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第2章の1 【黒き災厄の足音】
リュミスさんと高度な情報戦
 めまいのような感覚がする。
 ついにきたか……久しぶりだなこの感覚。
 システム的な理由なのか、それとも単にリュミスとか言う金髪女神にやる気がないのか知らないけど、今回は全然呼ばれなかったんだよな。
 前回なんぞほとんど毎日メガネに呼ばれていたのだが。
 まっレベルアップしてないので当然か。
 と、そんなことを思いながらエルナに殴られて痛むアゴをさすりさすり目を開ける。

「……なんだこりゃ?」

 思わずもれる独り言。
 相変わらずぬいぐるみやら小物は置いてあるが、金髪女神の部屋の様子は以前と一変していた。
 いくつか机が持ち込まれ、鉢巻姿の女性が数人、机に覆いかぶさるようにして作業をしている。
 カリカリと音を立てながら何かを必死に書いているようだ。
 本来は綺麗な人たちなんだろうけど、みんな目の下にクマを作ってるから台無しだな。
 足元の床には栄養ドリンクらしき小さな小瓶が散乱し、紙くずがゴミ箱からあふれているのが見て取れた。
 そんな部屋で髪を振り乱した女神らしき女性たちが、ひたすらつかれたようにペンを動かしているのだ。ぶっちゃけなんか怖い。

「ラフラン! 台詞を変えるんじゃないっていってるでしょ? ネーム通りに修正して」
「でも……佐々木はそんなこといわない」
「うるせーよ。つべこね言わずになおせってんだろ。ぶっ殺すぞ。印刷所の締め切りは明後日なんだから」
「でも……」
「デモもストもねーんだよ。落ちたらどうすんだよ? ああ? またコピー本で誤魔化すのか?」

 時折飛び交う怒号や悲鳴。
 およそ女神様……ってゆーか女性が使っていい言葉ではない。
 しかもだ。この部屋なんかすえた臭いがするんだが……。
 女性の部屋のにおいじゃねーなここ。
 そんなことを考えながら部屋を見渡していると、作業がひとだんらくしたのか机から顔を上げ大きくノビをした女性と目があう。

「……」
「……」

 まるで恋人のようにしばし見詰め合う俺とその女神。
 ニコ。
 どんな表情をすればいいのか分からなかったので、とりあえず笑いかけてみる俺。

「ああっ! リュミス様! リュミス様! 大変です!」
「んだよ。こっちは今ペン入れしてるんだから騒ぐんじゃない。蹴り殺すぞ」
「でも、あの、もう来ちゃってますよ」
「あー? 来てるってどこの抜け作……あっ」

 机にへばりつくように何かを書いていた金髪女神が機嫌の悪そうな顔を上げる。
 その目が俺の姿を捉え……。一瞬雷に打たれたように固まる。
 バッっとはじかれたように立ち上がると急いで机から立ち上がり俺の前に駆け足でやってきた。

「あらあら東雲様。またお会いできて嬉しいです」

 そういいつつさり気なく額にまいた「締め切り厳守」と書かれた鉢巻を取る金髪女神。相変わらず爆乳が存在感たっぷりだけど、他の女神のように目の下にクマを作り、なんだか憔悴しているようだ。たぶん徹夜明けなんだろうなコイツ。

「しかしお早いおつきですね。久しぶりの獣姦ですのでもう少し遅くにいらっしゃるとばかり」

 獣姦とかいうなや。
 家宰のジーさんに念押しされたからできなかったんだよ。
 昨夜エルナが部屋に来たので色々と話していたらいい雰囲気になったんだ。
 コレならいける! と思ったので抱きしめて耳元で「お尻とかどうかな?」と提案したらおもいっきりぶん殴られたし。

「まあいろいろありまして……ね。それよりも、あの、なにをしてるんですか? 随分とお忙しそうですけど?」

 俺の質問になぜかツイッと視線をそらす金髪女神。

「さて。今回お呼びしたのはほかでもありません。第一の災厄を無事跳ね返した東雲様に、達成ボーナスとしてスキルの付与があるのです」
「いや? なにをしているん……」
「そういうわけですので早速ではありますがお選びください」

 会話のキャッチボールができない。
 金髪おっぱいは説明する気がないらしいね。強引に押し切るつもりのようだ。

「……それでその、新しく頂けるスキルというのはなんでしょう?」
「はい。ええっと……」

 いつの間にか取り出したバインダーをバラパラとめくり始める金髪おっぱい。

「達成が撃退までですから、今回は<上級統率><魔の素質><巨根>の3つから選んでいただくことになるみたいですね」
「ええと、スキルの説明とかは?」
「残念ですけれど今回はお教えできませんね。達成率が足りていないようですから。大湿地の女王を討伐すればお教えできたのですけれど」

 あの状況で大湿地の女王アリを討伐できるわけないだろ。
 無茶を言ってくれる。大体、撃退も幸運に恵まれたからできたのだ。どうやっても大湿地の女王アリとか討伐できるわけない。
 やはり今回はかなり難易度が高いようだな。
 となればだ。ここでのスキル選びは本気で生死を分かつかもしれない。

 ふむ。
 しばし本気でスキル選びを考える。
 そんな俺を興味津々と言う感じで目の下にクマを作った幸薄そうな女神達がみていた。
 作業そっちのけで俺を見てはひそひそと何か話しているようだ。
 ちょっと照れるな。

「ねえねえ誰? 何で人間なんかがここにいるの?」
「ほらあのラン様のおもちゃの」
「あー。ナプールの彼? 随分ナプール戦記の絵を違わない?」
「あなたはまだまだねー。逆に考えなさいよ。ちょっと不細工の方が脳内変換できるじゃない」
「なるほど!」

 なるほどじゃねーよ。
 ……いや、こいつらは無視だ、無視。下手に話しかけると恐ろしいことが起こりそうな気がするし。
 気を取り直し、あらためて考え始める俺。

<上級統率>は知ってるな。
 シルクと互角に戦ったあの回避特化リザードマンが持ってた記憶がある。率いている兵士の能力を上げてくれるスキルだろ?
 おそらく<魔の素質>は魔法が使えるようになるのだろう。姫様が持ってたような気がするな。
 つまりだ。集団戦をとるか個人戦をとるかということか。

 ……<巨根>はネタ枠だろうか?
 正直物凄く興味はあるが……だが! だがしかしだ!
 こいつら女神は信用できないからな。限度とかしらなそうだし。
 馬みたいなもん付けられても……なんだ、その困る。エルナはともかく姫様は初めてだろうしさ。大体、多少不満があっても30年連れ添った息子と別れるなんて……な。

「さあ東雲様。どれになさいますか? 少々仕事が忙しいですから早く決めていただきたいのですけれど」
「仕事?」
「仕事です」
「さっきもお聞きしましたけど……どういった仕事なんでしょうか?」
「……どれになさいますか?」

 うむ。会話ができないぞ。

「……そうですね。それじゃあ<上級統率>でお願いします」

 アリの大群を考えると、今回は魔物の数が多いような気がするんだよな。
 それなら個人的な戦闘力よりも集団戦の戦闘力を高めたほうがいいだろう。

「はい。ではそのように」

 金髪おっぱいのかざした手から黄金の光があふれ俺を包み込む。
 同時にステータスが脳裏に浮かんできた。


 【名前】 東雲圭
 【職業】 ヒモ 
 【レベル】 63

 【ステータス】
 HP 830/830
 MP 830/830
 筋力 415
 体力 415
 器用 415
 知力 415
 敏捷 415
 精神 415
 運勢 415

 【装備】
 右手 《MURASAMAブレード》
 左手
 頭部 《ヒルデグリム》
 胴体 《メリディオン》
 脚部 《ヴィーザル》
 装飾 《リュミスの指輪》
 装飾 願いの指輪

 【スキル】
<上級統率>・・・統率する兵士のステータスに補正
<神殺し>・・・凄く痛かったんですよね 絶対に許さない
<伝説>・・・最も新しい伝説を紡ぐ者 すべてのステータスに大幅な補正
<英雄>・・・少女を救ったアクメド商店街の英雄 レベルアップ時すべての能力にボーナス
<制限解除>・・・レベル制限99まで解放
<幸運>・・・幸運になる
<究極鑑定>・・・見えるすべてが見える
<再召喚者>・・・美しき地母神【ミュー】によって再度異界より召喚された者
 経験値倍増P・・・パーティメンバー全員の取得経験値2倍
 刀の心得・・・剣道2段の腕前
 第二種免許・・・車ないですけどね
 14歳から大丈夫・・・なにが大丈夫なんだよペド野郎
 獣だって大丈夫・・・種族を超えて愛情を育むもの 要するにケモナー



 ……職業に悪意を感じる。
 確かにお金は稼いでないけどさ。ヒモはねーだろヒモは……。
 これ領主にならないとずっとこのままなんだろうか。

「それでは東雲様。貴方様にはラン様も多少期待しておりますので頑張ってくださいましね」

 金髪おっぱいの言葉と共に再度あふれ出す黄金の光。
 なんか少しでも早く俺をここから追い出したいらしい。いや、いいんだけどさ。メガネのように俺をおもちゃにしないだけまだマシだろう。と前向きに考えてみる。

「おらおら、お前ら締め切りは明後日なんだから作業にもどれ。今回は壁なんだからな。絶対に落とすんじゃないぞ。手が空いた奴は高度な情報戦の用意だ」

 そんな金髪おっぱいの怒鳴り声を聞きながら俺の意識は暗転した。


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