殺したのはケイ君だけど……まあ、正直に答えてやる義理はないな。

「……そうだ」
「ならば死ね! 無限の住人!」

 俺の返答にいきなり流暢なしゃべりになった女王アリ。
 やろう。やっぱり時間稼ぎのつもりだったか。

「キィィッィィィッィィ」

 続けて甲高い悲鳴のような声を発するアリの女王。
 足元の地面から土槍が飛び出すが予想していた俺は叫ぶ。

「ペッポ! 転」

 時間稼ぎに付き合う気はないといいながら、女王アリに付き合っていたのはペッポの回復を待っていたのだ。
 攻撃の時には隙ができる。そう考えチャンスを待っていた。

 俺の声に応え、ペッポが最後の力を振り絞った。
 無数の土の槍が俺の体を貫くかに見えたその瞬間に視界が移動する。
 大きな女王アリの胴体が目の前にあった。
 力の限りにたたきつけた神器刀は弾かれ、右手がジーンとしびれるが、委細かまわず左手に持った神器銃をアリの背中に密着させて引き金を引く。

 グチャ

 銃の発射音に混じって聞こえる肉をうがつ音。
 効果アリだ。
 神器銃の赤光はアリの女王の外装を貫き大きな穴を開けていた。
 すぐさま銃を手放し。右手はしびれて使えないので左手で腰から外した袋ごと爆裂石を握ってその穴に突っ込む。苦痛にもだえる女王アリ。
 酸が俺の手を焼き、燃えるように熱い。

「ワキュィィッィィィィッィィ」

 手を抜こうとしたところでアリが一声ほえた。
 おそらく完全回復のスキルを発動させたのだろう。瞬時に外装が修復され……抜こうとしていた俺の左手が綺麗な断面を見せて切断された。

 ……回復を攻撃に使ったか。予想外だ。

 女王アリの身震いと共に地面に転がり落ちる。
 わずかに絡む俺と女王アリの視線。綺麗な断面を見せていた俺の左腕の断面から、一瞬間をおきブシュッとふきだす真っ赤な血。
 アドレナリン全開らしく痛みがまったくないのが逆に怖い。

 なんとか血を止めようと、肩口を布でキツク縛る俺にニヤッと哂う女王アリ。
 このヤロウ……。
 勝利を確信したかのような女王アリに俺は言った。

「左手はお前にやるよ」
「確かに頂いた。次は右手を頂こう。娘の仇め。楽に死ねると思うなよ」

 そういって手のひらを俺に向ける。

「……左手はお前にやるさ。でもな、俺の左手の代金はちょっと高いぞ」

 続けて爆裂石のキーワードを叫ぶ。

「くたばれペド野郎!」

 その瞬間。体内で爆裂石が爆発したのだろう。
 体中が一瞬ふくらみ……女王アリの大きな胴体が四散した。


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