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第2章の3 【遠征軍】
リュミスさんのすすけた背中
 めまいの様な感じがした。続けて頭部に鈍痛が走る。
 最悪な気分で目をあける俺。なぜか床の上に直接寝ているようだ。
 吐き気を我慢しながら身を起こすと、その拍子に額においてあった濡れた手ぬぐいがポトっと床に落ちた。手ぬぐいというかほとんど雑巾のようなバッチイ布キレだ。
 なんとなくその布キレを手に取りながら辺りを見渡すと、見覚えのあるぬいぐるみが散乱している。
 ……リュミスとかいう金髪女神の部屋だな。
 ただ、以前机があった辺りにピンクのカーテンが引かれていて奥が見えないようになっていた。
 その奥からはジャラジャラという音と時折パシンと何かを叩きつける音が聞こえてくる。

「あっ! 気がつかれたんですね。よかったー。死んじゃったんじゃないかと心配していたんですー。今日のゴミ当番は私なんです」

 どんな状況なのか分からないのでしばらく辺りを見わたしていると、ピョコンとカーテンから一人の女神が顔をだした。
 メガネの取り巻きの一人だな。以前見た記憶がある。
 つーかコイツ……どんな心配してんだよ。

「あの、俺はリュミスさんに呼ばれたんでしょうか? まだ災厄とやらを撃退してないと思うんですが……あっ! もしかして討伐軍がアリを倒したから達成扱いになったとかですか?」
「あーいえいえちょっと違いますね」

 立ち上がりながらそう聞くと、女神が「違う違う」というようにパタパタと手を振った。

「違う?」
「はい。あの、東雲様の頭に落ちてきた石が直撃してですね。それで、東雲様ってば無様に気を失っちゃったみたいなんですよね」
「はあ」

 ……無様で悪かったな。
 そういやいきなり地震がおきて洞窟の天井が崩れたんだった。
 とっさにペッポをかばったと思うんだがあいつは無事なんだろうか?

「それで、ちょっと面子が足りなかったのでいい機会だし呼んじゃえ! ってことでリュミス様が呼んだんですよ」
「面子?」
「はい。おかげさまで鬼畜メガネ本も予想以上に売れましたし、その打ち上げで麻雀やっているんですけど……一人がもう脱ぐ服がなくなってしまって。東雲様って麻雀できますよね?」

 いや、できるはできるんだけど……。
 なにか、俺は麻雀の面子が足りないから呼ばれたと。……ふざけんなって話だ。
 しかも女神が脱衣麻雀かよ。同性でやるとはレベル高いことやってんのな。

「脱衣……麻雀ですか。さすがにちょっと……。それよりもあの、ペッポという妖精は無事なんでしょうか? 確か一緒に崩落した場所にいたと思うんですけど?」
「残念ですがペッポは無事のようですね。ああ、彼女が知らせたようで、東雲様の体もお部屋の方に運ばれているみたいです」
「あっそうですか。よかった」

 あの場所に無理に連れ出したのは俺だからな。とりあえずは一安心だ。
 俺の体の方も生き埋めは免れたみたいだし。

「そんなことより、麻雀ですけど、出来ますよね?」
「いえ、出来ますけど……ですから女性にまじって一人だけ男の俺が参加するのも……ねえ?」

 いや、俺以外は皆女性と言う状況での脱衣麻雀は興味があるけどさ。
 だけど、あのリュミスとか言う女神ってばメガネに負けず劣らず性根が腐ってるからな。
 下手に勝ったら目を潰されそうだ。
 鑑定しようとしただけでおっそろしくひどい傷みだったし。

「大丈夫ですよ。脱ぐのは東雲様だけですから。さすがに人間風情に肌を晒すぐらいなら死んだ方がマシですからね」
「……」

 本気で女神ってヤツにはロクなのがいねー。と改めて思うな。
 だいたい、その条件で俺に何の得があるんだという話だ。
 俺に露出の趣味はない。
 銭湯や温泉に入る時だってしっかりとタオルで隠して入るのだ。公衆便所で用を足すときも隣から覗かれないように細心の注意を払う。
 それが社会人として。いや、人としての礼儀だと思うのだ。
 けっして俺が下半身に自信がないというわけではない。ないったらない。

「せっかくのお誘いですけど、色々と俺も用事があるので元の場所に戻していただけませんか?」
「まーまー。どうせしばらくは気絶したままですからここで過ごすしかありませんよ? それに万が一東雲様がお勝ちになれば豪華景品を差し上げますから。ね、ね。やってくださいよー。次回作のインスピレーションにもなりますから」

 嫌なインスピレーションだな。
 だが、豪華賞品ねえ。ちょっと心が揺さぶられるな。

「豪華賞品……ですか。具体的にはなにがいただけるんですかね?」
「それは後のお楽しみってヤツですよ。ただ、スキルとかだとラン様にばれた時に言い訳できませんから服とか指輪とかですね」

 どうやら思いっきり私用っぽいね。
 金髪おっぱいはメガネに比べると公私混同とかルーズだよな。
 だけどよく考えてみればコレはチャンスだ。勝てば豪華景品で負けても服を脱げばいいんだろ?
 恥ずかしいっちゃ恥ずかしいけど、別に我慢できなくもない。
 女神どもが組んで打ったとしてもワンチャンスはあると思うのだ。

「ですが女神様だと運も凄く強そうですね。それに俺のスキルに幸運もあるんですが……」

 一応探りを入れてみる。
 役満連発とかされたら勝負にすらならないしな。

「それは大丈夫です。因果律を排除する特殊な結界を張ってますから。ほら、このピンクのカーテンです。ですから女神だろうが牛乳を拭いた後の雑巾みたいな臭いの人間だろうが条件は変わりません」

 俺が乗り気になったのを察してか、女神の方も言葉を強める。
 てか、無駄にしっかりとしてんだな。
 まーその条件であればやってもいいかな? 
 負けてもデメリットはほぼないし。

「お願いしますよー。最近覚えたんですけど、ちょっとみんなでハマってるんです。いつも同じ人とばかり打ってますから偶には違う人とも打ちたいんですよね」

 ほう。最近覚えたのか。……コレはチャンスだな。
 実のところ、こう見えても麻雀は自信があるのだ。社会人のお付き合いとして麻雀は結構やっていたし、なにより学生時代に思いっきり打ち込んだのだ。
 まあ、大学を5年かけて卒業するという代価を払いはしたが、就職面接で「学生時代に打ち込んだことは?」と聞かれて「麻雀です」と答えたぐらいなのだ。

 勘違いしている人もいるだろうが、基本的に麻雀は実力が如実に出る。運も絡むが、それでもある程度の回数をこなせば実力通りの結果になることが多いのだ。
 まっ女神連中には悪いが、この俺に負ける要素はないと言わせていただこう。

「それじゃあせっかくですからやりましょうか」
「はい。ありがとうございます。あっ! ルールはアリアリですからね。他の細かいルールはやりながらということで」

 そういって女神はなんかちょっと目を輝かせた。

「それで、コレが大事なんですが洋服の方はマイナス30につき1枚脱いでいただきますからね。景品は100で一つで」
「分かりました。お手柔らかにお願いします」

 そういって俺は指にはめた願いの指輪をそっと触った。


 ☆★☆★☆★☆★


「あっ! そのイーピンです。ロン。チンイツ、一通、ドラドラで倍満ですね」

 俺の言葉に金髪の顔がゆがんだ。
 まあ、コレで3連続トビだからな。気持ちは分かるよ。
 女神達は弱かった。とことん弱かった。まだ、覚えたてのようで牌効率がなってないのだ。そもそもオリルという発想がないらしく、ノミ手であってもむかってきてくれる。
 素晴らしいカモだ。

「これでリュミスさんが箱ワレですんで精算ですね」
「……なんでよ」

 呻く様に金髪が怨嗟の声をあげた。

「私は何一つとしてコイツに劣るところはないのに、どーして勝てないのよ」

 ザマー。
 負け犬がほえてる。超気持ちいい。

「なんだかスイマセン。ツイてるんですねきっと」

 とりあえず殊勝げにそんなことを言いながら勝敗表を手元に引き寄せ今回の結果を書き込んでいく俺。

「えっとリュミスさんがマイナス50で、ラウラさんがマイナス10。ルフランさんがマイナス12なんで私がプラス72ですね」

 金髪おっぱいはふてくされたように無言で洗牌をはじめた。

「それで、今回でリュミスさんのマイナスが500超えているんですが……まだやりますか?」
「……調子に乗るなよ三下が。やるに決まってんだろ!」

 すでに金髪は冷静な判断が出来ない状態のようだ。
 言葉遣いも素に戻っている。

「ちょっとリュミス様。ヤバイですよ。この人に勝てる気がしないんですけど」
「そうですよ。これ以上負けたら景品に渡すものがなくなっちゃいますよう」

 同卓の女神二人は多少冷静なようだ。
 勝ち目が無いと悟っているらしく、口々に金髪おっぱいをなだめている。

「……お前達悔しくないの? 人間風情にいいように負けて。ミューに知られたらあの売女になんていわれるか」
「でも……」
「デモもストもないの! それに負けてもあんた達の私物を景品にするから安心なさい」
「えっ!」
「そんなあ」
「だーかーらー、みんな死ぬ気で頑張るのよ! 次回は作戦Xで行きます。サインをだすからみのがすんじゃないわよ」

 ひでえ上司だな。
 つーか、どうでもいいけど、対戦相手の目の前でイカサマの相談すんなよと。
 まっ、俺もあまり人のことはいえないけどな。
 そんなことを思いながら、俺は右手の願いの指輪をしっかりとはめなおした。

 そして始まる半チャン。
 皆手が遅いらしく、しばらくパチンと牌を捨てる音が続いた。警戒していたのだが金髪おっぱいからの合図とやらもない。
 と、積もった金髪がニヤリと笑った。

「ちょっと喉が渇いたわね。白湯もらえるかしら?」

 後ろで見ている女神達にそんなことを言う。 
 なんだろう?
 その疑問はすぐに氷解した。すぐに女神の一人が白牌を捨てたのだ。

「ポン!」

 まってましたとばかりに金髪が鳴く。

「やっぱり白湯じゃなくて緑茶頂戴」

 すぐに緑色の發牌が切られた。

「ポン!」

 ……ヤロウ。なんて強引なことしやがんだ。見栄も外聞も捨てたらしいな。

「プーアール茶にするわ。中国のお茶ね。中」

 大三元にめがくらんだのか、すでにサインですらないのな。
 すぐに中牌が捨てられた。

「ポン!!」

 満面の笑みを浮かべて大三元、役満を確定させた金髪。
 パオを考えてもあがればトップはほぼ確実だろう。
 だが!

「いえ、それで当りです。チートイドラドラで6400」

 そう宣言して俺は手牌を倒した。 
 まあ、アレだけあからさまにやられたら誰だって中牌で待つ。というか捨てられないからな。
 呆然と俺の手牌を眺める女神達。
 金髪おっぱいリュミスは死んだ魚さんのような生気のない表情だ。
 ポキンと何かが折れる音がしたように思う。 

 フッ。
 リュミスさん。
 あんた背中がすすけてるぜ?


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