秋の「行政事業レビュー」が始まった。民主党政権が始めた「事業仕分け」の安倍政権版だ。効果には疑問も残るが、「行政改革」を死語としないよう、行政の無駄撲滅に本気で取り組んでほしい。
遅きに失した感がないわけではないが、安倍晋三首相はようやく行革に取り組む姿勢を見せ始めたのだろう。各府省の事業に無駄や見直す余地がないかを、有識者が公開で検証する秋の行政事業レビューである。
十五日までの三日間、十府省の計五十五事業を対象に、有識者が各府省の担当者から事業の狙いや効率性を聞き取り、改善点を指摘する、という。公開で行われ、インターネットでも中継される。
初日は文部科学省の「グローバル人材育成事業」や農林水産省の「新規就農支援事業」など二十一事業が対象となった。
首相は昨年十二月の就任後、経済再生を最優先に掲げてきた。来年四月からの消費税増税を前に行政の無駄削減に取り組む姿勢を示さなければ、国民の反発を招きかねないとの判断があるのだろう。
国民の税金が無駄な事業に使われ続けては目も当てられない。消費税増税の有無にかかわらず、政権が行革に取り組むのは当然だ。
原発稼働の継続や特定秘密保護法案の成立、「集団的自衛権の行使」容認に使う政治的エネルギーがあるのなら、まずは行政の無駄撲滅に回すべきではなかったか。
ただ、今回の行政事業レビューが本格的な歳出削減につながるのかには依然、疑問が残る。
きのうから始まった作業は、事業に無駄がないか各府省が自ら検証した「レビューシート」を政府の行政改革推進会議が点検し、不十分とされたものだけが対象だ。対象とならなかった事業に無駄がないとは言い切れまい。
また、民主党政権当時の事業仕分けで、最も重い政策判断だった「事業廃止」はなくなり、「抜本的改善」に統合された。識者の議論がまとまらない場合は複数の判断を併記することも認められた。
これでは、事業継続の可否が結局、各府省の判断に委ねられることになってしまわないか。
首相は秋のレビューにあたって「国民の税金が無駄な歳出に使われるとの批判を招かないよう、しっかり取り組む」と強調した。
その決意は多とするが、今回のレビューにとどまらず、予算削減に対する官僚の抵抗を押し切り、行政の無駄をなくせるのか。首相の覚悟が問われる局面でもある。
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