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第2章の4 【アリの迷宮】
アリの迷宮
 アリの迷宮の内部。
 そこはアルマリル大迷宮と同じようにむき出しの土がのぞく洞窟のような作りだった。
 所々に鍾乳石のような尖った石がタケノコのように生えている。ライトアップでもすればちょっと幻想的な光景になりそうだ。
 ただ、アリのムッとする酸っぱい臭いが迷宮全体に染み付いているうえ、妙に肌寒い。
 薄暗いので入り口から入って最初の角を曲がると立ち止まりしばしそこで目をならすことにした。
 アリたちは周辺に何匹か居るが、透明化した俺たちにはまったく気付いてはいないようだ。
 エルナたちの陽動は効果があるようで、時折アリの集団が現れては出口に向かっている。
 姿が見えていないとは分かっていても怖いのか、俺の胸元に滑り込み胸当てから顔を出していたペッポが顔を引っ込めた。

 何度目かのアリの増援部隊だと思しき集団をやり過ごした後。
 俺はそのアリの増援が来た通路を選んで歩き始めた。急ぎたい気持ちをぐっと押さえ、ゆっくりと通路の真ん中を進む。
 陽動の効果か遠征軍との戦いのせいなのか内部のアリは数が少ない。
 ほとんどアリと出会わないのだ。

 マッパーは居ないから地形を頭に叩き込みながら、曲がり角では時折チョークみたいなもので目印をつけ進む。
 進んだ道が行き止まりだったらそこに戻って違う道を進むのだ。
 なるべく目立たないように書いてはいるが、見つかると危険なのは承知の上。
 さすがにすべての道順を覚えるわけにはいかないからな。
 女王アリは西下層にいると思われるが、下に降りる階段がどこにあるのかは分からないし。
 もっといえばそもそも階段なんぞはなくアリが通れる穴だけ空いているとかもありうるのだ。
 まあ、大学院の教授の話では元々の迷宮のつくりは変わるとは考えにくいってことだが、いざとなったら右手法で進むつもりだ。
 迷宮である以上、右手法で壁に手を置いて進めば必ず出口か入り口にはたどり着ける。
 しかし、いかんせんこの方法は時間がかかるから、迷ってどうしようもなくなった時だけつかうつもりだ。
 そもそも入り口についてしまったら目も当てられないし。

 アリの気配を探りながらゆっくりと動く上に意外と迷宮は広い。
 適当な小部屋だとか曲がり角の近くでアリが居ないのを確認して透明化を解除し休みをとる。
 途中で何回か休みを入れたが相当にペッポは辛そうだ。
 無理もない。事前の実験では1時間そこそこが限界だった透明化を、すでに2時間以上やっているのだ。
 おしゃべりなコイツが休んでいるときもほとんど口をきかない。

「大丈夫か? 辛そうだけど……」

 何度目かの休憩中に小声でペッポにそう声をかけるとコクンと小さくうなずいた。

「うん。まだ大丈夫だよ」

 そういってペッポ用にと姫様が作った小さな水袋を腰から外して一口飲む。
 中身は蜂蜜と果汁のはいった水。
 俺も薄いワインを入れた水袋を腰から外し口を湿らせた。

「ペッポ。疲れているだろうけどもうひと踏ん張り頼むな。今、地下5階層だからそろそろ女王アリの居場所についても不思議じゃないから」

 そういってペッポを励ます。
 これは口からでまかせではない。
 この迷宮は1年前に地面に現れた比較的新しい迷宮だ。
 まだ若いといっていいから、最大でも7階層だと大学院の教授もエルナやケイ君も口をそろえていた。

「うん。あと2階だもんね。それぐらいならボクなんとか頑張れると思うよ」

 元気にそういったペッポだがちょっと済まなさそうに言葉を続けた。

「でもね。瞬間移動は凄く体力使うから……何回も出来ないと思うんだ」
「それは仕方がない。でも1回できるだけの体力は残しといてくれな。いざとなったら透明化を解除していいからさ」
「うん。1回だね」
「おう。転移があれば1回で十分だ。……そろそろ出発するけどいいかな? それとも、もうちょっと休むかペッポ」
「ボクは大丈夫だよ東雲。それに早くアリの女王倒さないとヌーちゃんたちが危ないし。東雲もエルナおねーさんとかシルクちゃんのこと心配でしょ? ケイ君だって参加してるんだしね。ボク頑張るからそんなに気をつかわなくてもいいよ」

 なんという健気な妖精だろうか……。
 メガネに金髪おっぱい。ランとか言う偉い神様。おまえら全員ペッポの爪の垢でも煎じて飲めよ。
 俺も飲むから。

「じゃあ、いくぞ。透明化を頼む。ちょっと早足で歩くから頑張ってくれな」
「うん」

 ペッポはスルっと俺の服と鎧の間に入り込み、ピョコンと胸当てから顔だけ出した。
 かくして、微妙に死亡フラグを立てたペッポと二人っきりの迷宮探査は再開したのである。


☆★☆★☆★☆★


 下層に潜るにつれ迷宮が狭くなっているようで、分かれ道なども減っている。
 6階層につづく階段はそれからすぐに見つかった。
 ……だが、その階段は今までとはちょっと違っていた。
 近衛のアリよりもさらに大きなアリが数匹、警備兵のように周りに陣取っているのだ。
 嗅覚や聴覚も発達しているのか、俺が階段に近寄るとピクッとわずかに身じろぎするのでキモを冷やしたが、なんとか見つからないで階段を下りる。

 地下6階層はさらに簡単な構造になっていた。
 分かれ道がほとんどない。
 しかも地面を見れば明らかに他の通路とは違い、多くのアリが通行していると思しき足跡のついた通路がひとつだけある。
 音がしないように神器刀を抜き放ち、右手に持って探索する。
 おそらくはここが最下層。女王アリの住処だと思ったからだ。

 俺の予想にたがわず、久しぶりの分かれ道を曲がると……。
 見つけた! 
 女王アリだ。

 分かれ道の突き当たりは大きな空洞になっていた。
 その奥にほとんど壁と一体化した様な異常に大きな芋虫が見える。
 以前見た翼竜よりもさらにでかい。見つめていると遠近感が狂いそうだ。
 その巨大な芋虫の胴体から以前倒した【ネム】という女王アリ同様、人の上半身が生えていた。
 ただ、こちらの女王アリはメタリックな光沢を放つ鎧のような外装だ。
 見た目は40代ぐらいの女性だろう。
 酷薄そうな顔をしていると思うのは俺の先入観だろうか。

 ゆっくりと忍び歩きをし、女王アリに近づきながら数瞬、俺は迷った。
 鑑定すべきかどうかをだ。
 だが、女王アリは知能も高く魔法も使う。
 あるいは鑑定をすれば俺の存在がバレるのではと恐れたのだ。金髪おっぱいリュミスのように攻撃型の抵抗魔法がかけられていた場合、その時点で奇襲は失敗する。

 いつまでも迷っている時間はない。
 勝利の女神は後ろ髪がないという。
 ならば巧遅よりも拙速だ。
 瞬間移動と透明化は同時に出来ないから、女王アリの居る空洞に入るとペッポに合図し透明化を解除。そしてあえて大きな声で叫ぶ。

「転!」

 突然の声に驚き、女王アリがこちらを見るがもう遅い。
 一瞬で光景が変わり、俺は勝利の確信をこめてむき出しの女王アリの首筋に死の半円を描いた。

 ……だが、甲高い音を立てて弾かれる神器刀。

 俺は信じられなかった。
 武器で受けた形跡はない。というか、そんなことはどんな達人でも不可能だ。
 完全な奇襲だったはずだ。
 なぜか女王アリの首筋に神器刀が当たる瞬間、見えない壁が俺の斬撃を弾き返したのだ。

 驚き立ち尽くす俺に一瞥を加える女王アリ。
 同時に「キィィッィィィッィィ」と悲鳴のような声を発する。
 その声にこたえるように通路から聞こえるアリたちの足音。
 凄い数っぽい。おそらく5階層の階段を守っていた大型のアリもくるだろう。

「ペッポ。瞬間移動は後何回出来る?」
「ごめん東雲。もう出来そうにないの。もう少しだけ休ませて」

 苦しそうな表情のペッポがあえぎあえぎそう言う。
 仕方がない。この手段は使いたくはなかったけど……。
 俺は爆裂石のはいった袋を一つ丸ごと通路に放り投げ叫んだ。

「ヌアラ様ありがとう!」

 あらかじめこの袋の爆裂石だけはすべて同じキーワードに設定していたのだ。複数の爆裂石が同時に爆破し、空間に響く凄まじい轟音。
 そして、迷宮の天井が崩れ一つだけしかない通路が石と土砂で埋まった。

 これでしばらくは援軍はない。
 俺も逃げられねーけどさ。
 まあ、こいつだけ倒せば【ネム】という女王アリを倒した時と同じく霧散するだろう。
 「女王様の敵討ち!」みたいな忠義心の篤いアリがいないといいなーと思いながら、改めて女王アリと対峙し鑑定を発動させる。



 【名前】 始まりの女王『≪テスラトルリア≫』
 【種族】 ジャイアント・アント 
 【レベル】 99

 【ステータス】
 HP  198/198
 MP 1998/1998
 筋力  99
 体力  99
 器用  99
 知力 999
 敏捷  99
 精神 999
 運勢 999

 【装備】
 なし


 【スキル】
<アリの女王>・・・アリの母にして王 1年に1回だけ新たな女王を生み出すことが出来る
<究極統率>・・・自身の肉体的な能力は激減するが統率するモンスターのステータスが倍増
<強酸の血>・・・血液が強力な酸で出来ている 神器以外の武器は必ず破損する
<悪食>・・・ほぼすべての物質を自らの栄養とすることが出来る
<融合>・・・迷宮の心臓と融合したもの すべての能力に最大の補正
<堕ちたる双子の盾>・・・常時魔法壁を展開することで物理攻撃か魔法攻撃を無効化する
<神眼>・・・対象のマスクデータを含むすべての情報を識別する
<完全回復α>・・・1回の戦闘で1回だけ自分を完全に回復する
<土の最高位魔法>・・・土属性のすべての魔法が使用できる
<緑炎>……複数の状態異常を引き起こす炎の吐息 



 ……ステータスがカンストしてるじゃねーか。
 しかも、厄介な能力もってやがる。
 俺の攻撃を防いだのは<堕ちたる双子の盾>か。
 常時発動らしいから、普段は物理障壁を張っていたのだろう。魔法使いが極めて少ないこの世界ならそれが賢い選択だ。
 幸い<究極統率>の効果で肉体的なステータスは低い。
 スキルから考えても、こいつは一撃でしとめなくてはならない魔物のようだな。


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