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リズワディア学園編
勇者、再会する
生徒達に見送られ学院の外に出たものの、俺は三人が居る場所などわかるはずもなく荷物を取りに子猫の撫で声亭に戻る事にした。
ベルナデットに別れの言葉の一言でもかけようと思っていたのだが、撫で声亭にはベルナデットの姿は無かった。

「嬢ちゃんならまだ帰ってないぞ?」

厨房から顔を出したおっさんに質問しようとしてた事を先に言われ、俺は上げかけた手を下げる。

「嬢ちゃんが帰って来たら伝えといてやろうか?」

……なんでアンタはそんなに気配り上手なんだ!
もはや俺の思考を読みとってるとしか思えんぞ?

「んじゃ、頼もうかな」

「別れの言葉を言伝、っつーのは頂けねぇぞ?」

「アンタはエスパーか何かか!?」

「馬鹿野郎。……ただ、人生の先輩ってだけさ」

「フッ」と笑いながらコップを拭くおっさん。場所が違えばマスターと呼んでいたかもしれないくらい、渋く見るぜ……っ!

「お前はなぁ、顔云々の前にそう言う所があるからモテねーんだよ」

「なんだよ、説教か?」

「アドバイスと呼べ、馬鹿勇」

カウンター席に俺が座ると、おっさんは拭いていたグラスにミルクを注いで俺の前に出す。

「男に、しかも俺に濃厚ミルクを飲ますとか誰得だよ」

「ウチはガキの食堂じゃねーんだよ。置いてあんのは酒か水、そしてソイツだけだ」

そう言って俺の隣の席に腰掛けるおっさん。
仕方なく飲んで見るとあら不思議、飲み口爽やかだ。

「コレうめぇな」

「珍獣ファンシーシープのミルクだ。結構高いんだぞ?」

ファンシーシープってあれか? 歯むき出しで、下品なピンク色した毛の羊。女性曰く可愛いらしく、ファンシーシープのグッズも見かけるくらいの大人気の魔物。
基本的に無害だが、恐怖を感じると神経毒のガスを周囲にばら撒いて逃げると言う、珍獣。

「あんなゲテモノからこんなうまいもんが出るたぁ驚きだ」

「ゲテモノは美味いと相場が決まってんだよ」

おっさんも俺もあの珍獣を可愛いとは思えない立場の人間なため苦笑気味だ。

「もう、行くのか?」

「……まぁ、少し長くいたくらいだしな」

「そうか。……久しぶりに会えて、楽しかったぜ?」

そう言っておっさんは俺の髪を掻き乱して厨房へ戻って行った。

「……くそ、なんか調子狂うな」

乱れた髪を軽く直してから立ち上がり、俺は子猫の鳴き声亭を後にした。



「クケー」

「あー、だから拗ねんなって」

銀色の羽並みのクルケル、ズィルバ。シルヴィアから借り受けたコイツなんだが、当分またがってやってなかったせいかご機嫌斜めだ。

「クケー」

「うわ、突っつくなよ。んあ? これがどうしたんだよ」

突然後ろから突っつかれ振り返ってみると腰につけたポーチ型魔法袋(四次元ポケ的な)が標的のようだ。

なんて思ってるとポーチの止め具を外し、俺の脚を咥えやがった。

「あし? ……ファッ!?」

気が付くと俺はズィルバに咥えられ宙ぶらりんになっていた。

「のああっ!? ズィルバ! テメェ、焼鳥にされたくなけりゃいますぐぅわっ! よせっ! やめっ! ろおぉ!! やめてええええぇぇぇッっ!」

ズィルバに怒鳴り降ろさせようとすると、ズィルバは俺を上下に、まるでバックの中身を全部ぶちまけるかのように振りやがった。
そして真実その通り、寝具に食器に着替えに短剣に投げ槍に双剣に、ポーチに詰め込んでいたものが全てガシャガシャと音を立ててぶちまけられてしまった
そして最後にズィルバは振り子のように、

ぽいっ。

俺を放り投げた。

「げふっ! ……うぎぎ、このやろぉっ……ん?」

顔面から落ち、立ち上がりながら痛みに耐えていると、散らばった物の前で脚を曲げ姿勢を低くする。

「……あれか? お前が乗らないならこの荷物を載せろって事か?」

「クケー」

俺の問いに、ズィルバは間延びした鳴き声で返す。
クルケルは馬と並んで人気のある騎乗可能な動物の一つだ。一部地方、特にリーゼリオンでは神鳥だとかで馬以上に普及している。
クルケルの最大の特徴としては、脚力だ。最高速度では馬を軽く凌駕し、どんな重たい荷物でもも難なく牽いてしまうくらいに強力だ。
しかしその一方でスタミナが無く、全力で走れば十分も持たない。そして馬以上に臆病で神経質だったりする(言わずもがなズィルバの神経は図太い)。

そんなクルケルだが、背に何か重い物を載せるのが好きと言う、変わった趣向を持つ。

ズィルバは、「乗らないなら、せめて載せろ」と言いたいのだろう。散らかした荷物の前で動こうとしない。

…………。

「わかった。しかし槍とか危ないもんは却下だぞ?」

ズィルバはコクコクと頷き、ポーチから一緒に零れていたらしい縄をクチバシで啄ばみ、俺に渡してきた。
これで巻け、って事ね。やれやれだぜ。



「社、くん?」

「あ?」

短剣や槍といった、生活用品とは決して言えない物をしゃがんでかき集めてポーチの中に流し込んでいると、突然声を掛けられた。
聞いた事のある声だなぁと思いながら振り返ってみると、そこには礼装のような白い服を着たイケメン君が俺を見下ろしていた。

「やっぱりか! 驚いたな、まさか本当にいるなんて!」

イケメン君が差し出した手を掴むと、イケメン君は俺の腕を引っ張って俺を立たせた。

「久しぶりだね、社君。ノルンさんから旅に出たって聞いてもしかしてって思ってたんだ。だけどまさか、本当に居るとは思わなかったよ」

イケメン君は笑みを絶やさず俺の肩を叩く。
しかしそんな友好的に接してくれてるイケメン君を半ば無視するように、俺はイケメン君の口から漏れた言葉を頭の中で反芻していた。

(間違いない。間違いなく、ノルンって言ったよな?)

俺が居なくなってどんな事があったかは知らないが、どうやらイケメン君達は婆ちゃんと接触したらしい。……さて、婆ちゃんは俺の事をどう伝えたのか……。

「ば、……ノルンさんの事、知ってるのか?」

「ああ。と言うか、君が彼女の元に行ったって聞いた時から名前だけは知ってたんだが、リーゼリオンって国の女王様が紹介してくれて初めて顔を合わせたんだ。その時に君が旅に出たって言うのも聞いたんだ」

リーゼリオン……シルヴィアか。

そういやあの時、ルクセリアは戦勝記念だかなんだか祭りっぽい事してたっけな。
大国であるリーゼリオンの皇帝が政治パーティーに誘われるのも当然か。アイツそう言う堅っ苦しいの大好きだし。

「それにしても元気そうで良かったよ。突然、社君が護衛術を覚えるために、ギルド長のノルンさんの元に行ったなんて聞いた時には驚いたよ。……僕達も色々あったし、気にかけるくらいしかできなかったんだ」

……なるほど、そう言う設定なの、婆ちゃん。

しかし色々、ね。 
確かアグニエラとやり合ったってのは俺が居なくなった後だっけ?
幾つもの死線を越えて、今ここに居るって感じなんかね。一瞬だが、イケメン君の表情にかげりが見えたんだ。

「悪いな、心配させちゃって」

「良いさ、気にしないでくれよ。こうして息災だと知れたんだ。それで十分だ」

何コイツ。マジで性根からイケメンなの!?
お待たせしました、最新話です。

書籍化に関する沢山のコメントやメッセ、真にありがとうございます。
五月頃に書籍化の話が舞い込んで来てから二ヶ月以上が経って漸くご報告できてほっと一安心です。

さて少し冷静になったものの、とある都合で書籍化の詳細をお伝えする事はまだできません。

しかし敢えて言うならば、「キャラのイラストは私のイメージ通り」だと言う事です。

ではまた次回、お楽しみに!


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