
smtの建築現場に関するお話が続いています。前回に引き続いて、2000年春頃からの現場での施工について時系列順に追った後、各階の内装仕上げについての解説がありました。
●smtの現場
・外装、天井、床
2000年4月に外部の足場が撤去され、6月には外装工事がスタートしました。外壁や1階の開口部、チューブ周りの天井工事などが同時に進行し、いよいよ、利用者が直接触れたり見たりする場所の仕上げに移ります。床と天井が次々つくられ、6月中にチャンバーや照明まで取り付けられました。smtの3つの要素(チューブ、プレート、スキン)が一気に出来上がっていったのです。
この段階だけを見ると、最後の3ヶ月で急速な工事を行っているように見えますが、この工期で工事を終えられるよう、あらかじめ半年以上前から設計者側で綿密な打ち合わせをして図面を承認しておいて、工場で部品の製造をスタートさせていました。
・見え方のチェック
照明の設置が進んだ7月には本設照明チェックを行い、smtの照明がどのように光るか、街からどのように映るかを何度もチェックしました。そのほか、1階のルーバー天井や、7階のシアター椅子、3階のロールカーペットなど、smtが機能するための最後の仕上げも着々と進みました。7月末には行政機関による竣工検査も行われ、とうとう完成の一歩手前となりました。
・建具と家具の設置
8月に入るとカーテン等の建具と、椅子・テーブルなどの家具が設置されました。2階の家具には建築家の妹島和世さんのデザイン家具が、1・5階の家具にはデザイナーのカリム・ラシッドさんのデザイン家具がそれぞれ設置されました。そのうえで、8月末にはもう一度改めて本設照明チェックが行われました。
●各階の内装仕上げ
[1階 plaza]
・床
600mm×600mmの正方形のギリシャ産大理石パネルが使われました。松原さんはこの大理石を使うため、実際にギリシャの工場へ赴き、大理石の状態や加工の工程をくまなくチェックしたそうです。また、点字ブロックのパネルを貼るのを避けて1つ1つの点を大理石に取り付けることで、大理石の素材感を壊さないように気が配られました。
・天井
基本的には構造鉄板を露出させていますが、オープンスクエアの上部はアルミルーバーが設置されています。このアルミルーバーは多孔質で、メッシュの様になっており、その上には吸音材を乗せて音を吸うしくみがつくられました。
・壁
ほとんどガラスでできていて、風除室のガラスは構造材も兼ねています。また、一部には「押し出し中空セメント板」というセメント板が使われました。中にリブがあって自立し、耐火性能もあるので、仕上げ用のボードや荷重を支える部材を省略することができます。
・家具
この規模の建物に不可欠なのが消火栓です。できるだけsmtの雰囲気を壊さないスマートな消火栓をつくるため、松原さんは関西国際空港旅客ターミナルのガラス張りの消火栓を参考にして、スリムな鉄板で仕上げた消火栓を実現しました。
・照明
2階のスラブのハニカムプレートに埋め込まれました。そこに固定されたライティングダクトから照明器具がぶら下がっており、角度や位置などを自由に調整できます。
[2階 information]
・床
基本的には塩ビのタイルですが、子どもの図書室はグレーのカーペットが使われました。床材を変えることで、空間の雰囲気も変化しています。
・天井
ガルバリウム鉄板でできたルーバーの間に照明が入っています。このルーバーにも小さな穴が開いており、その上にスプリンクラーヘッドと集熱板が乗っています。
・壁
2階の内壁は、掲示板スペースとなるようマグネットの使える鉄板を使い、さらにドットをシルク印刷して掲示物をきれいに並べてもらえる目印になるように工夫されました。
・家具
ガラス張りのマガジンラックなど、雰囲気を高める家具がコーディネートされているほか、妹島和世さんのデザイン家具が採用されました。
[3-4階 library]
・床
ベージュ色の長尺カーペットが採用されました。毛足の長いカーペットであるため、現在は、人が歩くところに黒い汚れがついてしまっています。
・天井
プラスターボードの上にリシンが吹き付けられています。これにより、サンド仕上げの様に見え、面にひびが入っても目立たないようになりました。
・壁
フロストミラーが使われました。サイン計画については、竣工前に文字の大きさやデザインについて何度も仙台市とすり合わせを行い、承認が得られていたにも関わらず、施工後に「見えにくい」などの理由でデザインを無視した大きな文字のシールが貼りつけられているので、松原さんは残念に感じることがあるとのことです。
[5階 gallery]
・床
松のフローリングが使われました。外壁ガラス付近は、結露防止のため、他の階と同じように床下空調の吹き出し口が設置されています。しかしそれ以外の部分については、ギャラリーという機能の都合上、床下空調の吹き出し口を自由に作れないという制約がありました。そのため、壁に空調の空気を通し、壁と天井の間から空気が噴出してくるというしかけがつくられました。
このように、条件として建築に必要になっている様々な要素をどうやって隠したり、スマートにしつらえたりできるかというのも、設計者の大切な仕事です。
・壁
プラスターボードの上に、繊維混入ケイカル(ケイ酸カルシウム)板を張り、釘を使った展示が行えるように工夫されています。釘を使うことができないプラスターボードの機能を補完しつつ、防火性能も保つことができるこの組みあわせは、現在では、美術館やギャラリーといった建築を作るうえでの常識となっています。
・照明
壁を均一に照らすことができるよう、ウォールウォッシャーが取り付けられました。アルミの板に蛍光灯の光を反射させ、その反射光が壁を照射するしくみです。壁の一部だけを照射するときのために、ライティングレールも取り付け、このウォールウォッシャーとライティングレールの両照明のコラボレーションで、ギャラリーに様々な表情を作り出すことに成功しています。
今回は、現場での認識とクライアントの認識が必ずしも一致しないことや、実現したい理想を法律や規制が邪魔をすることによる設計者の苦悩と、巧みな解決策について知ることができました。このようにsmtのプロセスと理念を学んでいくことで、他の建築を見る時にも想像を膨らませることができる色眼鏡(レンズ)を養うことができればいいと思います。
先週11月04日の授業は松原先生グッドデザイン・エキシビジョン参加のため休講でした。これにかかる補講は、11月30日土曜日の2限に行われます。ご注意ください。(柳田遼太)